第ニ壊
ノヴァ・主人公。瞳の色が角度によって七色に変化する。初めは金髪だったが父が死んで3年が経つ頃には魔力の使い過ぎとストレスによる心身的な疲労により白髪に。髪型はストレートのミディアムショート。いつしか笑い方を忘れた事をキッカケに全くと言っていいレベルで表情が変わらなくなった。
好き・人助け。優しい人間。動物。食事。絵画鑑賞。眠くなるかならないかギリギリの境に位置する程度の落ち着きのある音楽。恋愛小説。眠る瞬間。
嫌い・あらゆる負の感情(特に悲しみ)嘘。世界。愛の無い性行為。毛虫。ゾンビ。運動。目覚める瞬間。
将来の夢・お嫁さん。自分を含む全ての人間を殺す事。
自殺志願者からすれば救いの女神だがそれ以外の人からすれば破滅の死神。
全く変化しない表情と容赦無い殺しっぷりから部下達の間では割と本気で殺人ロボット説が浮上している。
51人の人間を殺し、村の跡地となった場所へと降り立つ。万が一、億が一にも撃ち漏らしがあってはならない。
魔術で周囲の重力を操り、念入りに周囲の土を掘り返す事2時間。死体どころか骨の一欠片、髪の毛の一本も残っていなかった。上手くいったようだ。これで彼等をこの世界からすくいだす事ができた。これ以上、私が彼等に出来る事があるとすれば、死後の世界での幸福を祈るくらいだ。
祈りを済ませ、重力魔術の応用で空を飛んで帰路につこうとするが、ここで予期せぬ問題が発生してしまった。
ふと下へ目をやると、相当な歳を食った老人が頼りない足取りで荷車を引きながら、森の中を進んでいる。
これはほっとく訳にいかない。
接触してみるか。空を飛んでるのが知られたら説明が面倒だから背後からそっと近づこう。
「おい、そこの爺さん。こんな所で何をしている」
「んん?そういうあんたこそ、娘さんひとりこんなとこで何をしとんじゃ?道に迷ったんか?」
「先に質問したのは私だ。答えろ、ここで何をしている」
「何ってあんた、ワシはエーワン村の特産品、ベニ姫りんごをディーシ町へと届けようとしとるだけじゃよ」
「ディーシ町だと?ここからかなりの距離だぞ?」
「知っとるよ。何度も行き来しとるからな」
「その老体でか?」
「ああそうじゃが?」
「戦えるように見えんが道中にトラブルがあったらどうするのだ?この辺りは只でさえ危険な猛獣が多いのを知っているのか?」
「老い先短い人生じゃ。何かあったらその時はその時じゃろう」
「そうか。もうひとつ質問するが、あんた、親しくしてる相手はいないのか?」
「息子が2人と囲碁仲間が5人いるが、それがどうした?」
「なにっ!?貴様アホか!親しい相手がいるなら自身の命を軽んじる言動は控えろ!」
「む?」
「アンタを心配する周りの人間の気持ちを考えろと言っている!老い先短いとか言って命を軽視するな!」
「お嬢さん…もしかして怒っているのか?」
「怒っているし心配しているんだ!それ以外にどう見える!」
「いや…だって…さっきから能面みたいに表情が動かないから感情が読みとり辛くて…」
「ほっとけ!これは元からだ!」
くそ!人が気にしていることを!私だって女だぞ!それを能面などと…って、今はそんな事どうでもいい…いや良くは無いが、今は置いておこう。
問題なのは、このじいさんをほったらかしにすれば、高確率でこの森に潜む猛獣に食われる事だ。
今までは運良く食われなかったようだが、その幸運がいつまでも続くと限らない。
天涯孤独の身なら猛獣が食らいつく前に、苦しまないよう私が葬ってやるのだが、そう上手く事が運ぶわけもなし。
特産品の運搬作業をやめろと言える権利など私には無いし、あったとしても、やめろと言って素直に聞く人間ならこんな危険地帯に自らやって来る事もあるまい。
………………………。
厄介な事になった。私も時間が余ってるってわけでも無いんだが…。
「あの、そろそろ行ってもいいかの?少しでも早くディーシ町の人達にこれを届けてやりたいでのう」
ええい仕方ない!知ってしまったからには放ってもおけぬ。
「手伝ってやる!」
「はぁ?」
「手伝ってやると言ったのだ!礼はいらんぞ!私がやりたくて勝手にやるのだからな!その代わり拒否するのも認めん!手伝う区間はこの森を抜けるまでだ!私も暇では無いのでな!」
「はぁ!?」
「爺さんは今のうちに荷台で休憩か昼寝でもしてろ!」
「ちょ、ちょっとあんた!」
私はむりやり爺さんを荷台に乗せて足早に出発した。後ろでなんだかんだ騒いでるが無視!猛獣どもがうろつくこの森だけでも早く抜けてしまおう。
「すまぬのう。気を使わせた上に、こうして楽までさせてもらっとる」
荷車を引き、40分ほどのところで爺さんが話しかけてくる。
「謝る必要はない。私が勝手にしている事だ」
「少し言葉使いは荒いがあんたええ子じゃ。ありがとなぁ」
「ええ子じゃない。礼もいらぬとあらかじめ言っていた筈だ。もう忘れたか」
「あんた…」
