ミスター・J その1
「ミスター・Jの噂のことだよ」
俺はガガーリンに、学校で聞いた噂について話した。
ミスター・Jとは、最近出没している、不審人物のことだ。身長が2m近くあり、ベージュのトレンチコートにハット、サングラスに大きなマスクを身に着けた、完全なる不審者だ。
だが、噂になる理由はここからなのである。
彼は出会った相手に対して名乗るそうだが、その名前が聞き取れない。かろうじてそれが、Jで始まることだけはわかった。そこから、ミスター・Jと呼ばれるようになったらしい。
彼は、名乗った後に、相手の持ち物を指さして、「これとそれを交換してくれないかい?」と言い、緑色の玉をみせてくるようだ。
断ると、「それは残念だ」と言って、どこかへ行ってしまうという。
逆に、受け入れると、「ありがとう、ありがとう」と、何度も礼を言いながら、物を交換して去っていく。
そのあとを追いかけても、目を離した隙にいなくなってしまうらしい。
「友達がさ、友達の友達から聞いたんだってさ」
「典型的な都市伝説の又聞きじゃねぇか」
「て思うだろ、でも見てみろよ、これ」
そういって、俺はスマホの画像アプリを開いて、とある画像を見せた。
夕暮れの町の画像だ。
「これがなんだってんだよ」
「ほらここ、ここ」
訝し気なガガーリンにスマホを突き出し、とある一点を指さす。
そこには、非常に遠くにではあるが、二人の人物が映っていた。
サラリーマン風の男性と、それに対面している、全身ベージュコーデの大男であった。
「むむむ、確かに噂通りの背格好だ。でも偶然じゃないのか?いないこたないだろ、こういうやつ」
「そう思うだろ?でも裏がとれてるんだなー、これが。この男の人さ、隣のクラスの奴のお父さんなんだよ。で、その隣のクラスの奴に話を聞いたら」
「ビンゴだったと」
「そういうこと。でさぁ」
「なに」
「このミスター・J、探さね?」
「げぇー、めんどくせーよ。第一なんで探す必要があるんだよ」
「面白そうじゃん」
「ちぇ、報酬は」
「あの新作で」
「よし!乗ったるわ!」
ちょろいな。
「で、具体的にはどーすんだよ」
「うん、この画像と同じ、夕暮れを狙おうかなと思う」
「それまで結構あるよな。まず家帰って、腹ごしらえとゲームしようぜ!」
「おっけー。腹が減ってはうんぬんかんぬんだしな!」
思えばこれが、俺たちの謎に満ちた生活の始まりだったのかもしれない。
誤字脱字アドバイス等よろしくお願いいたします。