もしも彼が王国との戦いを決意するなら
俺の目の前で一匹の化け物が蠢いている。犯罪者達が入れられる檻の中で、今も肉体を変化させながら人間と竜の中間のような不気味な姿を晒している。それはかつての俺の妻……俺が仕えていた王国の王女様の成れの果てだ。
それは、人間の言葉と獣の泣き声が混じった様な、酷く耳障りな音を発している。だけど俺はその音を余すことなく聞いている。人間の言葉は単語の羅列、獣の声は悲鳴のような……ひどく不快な気分になってくる。せめて言葉は聞き逃さないようにと俺は不快な気分に耐えながら耳を傾けている。
今も所々人間に戻ったり、竜のような鱗のある姿に戻ったり、趣味の悪い芸術作品が創られているかの様に、せわしなく肉体は変化し続けている。この呪いは俺が許さなければ完全に治ることはないという事だが、中途半端に肉体が変化しているのは俺の心の中が定まっていないからなのだろうか。
もしも、俺の心がどっちつかずになっていることが彼女を苦しめているというのなら、それはそれで皮肉な話だ。
そしてこの呪いは……相手をある程度操れるようになるものらしい。こんな中途半端な状態で何ができるかわからないが、試しに喋ってみろと指輪に念じた所、彼女はその念に合わせて口から不気味な声を苦しそうに発する。正直、何の感慨も湧かない。
これはもう、あの可愛らしい笑顔も、鈴の音が鳴るような声も、華奢で守ってあげたくなるような身体も持っていない。俺は何をするわけでも無く……ただ黙って化け物となる彼女を見続ける。
「ディ殿……またここにいたのですか……」
「……ロウか」
地下牢に一人の男が現れる。王女に気を取られていて気付かなかったが、いつの間にか俺の背後にいたようだ。魔王であり、俺の友人でもあるロウザ……ここに俺と王女を運んでくれた恩人だ。
ここは復興した魔王城の地下牢であり、今はまだ復興中という事もあるからか犯罪者は出ておらず、他の牢屋は一切使われていない。だから、王女を隠すにはうってつけの場所だ。
俺は背後の魔王に向き直りその表情を見ると、顔には俺を心配しているのか悲痛な表情が浮かんでいた。そこまで心配させてしまっていることを心苦しく思う。こうやって、俺を匿っていることは魔族にとって良くないだろうに……。
確か、数日前に聞いたけど……王国は俺を騎士団長、妻を殺した犯人として捜しているんだっけ?
「……王国から、俺を引き渡すように言われてるんだろう?」
「えぇ、でも断りましたよ、気にしないでください。それより、少し休まれませんか? あれからほとんど何も口にしていないし、眠っていないでしょう?」
そんなに酷い顔をしているだろうか? 頬に手をやるがいまいち実感が湧かない。特に体調には問題ない……いや、逆だな。あれから体調がおかしくなりっぱなしだから今の自分が酷いのかいまいちピンとこないというのが正解だ。
食事はほとんど取ることができないし、無理して食べようとしても戻しそうになる。眠っていてもあの時の光景や、騎士団長、妻の事を夢に見て飛び起きることが続いていた。
地下牢に鏡でもあれば別なのだろうが、生憎とここには鏡は無いし……今の自分はどんな顔をしているのだろうか?
