6.お茶会に出席しましょう(1)
「流石王妃様が主催するだけあるわね。やっぱり格が違う」
顔見知りの令嬢と挨拶を交わしながら、相手に聞こえないような声で思わずぽつりと呟く。綺麗に整えられた広い庭園に、たくさん並んだ立派な造りの椅子。そして、幼い貴族の子息、令嬢が家格を問わずに招待されたものだから、出席している人数がエレノアの知るお茶会よりも随分と多い。
あらかた挨拶は終わったので、外れの方のバラ園を見に行ってみようと足を運ぶ。今は薔薇のちょうど見頃の時期で、色とりどりのバラが咲き誇っているのだとフェリクスから聞いたので、とても楽しみだ。
「貴女なんてしがない男爵令嬢なんだから、こんな場所は似合わなくてよ。さっさと帰ってはどう?」
どうしたのだろうと、物陰からそっと見てみる。すると、数人の令嬢たちが輪を作り一人の令嬢を囲み、聞いていて気分が悪くなるような言葉を投げかけている様子が目に入った。
(あれは、確か伯爵家のご令嬢と、取り巻き達だったかしら。……嫌なところに遭遇しちゃったみたいね)
ここ、アーテヴァイン王国の貴族社会ではこんな光景は珍しくはなく、いくら幼いからといっても例外ではない。まぁ、聞いていて不愉快なのは間違いないが。ここで素通りしても気がかりなままで、バラを見たとて気分は晴れないだろう。それなら、と令嬢達に話しかける。
「ねぇ、貴女達。随分と楽しそうなことしてらっしゃるのね?そんなことして何がいいのか知らないけれど、今の貴女達の顔、見るに耐えませんよ。キャンベル伯爵家のローズ様と取り巻きの方々」
「エ、エレノア様!?どうして、ここに」
ローズと取り巻き達は、目を大きく見開いて、エレノアを見る。その瞳はひどく怯えていて、なんだか悪いことをしているみたいだ。普通の令嬢なら怯えられたことに少しは傷つくのだろうが、未来の悪役令嬢であるエレノアにとってはなんてことなく、むしろ喜びで頬が緩んでしまう。
(もしかして今の私、いかにも悪役令嬢なんじゃないかしら?こんなに怯えた顔にさせちゃうんだもの、やっぱり8年後に本職にするだけあるわね)
「バラ園が見頃だと聞いたので、見に来たのよ。勿論貴女達もそうよね?」
エレノアも慈悲がないわけではないので、ローズ達に、しがない男爵令嬢に寄ってたかって悪口を言っているのではなく、ただバラ園にバラを見に行く途中だと、そう逃げ道を作ることにする。誰だって自分の外聞が悪くはなりたくないだろうし、エレノアがそのきっかけを作ってしまうのも気が引ける。
「は、はい、バラ園のバラが綺麗だと聞いたので、見に来たんですわ。それで、行く途中に会ったこの令嬢とお話してたんです」
「そうよね、王城にしかない青いバラが満開なんですもの。見に行きたくもなるわ」
ローズ達はそう言った途端に小走りでエレノアのもとを離れていく。残されたのは、エレノアと男爵家の令嬢だけだ。