4.第二王子と会いましょう(3)
(フェリクス様、呆れているに違いないわ。あぁもうなんてこと言ってしまったのかしら)
ただ、てっきり表情が変わらない人だとばかり思っていたフェリクスのその柔らかい表情は、そんなことなんて吹っ飛んでしまうくらいにはかっこよくて。姉があんなにも推していた理由がわかった気がした。
「俺がじゃがいも、か。あんた、随分とおかしなことを考えるな」
素の一人称は俺なのだろうか、なんだかフェリクスの話し方がくだけた感じになったような気がする。エレノアがそう思いたいだけだとは思うが。
「う、自分では名案だと思ったのですが…」
エレノアとしてはそんなにおかしなことを考えたつもりはなかったので、軽くショックを受ける。前世ではこれで全校やクラスでの発表の場を乗り切ってきたというのに。
「まぁ、何回も会えば緊張もしなくなるだろう。これからよろしくな、エレノア」
「は、はい…」
そんなエレノアを気にしもせず、フェリクスはエレノアの方へと近づいていき、柔らかい笑みをみせた。
(…なんでだろう、頬が熱い)
この金色の瞳に見つめられると、どうにも落ち着かなくなってしまって、頭が真っ白になってしまう。
そんな様子を見てフェリクスが面白がっているとは露知らず、エレノアは王城を後にしたのだった。
「エレノア、今日はどうだった?」
馬車に乗り、帰路につく最中にギルベルトがそう話しかけてくる。
「やっぱり緊張しました…。だけど、無礼なことは多分しなかったし、ちゃんとお話することができたの!」
「よかったね、エレノア。今日はゆっくり疲れを癒すんだよ」
「はい」
そう言ってギルベルトは優しく頭を撫でる。ギルベルトのその言葉だけで、さっきまでの疲れが幾分と和らいだ気がして、へにゃ、と自然と表情が緩む。
(それにしても、フェリクス様、笑わない人だとばかり思っていたけれど、案外親しみやすい人なのかも。仲良くなれればいいな)
* * *
「ーーア。エレノア、着いたから一度起きようか」
「むにゃ、もう、着いたの…?」
どうやらいつのまにか眠ってしまったようで、目が覚めると既に馬車は屋敷の前に到着していた。まだ寝ぼけた頭で馬車から降り、屋敷へと入る。
「ただいま」
「おかえりエレノア、お疲れ様」
「ありがとうございます、アルお兄様!」
「エレノア、それでフェリクスとはどうだったんだ?」
そう声をかけると、アルトゥールとレオンハルトが同時にエレノアの方へ寄ってくる。
「ちょっと話しただけだからわからないけれど、良い人そうだったわ。もっと無表情で無口な人だと思ってた」
それに、あんなに柔らかい笑みを浮かべるとは思ってもいなかったので、今も思い出しただけで頬が少し熱い。
「そうだろ!あいつは良い奴なんだ」
レオンハルトはフェリクスのことをまるで自分のことのように嬉々として話す。同い年なこともあって、それほど仲が良いのだろう。
(どうしよう、疲れたからかしら、すごく眠いわ…今にも寝ちゃいそう)
疲れのせいか、眠気が急激に襲ってくる。兄と言葉を交わしながら、早く自分の部屋に戻って休もうと心に決めたエレノアだった。