第5節 甘かった見通しと激甘の提案
「それで体調はどうだ?」
「美味しいご飯にあったかい寝床、規則正しい生活とジムでの運動。病気になれという方が難しいですよ」
寒空の下で野宿しても耐えれるけど、人らしい生活を送るに越したことはない。
「好調でなにより、これからもウチで暮らすんだ、不満があれば言ってくれ」
「これ以上迷惑はかけれないので、電脳戦争の参加パス手に入ったら明日出て行きますよ」
「パスの情報は一月更新だ。その際に間違った情報の登録は禁止されているからな」
「えっと…つまり?」
「ウチを出ていくなら、次に住む場所の住所が必要になるな。お前にそんな知人がいるのなら行けばいいさ」
「いるわけないでしょう…住所情報だけそのまま借りさせてもらって、僕は野宿しますよ」
これ以上寺嶋さんに迷惑はかけられない。
電脳戦争に参加できるなら、そこで稼いだお金で衣食はなんとかなるし、ネカフェなんかも使えるようになるだろう。
「ほう、俺を退職させるというのだな?」
「はい?」
「中学生のお前が野宿をし、それが他の警察に見つかったら、色々と調べられるだろ?」
今のところ見つかるようなヘマはしてないし、他のホームレスの人たちのようにひっそり隠れて生きていける自信はある。
「見つからない自信がある顔してるがな、警察を甘く見るなよ?」
「仮に見つかっても寺嶋さんの名前を出したりしませんよ」
「そうはいくまい、お前は明日参加パスを手に入れる。その参加パスは国が発行した公的な身分証としても機能する、つまり職質を受けて所持品を確認された時点でウチの住所のことが出てくるわけだ」
手荷物検査を断っても何かを隠してると思われて逃げきれない。
素直に見せればパスから情報を見られて寺嶋さんにつながる。
そして、寺嶋さんのことが伝われば、『未成年の子供を野宿させる無責任な大人』として警察を辞めさせられるだろう。
「お前のことだ、お金があればホテルやネットカフェで暮らしていけるとでも思ってるのだろう?そんなことはできないんだ。未成年はそのどちらも1人では使わせてもらえないからな」
俺の甘い先の見通しを完全否定された。
「でもこれ以上迷惑かけたくないんですよ」
「だから言っているだろう。電脳戦争で稼げるようになったらウチに金を入れればいい。それに、もとよりこれは俺からお前に電脳戦争の調査を頼むという話でもある」
お金を稼げるようになることをメインで考えていたためそんな話は忘れていた。
「推薦による参加パスの無料取得と住居の提供は俺からの依頼料として受け取ってくれ」
俺はこれ以上寺嶋家を出て行くという選択肢を選ぶことはできなかった。