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アクアミネスの勇者  作者: 佐倉真稀
第一章~宇佐見編~

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藤宮かのん3

※藤宮かのん視点

気がついたら、洞窟のような場所にいた。少し明るかった。手をついて起き上がると声をかけられた。


「気がついた?」

聞こえた言葉は日本語じゃなかった。でも意味はわかる。最初は全部日本語に聞こえていたけれど。

きょろきょろと周りを見た。魔物はいない。いるのはあの、黒い髪の男の子だ。

「ここは?あなたは?」

反射的に言ってしまって、後悔した。結構辛辣な言葉が返ってきたからだ。


「どこだろう。」

彼はわからないと首を横に振った。よく見たら私と同じくらいの年頃の、ちょっと顔は可愛い感じの男の子だった。背は私より少し高い感じだ。細身だけど、鍛えられている感じがする。


「俺は加勢に来た冒険者だよ。罠みたいだったね。ここは安全地帯っぽいけど、多分この先は厳しいことになるかもしれないよ。俺は魔力を回復させてからここを出る。ここを出たかったら君も体力と魔力を温存して俺と一緒に突破するしかない。生きて帰りたいだろう?ここに残っても餓死しかないと思う。とりあえず、俺はしばらく寝るから。君もその合ってない防具は脱ぎ捨てて身体を休めたほうがいいよ。頭のと、肩、腕と足。それだけ身に着けていれば動く時重いんじゃないかな?あ、大丈夫、俺恋人いるから手は出さないよ?安心して?」


そうだよね。巻き込まれたんだから。どうしよう。私一人じゃ多分戻れない。ついていくしかないけれど、それも怖い。

膝を抱えて泣いた。

彼は食事をして寝ていた。

そういったことが身についている人なんだと思った。私たちは勇者候補と言われて訓練されてたけど、こういった場面で役に立つことは何一つ覚えて来なかったんだとそう思った。明るかった部屋がいつの間にか暗くなっていた。そこでようやく、彼が魔法で明るくしてくれていたのだと気づいた。

暗い部屋は怖く魔物が来るかもしれなくて不安で眠れなかった。それでも、いつのまにか寝ていたようで、気がついたらすでに彼が目を覚ましていて、食事を取らされた。なにも荷物を身につけていないことに彼は驚いていた。頻繁に戻らない時は騎士たちが食料を運んでいた。

思えば、彼らは私たちに甘かったのかもしれない。

トイレの心配をしたのがわかったのか、魔法を教えてくれた。

驚愕した。それならどこにも冒険ができる。

凄い世界だと思った。


その場所を出て薄暗い通路を行く。防具は置いてきた。重い鎧がなくなって、身体が軽かった。

いきなり彼が走りだした。空を切る音がしたと思ったら、かなり前方で魔物の首が落ちた。

「ひッ…」

魔物の気配すらしなかった。私ではわからないけど、それでも…この人、とんでもなく強いんじゃないだろうか?

そのまままっすぐ行ってしまう様子に慌てて追いかけた。魔物の死体はピクリとも動かなかった。

追いついた私に彼は何ができるの?と聞いてきた。

思い浮かぶものは何もない。

「えっと、その、特には…」

ああ、何でもっと魔法なりなんなり教えてもらわなかったんだろう。

「俺が危なくなったら治癒魔法なり、回復魔法なりかけてくれることはできる?」

それならできると頷いて、必死に思い出す。

「そ、それなら。初級の治癒魔法は習ったの。剣とか体術とかは無理だった。」

「なら行こう。ついてきて。」

彼は頷くと走り出す。慌てて追いかける。


目の前に現れた魔物は斬られて後方へと転がっていく。

魔法が飛ぶ。また彼の周りが輝きだす。

血しぶきが飛ぶ中で、彼の剣の軌跡はとても綺麗に見えた。

治癒魔法をとは、言っていたが私の出番はなかった。

フロアボス、と彼のいっていた魔物が現れた。

圧倒的な威圧感、恐怖を感じてへたり込んだ。魔法や弓を使ってきた。

彼は一人で魔法を繰り出し、剣で仕留める。

何種類もの魔法を操った。少なくとも3属性。それも息をするように。

怖い。魔物も怖いし、彼も怖い。閉塞感のする地下にいるのが怖い。早く帰りたい。

奥に扉が見えてそれが開いた。彼が促し、中に入るとまた光に包まれた。


地上から飛ばされたところと同じようなところに出た。

地上じゃない。

「やっぱり上に出られない、か…」

やっぱり?やっぱりってなに?どういうことなの?何を知ってるの!?