「皆さんも、心配していますよ。せめて皆には事情を説明してもいいのでは? 私から言うから憚られるのでまだ何も言ってませんが……連日問い詰められて大変なんですよ。主にリムさんに……」
リム……マアリムか……。あいつには本当に心配をかけるな。仲間達には唐突に俺が帰ってきたことと、騎士団長と妻を俺が殺したという王国側の話は耳に届いているだろうし、相当な心配をかけているだろうな。
「ディ殿……コレが元王女と言うのはお聞きしましたし……貴方の様子からお連れしましたが……そろそろ、何があったのか……私にも詳しく話していただけませんか? 先ほども言いましたが、皆さん心配されていますよ? あまりお一人で抱え込まず……我々にも相談してください」
そうだな……確かに魔王に連れ戻してもらってから俺は碌に説明をしていない……それでいてこの状況だ……皆を不安にさせているのも仕方ない。気持ちの整理も徐々についてきたことだし、ここらで皆を集めて説明をしても良いかもな。
「……ごめんな、ロウ。確かにそろそろ、皆には説明しないとな。俺とお前……あとリム達の三人だけには全部話すよ。適当な場所に集めてくれるか?」
俺の言葉にロウはほんの少しだけ安心した表情を浮かべる。本当に、ほんの少しだけだが……そんな顔を刺せて申し訳なくなるが、これからする説明で更に不快な気分にさせてしまうかと思うと更に申し訳ない気分になってくる。
……話すと決意したとたん、少しだけ不安が心に去来する。これを話して……皆は俺から離れて行かないだろうかと不安になってきてしまう。指先は冷たくなり、変な汗が首から吹き出してきた。
そんな俺に、ロウは優しい声色で語り掛けてきた。
「大丈夫ですよディ殿……我々は貴方の味方です」
俺の不安を見透かしたのか、ロウは優しい微笑を浮かべていた。
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「んだそりゃ!? あの二人……んな事してたのかよ?!」
とある会議室の一室で、俺は何があったのかを仲間達に説明した。説明が終わった瞬間に、戦士のクイロン……クロが憤慨する。魔法使いのポープル…プルも、僧侶のマアリム…リムもそれぞれが声は荒げないが怒りの表情を浮かべていた。
クロが我慢できずに力一杯に叩いた机には一気にヒビが入り、真っ二つに割れる。
「……ディ様……お辛かったでしょうに……まさか……あの女がそんな事をしていたとは……私が気付けていればもっと早くに対処できましたのに……失策ですわ」
割れた机には関心は示さず、リムは俺の両手を取り涙を流していた。プルは何も言わず、俺の頭を撫でてくれている。俺の話を聞いても俺を非難することなく、むしろ慰めてくれようとするその心に俺はだいぶ救われた気持ちになる。
リムはぶつぶつと、王都に残れば良かったと後悔の念を口にしている。もしも自分が王都に残って監視していれば……防げたかもしれないと考えているのかもしれない。リムのせいではないのに……。
「……俺がぶっ殺してやりたかったぜ……んで、お前の姫さん……なんかもうこの呼び方も嫌だけどよ……姫さんは生きてるのか?」
生きてはいるのだが、彼女を見せるのは少し躊躇われたので生きていることだけを伝えておく。ただし、竜の指輪の事はみんな知っているので、その呪いのせいで苦しんでるので見せることができないと付け加えておいた。
ロウは王女の状況を知っているためか、悲痛な表情を浮かべていた。先ほどから何も言葉を発することはなく、ただ黙って俺の話を聞いてくれている。
それぞれが憤慨している中で、俺は皆に対して静かに告げる。
「俺は……王国に一度戻ろうと思う……だからその間に、皆に頼みたいことがあるんだ……」
全員が俺の方を見てきた。先ほどまで憤慨していた全員が、困惑の表情を浮かべて俺に視線を集中させる。理解できないモノを見る目で、俺に対して考え直せと口々に言ってくる。
そう言われるのは予想していたのだが……このまま俺が魔王の世話になりっぱなしになるわけにもいかない。
「王国が俺の引き渡しを要求してきて、それを断ったんだ……このままだとまた魔族と人間の戦争になってしまうだろう? せっかく復興中なのにそれは避けたい……だから俺は、全ての真実を明らかにして、正当防衛を主張してくるよ」
「そんなの通るわけねえだろ!!」
クロが怒りのあまり俺の胸倉を掴んでくる。足が少し浮く形になり、ほんの少しだけ息苦しくなるが、俺はそれに対して抵抗しない。俺のために怒ってくれているというのが分かったからだ。
周りは胸倉を掴んでくるクロを止めようとするのだが、クロは止まらない。ただ、殴って来ないだけの冷静さは保っているのか、怒りの表情で俺を睨みつけるだけだ。
「お前が団長の野郎を殺しちまったのは事実だ!! 仮にも貴族相手だ!! どうせ罪をでっちあげられて処刑されるに決まっているだろうが!! だったら逃げるか戦うしかねえだろ!! 俺等もとことん付き合う!!」
「そうです、ディ殿……。それに、今のうちに帝国領まで逃げればいいではないですか……」
