らな
三つ葉遠藤公園のグラウンドを藤波がそろばん塾の帰りに自転車で通りかかった時のこと。年明けの一月下旬。マラソン大会まで一か月を切っていた。そして小学三年の最終学期であるこの時期は一段と寒さが増し、楽しくもあり、また苦しくもあったこの一年を終わりだと藤波は思う。
気温が低い以上に北風が体から熱を奪っていた。この冷たい風が、向かいから度に、藤波の悴んだ手の感覚がなくなっていった。
わずかに差す西日が冬のうらぶれた木々を照らし、この寂しげな風景を見ていつもの気持ちになった。冬の気持ち。ほかの季節には思い出すことのない冬の気持ち。それは例えて言うなら、広場に大勢いた筈の人たちが、誰もいなくなって閑散としたお祭りの後の光景。または昨日まで生きていた人が冷たくなって、息絶えたお葬式で感じた喪失感。そのような冬の気持ちを抱きつつ藤波は足を止めてグラウンドを眺めていた。
グラウンドではリトルリーグの野球チームが練習をしていた。藤波よりも少し年長であろう少年たち一人一人が声を出して、その声が忽然一体となって大きな一つの音となり、この寂しい風景を彩っていた。
その奥のトラックでは、親子らしき二人組がジャージーを着て二人で走っていた。よく見ていると、それは星崎だった。そういえば、山田慈子が言っていたことを思い出した。そうか、このグラウンドでマラソン大会のための走り込みをしていたのか、と藤波は思った。頑張っているんだ、と藤波は呟いた。しばらく星崎を注視していたが、鈍足だった頃の星崎とは明らかに違う人間だった。
ほんの二十秒ほど見ていたが、それ以上の感想を藤波は持たなかった。その後、底冷えがして、また自転車を漕ぎ始めた時に、ふと夏の記憶の中から蘇ってきた。
小学三年の夏休み。クラスメイトの十人ほどでこの街をあてもなく徘徊していた。そのなかには藤波も星崎もいた。ずいぶん暑い日だった。その時に星崎が藤波に言った「中学に上がったら一緒の部活に入らない?」
「同じ部活?」
「そう」
「どうして?」
「藤波君とスポーツでチームになりたいから」
「いいけど、何部に入るの?」
「バレー部がいいな」
「バレー部か。僕は野球かサッサーがいいな」そう藤波が言うと星崎はしばらく黙っていたが「それじゃあしようがないね」と言って、他の連れに何か話しかけていた。
藤波は、夏に星崎に言われたことを思い返してみた。何の変哲もない会話の中に星崎と自分との距離感があった。藤波は星崎に対して友情を感じていた。星崎はどうやら自分になりたいみたいだ、と藤波は思った。何かを一つにしたい、何かを同一に見ようとする星崎の願望があった。それでいて星崎は藤波にマラソンで追いつき追い越そうとしている。強くあろうとする星崎は、それを藤波に見ていて、藤波は自分の内面にいる星崎が見据えているものを心強く感じていた。二人の関係は、まさに同志という言葉がふさわしかった。あの夏の言葉は、力強く生きようという星崎の問いかけのような気が藤浪にはした。




