第四壊
最悪の目覚めだ。意識が覚醒すると同時に昨日の事を思い出す。
私は知っている。自分の周りにいた者が命を落とし、残された者が涙を流す現実を知っている。
遠征任務で亡くなったレイ、ロンゴ、ジュダスの3名は、皆真面目で明るい人物だった。
惜しい仲間を失った。彼等と関わりを持った者達も彼等の死を嘆いていた。
残された者達の悲しみを取り除くため、皆を同じ場所へと送った。もうこれ以上、彼等が苦しむ事もないだろう。彼等は楽になったのだ。
喜ばしい事だが私の心は晴れぬ。
私はまだ生きて彼等の死を背負わなければならない。
大事な仲間の死が悲しくない道理は見当たらぬ。私が手を下したのは厳然たる事実だが悲しいものは悲しいのだ。
できれば私もやりたくなかった。
無論、最終的には全ての人類を殺すつもりだが、仲間の死は可能な限り後回しにしたかった。やるべき事をやり遂げた後に、私を含む全ての仲間が同時に死ぬ事が理想だったが、そんなに上手く行く訳がないか。
悲しくて仕方ないが、死んだ者達が私と同じこの苦しみを味あわなかっただけマシか。しかし、ダリアには悪い事をしてしまった。なにか、なんでも良いからと遺言を求めた私のせいで、最期に嫌な思いをさせてしまった。あえて剣を受け、せめてもの達成感の中で楽にしてやろうと思ったが、普段からあれほど嫌っている嘘に頼ってしまったのが情けない限りだ。それでも、ダリアは少しは達成感を保ったまま逝けたのだろうか?それとも苦しんだまま死んだのか?最期の瞬間ダリアは何を思っていたのか。
今となっては確かめるすべもない。
やはり遺言を求めたのは私のワガママだったか。ああいうのは今回限りにしておくべきだろうか。
思考を巡らす中、耳元で目覚まし時計が耳障りな電子音を立てたために、手早くそれを止める。
そろそろ起き出す時間だ。先に湯浴みだけ済ましてしまおう。
浴室に移動してシャワーを浴びている最中、何気なく鏡に目を移す。
「怪我……もう治ってる…」
一晩寝ただけでダリアから受けた傷が治っていた。浅くない傷だった筈なのに、跡形も無い。
思えば、アレ以外で最期に怪我をしたのはいつだったか。私の身体はいつしか父以上に頑強になっていた。
「半分バケモノだな」
湯浴みはもういいな。不愉快なものを見た。
用意されていた服に着替え自室に戻る。
いつものように部下がやってくるのを待機する時間だ。
できればダリア達の花を買いに行きたいが、必要な時以外は主人がやたらに出歩くなと執事に釘刺された為、城内に軟禁状態だ。
まぁ仕方ないか。
読みかけの童話小説を手に取って数十分経ち、主人公が姫を助ける為に悪役にとどめを刺したところで、私はページをめくる手を止めた。
「誰かの幸せのために誰かが不幸になる点はフィクションの中でも同じか…駄作だな」
読みかけの小説をゴミ箱に掘り捨て、新しい本を手に取ろうとした時だ。
控えめなノック音に気付いた私は、音をたてる者に中へ入るよう促す。
「し、失礼します。魔王様」
緊張した様子で部下が話し出す。
「実は、魔王様宛の手紙が」
「なに?誰からだ?」
「いえ、それが、差出人の名前も住所も書いてなくて」
「わかった。後はこちらで調べとく。下がっていいぞ」
部下を下がらせて手紙の内容を確認する。
不出来なラブレターのような内容だ。
馬鹿馬鹿しい。ほぼ100%私の命を狙う輩の罠だろう。もしかしたら100万分の1の確率で本物の可能性もあるかもしれんが…期待しているわけではないがどちらにせよ無視するわけにもいかん。
私の邪魔をする者は誰であろうと消さねばならぬ。
指定された場所はそう遠くない。あえて罠にかかりに行ってやろうじゃないか。
しかし、付き添いを連れて行くわけにはいかないか。手紙にはひとりで来いと書いているし、仮に本物のラブレターだった場合あとがややこしくなるからな。
いや本当期待はして無いが。