それは周囲も同様の意見なのか、俺に対して非難にも似た視線を送ってきていた。確かにクロの意見は正しいだろうし……俺も実際にそうなるかもしれないと思っている節がある。
だけど……ここで俺が逃げたらどうなる? 王国がそれで諦めてくれるとは思えない。魔王と言う存在がいる以上は表立っての戦争は仕掛けてこないかもしれないが、せっかく復興している最中の魔族達に支援が打ち切られるかもしれない。
もしかしたら、俺を引きずりだすために俺の親しい人たちを人質に使うかもしれない。そこまでの事をするとは思いたくないが、貴族が死んで王族が行方不明になっているのだ、何をするかはわからない。
せっかく皆が平和に暮らせている中で、俺の個人的な事情に巻き込むことはできない……。だから一回だけ……あと一回だけ俺は王国の人達を信じてみたいと思っていた。
「だから頼む……皆……俺が王国へと行っている間に……やってもらいたいことがあるんだ」
俺はそれを皆へと告げると……皆は渋々ながら了承してくれた。これで魔王が俺を渡せば、形だけでも魔王は王国の要請を了承したことになる……だから、これで良いんだ。
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魔王は渋々ながら、俺の身柄を王国へと渡してくれた。唐突に現れた俺に王国の関係者は騒然としていたが、俺の身柄は拘束された。
当然ながら聖剣は取り上げられ、丸腰の状態で地下牢へと俺は入れられる。てっきり拷問や尋問があるのかと思っていたのだがそう言うものはなくほんの少しだけ拍子抜けしていた。
俺は王や貴族たちの前に呼び出され、裁判にかけられた。騎士団長を何故殺したのか、王女をどうしたのかを詰問された。俺はその問いかけに対して正直に答える……。
帰宅すると俺の家で騎士団長が俺の妻と不貞を働いていたこと……そして、その事に対して騎士団長が逆上してきたためにやむを得ず斬り捨てたと告げた。王女については呪いについては隠したが、その光景を見せてしまったためにおかしくなってしまったことを告げるが、確かに生きていると言ったのだが……。
その説明は何の意味も無かった。
彼等は平民だった俺が貴族を一方的に斬り捨てたことを非難し、王女がおかしくなったという点については俺が殺したことを隠しているとしてまともに取り扱わなかった。
……誰も俺の言うことは信じず、口々に好き勝手なことを言って非難してくる。その中で、俺は聞き逃せない発言を耳にする。
「全く……王女様を妻にできただけで満足していればいいものを……貴族でもない者が王女との間に子を設けられるとでも思っていたのか?」
その一言が聞こえてきた時、俺は声のする方を見るのだが誰がした発言なのかはわからなかった。今の発言の違和感を覚えた俺は、思わず俺はその場で叫ぶ。
「……まさか……みんな知っていたのか?! あの二人が不貞を働いていると!! 俺が……魔族の復興に尽力している間に!!」
その叫び声に、口々に囃し立てていた貴族達は一瞬押し黙る。何名かは何を言っているんだと不思議そうな表情を浮かべているのだが……それ以外の貴族は……俺に対してあざ笑うような視線を送ってきていた。
こいつらが……こいつらが二人を唆して事を運ばせたのか? 俺は周囲を見回しそいつらを睨みつける様に視線を送る。どいつもこいつも、俺を視線が合うとバツが悪そうに視線を逸らしたり、逆に嘲笑うような視線を送ってくる者もいた。……こいつらが。
「勇者……いや、元勇者よ。お主は手前勝手な嫉妬から騎士団長を殺害し、あまつさえ王女様にまで手をかけた。その罪は許しがたい……よって、よってお主は死刑に処する。処刑は三日後……民衆の前で執り行うものとする」
「待ってくれ!! 俺は……国王様!! 貴方は知っていたのですか?! あの二人の事を!!」
お飾りの裁判官の判決がその場に虚しく響く。俺には弁明の機会すら与えられず、死刑が決まった。明らかに結論ありきで……クロの言うとおりだった。俺の弁明には意味が無かった。
国王へと殺気混じりの視線を飛ばすと、国王は俺の視線から逃れる様にそそくさとその場を後にする。そのまま俺は連れ去られ、再び牢屋へと入れられる。処刑は三日後……それまでに……俺が頼んだことが上手くいっていればいいんだが……。
俺は牢屋の中で自身の愚かさを悟った。あと一回だけ王国の人達を信じてみたいと言った結果がこれである。クロの言う通り、王国に戻ってこなければ良かったのだ。
そんな中で、牢屋に一人……誰かがやってきた。それは……国王様だった。護衛を数名連れて……わざわざ俺の前に来たのだ。
俺は目の前の国王へと射殺すように殺気を送る。しかし、国王様はその視線に一瞬だけ怯むが、俺へは決して近づかずにその場から俺に声を発する。
「すまんな元勇者よ……お主の疑問に答えておこうと思っての……儂はな、知っておったよ。娘と騎士団長の関係をな」
俺の頭に鈍器で殴られたような衝撃が走る。知っていた……知っていたと言うのか? 国王までグルだと……何を考えているんだこいつらは?
