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1/20000と言われても

作者: トメイロウ

「私がやらないと駄目だから」

うわ言のような言い聞かせも5度目となりました。

残りの仕事を数えだしたい衝動をぐっと抑え、次の自動人形を作業台の上に乗せます。

赤黒い光沢を見せるそれは壊れ、目的を失ったようには見えず、道具としての自覚と気品がいまだに宿っています。


しかし私は潰すしかないのです。跡形もなく。

印籠を渡す、そういうお仕事なのです。



一つ一つ趣向の凝らされた自動人形は破片となっても面影を残し、つぶす前の姿が目に浮かびます。

たくさん壊して、積み上げて、やっとガラクタとしての統一感が出始めるのです。

そのためガラクタの山は部屋の大部分を占拠しながらも片付けられることなく、今や私の背を超えるほど大きく育ってしまいました。そしてその巨大さは窓から差し込むほとんどの光をくすめ、部屋に日没直後のようさみしさを漂わせるのです。


そのような部屋の中で順番を待つ自動人形は最後のあがきと壊れると同時に淡く瞬き、光をこぼします。光の粒は逃げるように部屋を走り、薄い暗かった部屋はまるで夜空を写し取ったような幻想的さを演出されるのです。


そんな人を魅せる柔らかい光はあてつけるように私を照らし上げます。

だらしなくあいた口、血走った目、体より大きなハンマー、追い立てられているような焦燥感。

私の歪さすべてを浮き彫りにしていることでしょう。


こんな姿は人に見せられません。

催促に人を寄こされないように今日もたった一人、黙々と仕事に取り組むのです。


今私がおかれている現状は壊し屋に任命された際に調べた職場環境とは大きく異なっています。

自動人形を完全に破壊するためには大掛かりな装置が用いられ、6人のチームでの作業が必須という説明を受けたはずでした。しかし現在の私は自室にこもり、一人っきりの作業です。


うれしい誤算があったとすれば、私みたいなのがあと5人も集まるという困った想像が実現しなかったことです。

精神的な平穏は守られました。

しかし代わりに身体的な限界が来ています。

私は今、休みなく五時間、機能性を感じさせない武骨なハンマーを振り下ろし続けています。ハンマーがぶつかるたびに走った手のしびれもいつからか感じなくなりました。


そのようなボロボロなコンディションで振り下ろされたハンマーは芯をとらえることはなく、自動人形を作業台から弾き飛ばします。


「ああーしまっ」

すぐに振り向むいてハンマーを構えますが同時に光の爆発が、目を焼きます。そして光に押されるようにのけぞり、作業台にゴツンと腰を打ち付けます。


しかしひるんでなんていられません。痛みをこらえながら、カンを頼りに全力潰しにかかります。

二回の空振りにより床をたたき割ったあと、パッキと自動人形を潰した感触が感じられました。


ひと段落。あとは床の被害が少ないこと祈るだけです。


だんだんと目が慣れ始め、床の様子もぼんやりと見え始めてきます。

床には叩き割られた小さな二つの穴、それと千切り取ったかのような大きなくぼみが出来上がっていました。


くぼみの中央にくっつく半分に割れた木の塊を床からむしり取り、ガラクタの山に放ります。

「この程度ならセーフですね。」

部屋の隅に空いた大きな穴を見ながらつぶやきます。だんだんとミスのリカバリーが上手くなってきている自分を少し褒めた後、作業台へ向き直り、私は再びハンマーを振り下ろし始めます。


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