「なんだ」
「変わっておるのう」
「自覚はないがよく言われる言葉だ。私はそんなに変わっているか?」
「こんなジジイを無償で手助けしてくれる時点で変わっておるわい」
「だから自身を軽視する言動は控えろと…だいたい、人を助けるのに理由が必要なのか?」
「みんな自分のことで精一杯じゃ。理由は必要じゃろう」
「そうか。やはりこの世界は地獄だな」
「ん?なんじゃ?歳をとるとどうも耳が遠くなってのう」
「いや聞き流してくれ。たぶんだけどドン引きするだろうから」
「隠されると余計気になるわい。なんと言ったかもう一度聞かせてくれい」
「断る」「意地悪せんと聞かせてくれよ」「こ・と・わ・る!」「あ〜気になるな〜!このまま別れたんじゃ仕事に集中できなくなる〜!」
「…ドン引きしないか?」
「しないしない絶対しない!」
「この世界は地獄だと言ったんだ」
「………………」
「………………お、おい。なんとか言ったらどうなんだ」
「地獄…か……ふむ…確かに、世の中楽しい事ばかりではないのう…」
「っ!そ、そう思うか!」
「そうじゃなぁ。生きてて良かったと思う事もあるが、ワシの頑張りが足らんかったのか、辛いことや不安なことはたくさん付きまとって来るのう」
「ああそうか。やはりそう思うか」
「ん?どうしたんじゃお嬢さん?」
「爺さんの不安、すべて私が消してやろうか?条件付きだがな」
「……いやぁ遠慮するわい。どういうつもりか知らんが、流石にこれ以上お嬢さんに甘える訳にいかんわい」
「遠慮する事は無い。私はただ「おぉ。そうこう言ってる内に森を抜けたの」
「ぬっ!?」
しまった!話しに集中しすぎていた!
「ありがとのう。本当に助かったわい」
「いや、だから礼は」
「これはほんの気持ちじゃ」と、爺さんがりんごを差し出してきた。
「くどいぞ。私は礼が欲しくて手伝ったわけでは…」
「お嬢さんが勝手にワシを助けたように、ワシが勝手にお嬢さんにりんごを手渡すだけじゃ。ほれ受け取れぃ」
「ぬぅ…そういう事なら貰っておくが…」
「では、早速じゃがワシは失礼するよ」
「おい待て。わかっているだろうが、猛獣の森を抜けたとはいえこの先の道中で危険が無いとも限らんぞ。金は掛かるが次の町で護衛を雇った方が良い」
「ん、まぁ心に留めとくわい。それじゃあの」
聞く気ないなあの爺さん…心配だが、そろそろ城に戻らねば。
その前にりんごだけ食うか。
「…美味いなこれ…わずらわしい種と酸味が無いだけで評価に値する」
よし、いい加減に帰るとするか。
私は魔力を解放し、高速で城へ向かう。
先程は爺さんと荷車に気を使って常人の速度で移動したが、私の本気ならここから城まで10分も掛からない。
早くも城に着き、正門から中に入ろうとするが。
「お…お帰りなさいませ魔王様」
ああまずいな。これは本当にまずい。門番の様子がおかしい。怯えた目を私に向けてくるのはいつものことだが、いつもよりも恐怖心が強く出ている。気付かれまいと隠しているが、残念ながら私は恐怖心には敏感なんだ。
「何があった」
「な、なんのことでしょうか?」
「バレル、忘れたようなら何度でも言う。私は部下の無能には目を瞑るが部下の嘘には処罰を下す。もう一度だけ問うぞ。何があった?」
「ひっ!…え、遠征部隊が戻って来て……」
「遠征部隊が戻って来て?どうした?有力な情報を得られなかったか?そう言う事もある、人間成功よりも失敗の方が多いものさ。それとも仕事をほったらかして遊びまわっていたのか?感心できんがもしそうなら休暇をくれてやらなかった私の責任でもあるな。人間は道具じゃ無いんだプライベートな時間も欲しくなるさ。それとも怪我をしたのか?じゃあ大変だ早く治さなければ。誰が怪我をしたのか教えてくれバレル。早く私に部下を救わせてくれ」
「ひ…ひ……か、勘弁してください…私はもうこれ以上「待てバレル。その先の言葉が私の予測と違わなければ私はお前を殺さねばならぬ。いいから私の質問にだけ答えろ。遠征部隊に何があった?」
「え……遠征部隊に………」
「ああ遠征部隊が戻って来て、で?その遠征部隊に?」
「………え遠征部隊に…遠征部隊に……」
「遠征部隊は分かったからその先を言え。いいか今すぐにだ!」
「………し…死者が……死者がで…でました……」
「そうか」
分かりきっていた事だ。
とても残念で、とても喜ばしい報せだ。
「戻って来たのは誰の部隊だ?亡くなった者の名前は?」
「…だ…ダリアの部隊…です…誰が死んだのかは…わ、分かりません…本当に…すぐに城内に…は、入ったので…」
「分かったもういい。脅して悪かったな」
その場に崩れ落ちるバレルを尻目に城内に入る。
ダリアの部隊は全員家庭持ちだった筈だ。残された者はさぞ悲しんでいるだろう。あまり気がすすまないが、早く同じ場所に送ってやらねばならん。
「ダリア隊を呼び出せ!全員だ!5分以内に広間に集合しろ!」