「どういうことですか?なぜ、上に出られないの?」

私はその時パニックになっていたのだと思う。彼だって孤立していて私と言うお荷物を抱えて地上に出なければならなかったのに。それに考えが至らなかった。本当に現実が見えていなかった。

困ったように彼は笑った。


「俺だって初めての場所だけれど、迷宮には罠があることを習ってここに入ってきたんだよね?こういう、転移の罠は最悪で、行ったり来たりさせたり、迷宮のボスの場所に直接送り込んだりするのもある。総じて、迷宮を完全に攻略できなければ、外に出られないというのがこの罠の最も多い仕掛けってことだよ?そうじゃない場合や、運がいい場合で外に出られるかとは思うけど、俺は最下層のボスを倒さないと外に出られないと思っている。魔物ひしめく脱出不可能な場所に出たりしなかったから、ちょっとは幸運だと思うんだけれどね。」

と彼は肩を竦めた。


もっと下に潜ってボスを倒す。そんなこと二人だけでできるわけないと、そう思った。だって、15人ものチームが魔物にバラバラにされた。死にかけた。

「いやっ…どうしてこんな目に会わなきゃいけないの!?私、原宿に遊びに行っただけなのに!!友達もいたのにどうして私だけ!?もう、嫌!!いやよおお!!」

私は頭を抱えて泣きだしてしまった。勇者なんてなれっこない。こんな怖くてこの世界の強い人が倒せない強い敵を倒せるわけなんかない。私にはできないよ。生きて帰れないかもしれない。もう一生ここにいるしかないかもしれない。いやだいやだいやだ!

助けて!誰か、助けて!


誰も助けてくれはしないのに、誰かに縋ろうとして、涙を流した。彼はただそこにいて、私が泣きやむのを待っていてくれた。


泣き疲れて落ち着いた。彼について、ここを出るしか道はない。そんな覚悟くらいは出来たような気がする。


彼は水をくれた。小さい袋なのになくならない。不思議だった。


「あのさ、ちょっと手を貸してくれる?」

袋を返す時に手を握られた。その時、左手の薬指に指輪が見えた。

何するんだろうと少し警戒していたら、彼には邪な気持ちなんて何もなかった。新しい世界を教えてもらった。彼から流れ込んでくる映像。

「え、な、何!??これ、なんなの!?」

自分たちを俯瞰する。それからこの場所の外へ。通路を渡り、魔物が徘徊する広場、眼が通じない場所の扉前。

そこでいったん視界が途切れる。

「精霊に目を借りた。精霊は見える?このへんに固まりが何個か見えるでしょ?」

と、彼は普通の人なら何も見えない空間を指さす。

「光の塊に見えない?魔力の塊なんだけど…」

私は驚いた。彼にも、見えてるんだと、初めてわかった。

「これって精霊なの?私が見えるって言っても誰も信じてくれなかった…」

改めて周りを見回してみる。ああ、やっぱり、彼には光が集まっている。

「あ…まあ、この力を持っている人はそんなにいないっていうか、ほぼいないからね…誰もわからなかったんじゃないかな?”精霊眼”ていう固有スキルなんだけれど。」

多分私はきょとんとした顔をしていたと思う。

「そんなこと教えてくれる人、いなかった…じゃあ、あなたの周りに光が集まっているのは精霊ってことなの?」

彼は頷いた。

「精霊が見えるということは親和性が高いということだから精霊魔法が使えると思う。エルフしか使えないって言われている魔法だけど、精霊の加護があったりすれば使えるんだ。」

私が見ていた光は精霊だった。魔力を目で見ることができるという力。

精霊を通して世界を見る。俯瞰で見た世界は驚きをもたらした。

握られた手をさらに強く握られた。

ドキン、と心臓が跳ねた。彼の真剣な目は私が今まで見たことのないくらい、綺麗な目だった。

思わず触れ合っていられなくなって手を外す。頬が熱い。


「わ、わかりましたからっ。私にそれが使えるってこと?」

「そう。こんなふうに。」

彼が掌を上にして何かをした。キラキラと魔力が流れて、私たちをふわっとそよ風が撫でていく。

「今の…風の魔法?」

すごい。簡単に何の詠唱もなく?

「そう。精霊にお願いする感じで、イメージするといいよ?」

真似してみたけど、上手くいかなかった。

「出来ないわ…」

「あ。君の属性は?風の属性がないと使えないから…魔法の訓練とか、してるんだよね?迷宮に来るくらいなんだから…」

たしか、聖属性、水属性。無属性だった気がする。


「魔法の訓練はあったけれど、よくわからなかったの…有望な人たちはいろいろしてたけど、その人たちを優先的に教えるので私たちのように戦闘に向いてなさそうな人たちは後回しになって…。」

説明していくうちに彼の眉が寄っていった。そして片手で顔を抑えた。


「わかった。簡単な制御の練習方法を教えるよ。これは俺がウォルに教えてもらった方法なんだけど…」


言われるままに小さめの光球を手の平の上に出現させ、維持するトレーニングを行った。

制御が乱れると揺らいだり、消えてしまう。何度か行って少し安定した。これは毎日やるといいよと、教えてもらった。

それから休憩をして、魔法を教えてもらった。簡単な水魔法の防御魔法と、聖属性は支援用と、浄化魔法を教えてくれた。

魔力の回復を待ってそこを出ることになった。教えてもらった魔法を頭の中で繰り返して、使えるように努めた。


この階層は魔物の数が多く、強かった。彼はたくさんの魔物を倒してくれたけれど私も戦わなければ二人とも無事でいられない。怖いけど、立ち向かった。ああ、もっと真剣に訓練を受けておけばよかった。

そうすれば、彼に頼りきりなんてことにならなかったのに。


次回も藤宮かのん視点です。

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