第2節 参加するための一歩
『電子的結果を脳に直接伝達させる』技術。
『電脳技術』と呼ばれる物だ。
その電脳技術を用いて仮想空間内で人同士が戦うゲームの名が『電脳戦争』
物理法則完全準拠、身体能力は現実の肉体のまま。
武器あり魔法無しの殺し合い。
このゲームは国が開発し、日本の各地区にこのゲーム専用の建物まで用意されている。
さらにゲーム内で獲得したポイントはどういう仕組みかは知らないが、クレジットカード扱いで現実の店で使うことができるらしい。
つまり、このゲームで勝ち続けてポイントを稼ぎまくれば生活費くらいは稼げるかも知れないわけだ。
「でも、登録費用だけで5万円かかるとか聞きましたけど、本当なんですか?」
「個人が自主的に参加する場合は確かに5万必要だな、だが自主登録ではなく半年に一度の選抜テストに合格すれば大金を使わずに登録することができる」
「選抜テスト?」
「そうだ。国のお偉いさん方は何故か強いプレイヤーを増やしたがっている。おかしいだろ? 言ってしまえば、ポイントと言う名の金を奪い合う道徳心のカケラもない殺し合いを若者達にさせたいみたいだな」
確かに殺人に強奪、人の心に悪影響すら与えかねないゲームだ。
いくら儲かるかは知らないが、参加者は勝てばそれなりに稼げると聞く。
稼げると言うことはつまりスポーツマン精神などではなく、ただ金欲のために戦う人間が出でくるわけだ。
「それでその選抜テストはいつ行われるんですか?」
「来週の日曜だ。場所は倉津市市役所グラウンドでだ」
「 本当に国が全面協力体制をとってるんですね、テスト内容などは公開されているんでしょうか?」
「細かな詳細は知らんが、第一回からずっと基礎体力のテストになっているらしい」
基礎体力テスト? 運動神経の良い人間を募集しているってことなのか……?
「案外、日本一の強者を決めたいだけかもしれないな」
寺嶋さんは皮肉気味に笑っていた。
「本題に戻そう、このテストの参加枠には警察推薦で三人分枠が空いているんだ。その内の枠一つを俺が担当していて、俺としてはお前に行ってもらいたい」
「何で俺が……」
「お前には今すぐにでも金が必要だろう? 家も必要だ。そして俺は誰かを推薦しなくてはならない、このゲームの本当の意味を刑事として突き止めたいって思っているんだ」
世界から戦争が無くなり平和になった世の中で争いを助長する国家の意向。
ゲームとして以外の何かしらの意図があってもおかしくない、むしろ疑わしすぎて黒にしか見えない。
(けど……)
「わかりました。僕も生活がかかってますし、家賃まで浮くとなるとやるしかないですよね」
「おお〜! 引き受けてくれるか!」
「今引き受けないと、寺嶋さんに補導されて出所条件に参加させられるのが読めてるからですよ」
今の僕の状況は理由の良し悪しに関わらず警察の行動案件の一つなのは間違いない。
そして身内にあてのない俺は一度捕まればどうしようもなくなる。
結局、どう転んでも寺嶋さんの言うことを聞くしかないわけだ。
「おい、そういうところまで深読みするなよー」
可愛くねえなぁと、何処か寂しそうに呟いていた。
「まあ、何はともあれ参加は確定ですけど勝算とかないですよね?