「儂の誤算から娘は好きな男と結ばれんかったからな……だからせめて子供は好いた男の子ができる様にと、お主が旅に出ている間から色々と手を回したんじゃよ……これも親心と言うやつじゃが……完全に裏目に出てしまったようじゃな」
最悪な発言に俺の顔中から汗が噴き出て止まらなくなる。……子供を……騎士団長との子供を作るつもりだっただと? ……そんな外道な発想がどこから出てくるんだこいつらは?
旅に出ている間から騎士団長と不貞をしていたというのは彼から聞いた……だけど……それがこいつらがそうなるように仕向けた結果だったと言うのか? 俺は彼等の思考がわからず、目の前にいるのが同じ人間であると信じられなくなってくる。
「……お主にはすまん事をしたが……貴族、王族殺しは重罪じゃ。許すわけにはいかん。国のために死ぬお主に、せめて最後に真実を教えておこうと思ってな……。あぁ、護衛共は気にせんでくれ。こいつら儂の側近で……こいつらも知っていることじゃからな」
護衛の口元を見ると、笑みを噛み殺しているのが分かった。俺の姿が滑稽だと言わんばかりに……その胸中では俺の事を大笑いしているのだろう。
「せめて処刑は苦しまぬように一思いに実行させよう……コレが精一杯の誠意だと考えとくれ。もしも、逃げたり抵抗すれば……お主の大切な人がどうなるかわからんぞ? お主が大人しく死ねば、命令に逆らった魔王達も不問としよう」
その言葉は碌に俺の耳には届いていなかった。この時だった、俺の心の中から王女を許すという心が完全に無くなったのが……そして……彼女が完全に化け物になったであろうことが俺は感覚的に理解した。
そして、俺はすべてに絶望して……死刑を受け入れた。
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そして処刑当日……俺は処刑台の上に最低限の身なりを整えた状態で立たされていた。処刑方法は斧で首を撥ねること……周囲の民衆は俺の事を非難するような、困惑するような目で見てきている。
俺の事を庇おうと発言をした人は兵士に連れ去られており、そのため、俺を庇ってくれる人は下手な事を言えなくなっていた。
その場には国王や貴族のみがいた。俺の仲間達の姿はなく……この場にいるのは俺とほとんど面識のない町の人間だけだった。彼等は俺を庇う事を言うと連れ去られるが、それ以外は問題ないと口々に好きな事を言っている。
その光景に、俺は彼等に頼んだことが上手く行ったんだと安堵する。俺が頼んだのは……俺が死ぬことで迫害されるだろう親父を魔王の国に移住させてやってくれないかと言うものだ。
やがて、大柄な処刑人が到着すると見たことの無い貴族の誰かが大声で民衆に俺の罪状を告げた。
「この者は元勇者でありながら貴族である騎士団長を!! そして王族である王女様を殺害した!! よってここに元勇者の処刑を執り行う!!」
俺の罪状に周囲はさらに大きく騒めく。何かの間違いではと首を傾げる者、俺に対して非難の目を向ける者、いい気味だと嘲笑を含んだ視線を投げる者……様々な視線が俺に突き刺さる。
それでも俺は黙ったまま、その時を静かに待つ。
俺が何の言葉も発さないことを周囲は不思議に思っているようだが、そのまま処刑は続行される。
俺の身体が処刑台に投げ出され、処刑人が鋭く大きな斧を振りかぶる。俺はその光景をどこか他人事の様に見ていた。……これで……全部終わるのかと……その斧の切っ先を眺める。
そして……処刑人の斧が一番高く振りかぶられた時……王城の方から大きな爆発が起きた。
「なんだ?! 何が起こった?!」
俺にも予想外のその爆発の瞬間、俺の横にいた処刑人が吹き飛んだ。振りかぶった斧は、その処刑人を吹き飛ばした人物によって受け止められる。その人物は……。
「クロ……」
「らしくねぇ……何を諦めてんだてめえ!!」
無理矢理に俺を立ち上がらせたクロは、俺の手を縛っていた縄を切断すると、そのまま俺を殴りつける。殴られた俺は口の端を切りながらも、目の前にいる人物を信じられない気持ちで見ていた。
我に返った俺は、目の前にいるクロにつかみかかる。
「なんでお前……ここに!!」
「んなもん、処刑されるお前を助けるために決まってるだろ」
事も無げに言い放ったその言葉に俺は開いた口が塞がらなくなる。俺一人を助けるために、お前まで危険な目に……いや、それよりもさっきの爆発はまさか……。
そう思った瞬間、周囲でも爆発が数多く起きる。民衆は逃げまどい、兵士たちがその爆発元である人物を取り押さえようと対峙していた。あれは……プル?
「今、王城にはリムと魔王が行ってる。必要なものを取ってくるってな。あの二人なら楽勝だろ。全員、お前を助けることを了承済みだ」
全員が来ていることに俺の顔は青ざめる。全員が……俺を助けに?
「なぜ皆来てしまったんだ?! 俺一人が死ねば全部丸く収まっただろうに……それなのに……。」
その発言をした俺は、再度クロにぶん殴られる。その勢いで俺は処刑台の上に倒れ込んでしまう。
「だかららしくねえこと言ってんな!! 何諦めてんだ!! 言っただろうが、俺等は全員お前を助けることに納得してる!! 全員だ!! 俺等だけじゃなくて魔王の国の魔族全員が了承済みだ!! 魔族だけじゃねえ!! お前と一緒に仕事してた人間達もだ!!」
全員……全員?! 何を言っているんだこいつは?!
「これでもまだ自分が死ぬとか言い出すのか?! 全員戦う覚悟を決めたんだよ!! だからお前もウダウダ言ってねーで立ちやがれ!!」
周囲ではプルの魔法による破壊音が鳴り響き、兵士たちは吹き飛ばされる。俺はクロを見上げた。全員が……全員が俺を助けるために……?
「ちょっと!! クロさん?! 貴方なんでディ様を殴り倒してるんですの?!」
移動魔法で現れたロウとリムが俺へと駆け寄ってくる。その手には……俺が取り上げられた聖剣があった。何故、リムが聖剣を? そんな疑問を他所に、リムは俺を起こしながら聖剣を差し出してくる。
「ディ様……これは貴方の物です」
差し出された聖剣を握ると、馴染んだ柄の感触が染み渡るようだった。……自然と、俺の両目からは涙がこぼれてくる。そして俺は、ゆっくりとその場で立ち上がった。
「ありがとうなクロ、それにリム、ロウ。俺、弱気になってたわ。確かにらしくないよなこんなの」
俺が立ち上がったのを見たのか、クロの横にプルが飛んできた。皆、俺に笑顔を向けてきてくれている。
「プルもありがとうな。何があったか……詳しい事は帰ってから説明するよ」
「ん……元気が一番」
全員が揃ったことで、ロウは腰を抜かしている貴族や国王へと向けて笑顔を向けた。
「申し訳ありませんね国王様。我ら魔族は、勇者殿の味方をさせていただきます。勇者様を殺すというのであれば……我ら魔族が相手となりましょう。もう援助は結構です」
そう宣戦布告した魔王は、そのまま俺達を連れて再び移動魔法を発動した。
そして次の瞬間には、魔族の国へと辿り着く。俺達が出てきた場所は町の中心部であり……周囲には魔族や俺と一緒に仕事をしてくれていた王国の人達が集まっていた。皆、俺の姿を見るや否や歓声と拍手を送ってくれている。
そのありがたさに涙が出ると同時に、その拍手のする人の中に……俺の親父の姿もあった。久方ぶりに見る親父は、白髪交じりの頭になっており、俺の記憶にある親父よりも老けていた。
その時俺は、死ななくて良かったと心の底から思ったんだ。
今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
活動報告を初めて記載してみました。今回は、三作品同時更新をしております。
良ければ私の他の作品も読んでいただけましたら幸いです。
もしもお気に召したり、続きが気になるという方がいましたら、評価等いただけますと非常に励みとなります。私のモチベーションも上がりますので、良ければよろしくお願いします。