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アクアミネスの勇者  作者: 佐倉真稀
第一章~宇佐見編~
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側近の仕事

ゆっくりと意識が覚醒していく。

うっすらと開いた視界に入るのは、金髪…金髪!?


「あ、目が覚めましたか?アキラ様。」

そこには、ほっとした表情で俺を覗き込むようにするアーリアがいた。

「あーなんか初めて魔法使ったせいか、ひっくり返っちゃったみたいで。もしかして心配かけた?ごめんね?」

思わず手を伸ばして、頭を撫でた。

ボン!と音がするかのように真っ赤になったアーリアが絶句していた。

「コホン、ウサミ殿、それ以上は不敬罪になるので遠慮してくれたまえ?」

はっとアーリアの横にいる人物に目が行った。フリネリアだった。そうだよな。王女一人でここまで来ないよな。手を離して戻した。

「あ、はい。えっとここは?」

ゆっくり起き上がると周りを見渡す。さっきのような文字の洪水はない。あれは何だったのか。

「ここは、アキラ様のお部屋です。今日からここで過ごしていただきたいのです。」

ああ、ここがフリネリアが言っていた側近の宿舎か。そこそこの広さの部屋にデスクと椅子、クローゼットにベッド。少し広めのワンルームってところだ。

「わかった。側近って聞いていたけれど、俺は何をすればいい?」

そう尋ねるとアーリアは満開の笑顔で言った。

「私の相談相手になってください。」

横でフリネリアが苦笑していた。


まあ、あとでよく話し合った結果、俺のトレーニングが形になってから徐々に側近の仕事を任せていくとのことだった。要するに王女の仕事の補佐がメインになるらしい。侍従とどう違うのかと思ったが、王女とべったりではないからみたいだ。俺は彷徨い人だから、表立っては動くのはまずいらしい。

とにもかくにも今のところは俺の能力の底上げ、勇者としての素養があるのか探ること、この世界の知識を覚えること。それが朝から夕方までの俺の仕事で、夕飯が終わって寝るまでの短い時間、アーリアの話を聞くのが唯一の側近としての仕事だった。アーリアはすごく楽しそうに俺と話す。

アーリアは一日の出来事を俺に報告する。俺はトレーニングの成果を話す。それであっという間に時が過ぎる。

アーリアは可愛い。

俺はそんな状況に戸惑うばかりだ。俺の何がアーリアの琴線に触れたかはわからないが勇者フィルターが掛かってるのだと思う。その内飽きるだろうと思ってはいるが、そうなるとここを出ていって仕事を探さなければならなくなる。邪王を倒す、それができれば俺も協力したいが(怖いけど)フリネリアにコテンパンにされている状況でそれはないだろう。俺は俺に向いている何かで元の世界に戻れるまでは暮らしていかないといけないのだ。


俺の一日は朝暗いうちから走る。とにかく走る。身体づくりと体力づくり。素振りもする。


朝食の時間を挟んで座学。一般常識と宮廷作法だ。

文字を書く練習もする。今俺が話している言語は日本語だ。この王国の公用語は”ミネス語”。イタリアや、スペインやヨーロッパ系の言語に近い。意識的にその言語を聞こうとしないと勝手に同時通訳される。異世界補正という奴だ。それでは困ると思ったために、申し出たのだったが、異世界補正がチートだったのと…すでにその言語を多少なりとも(これにはちょっとしたわけがある)知っていたため、思ったより覚えるのに時間はかからなかった。


昼食をはさんで剣術の指導を受ける。とにかく型を覚えるのが先決だ。筋トレしないといけないかもしれない。


少し休憩を入れて魔法教室だ。今は魔法理論と基礎的な生活魔法の習得、初級の属性魔法の勉強をしている。俺はどうやらどの属性も使えるらしい。発動しない属性はなかった。俺の魔力はかなりある方で”彷徨い人”であるからではないか、とマルティナは言っていた。


俺は無詠唱に近い形で最初から魔法が使えた。この世界の魔法使いは詠唱が必須らしいのだ。

魔法にはしっかりとしたイメージが必要らしい。

俺のイメージのもとになるのはさんざんやってきたゲームのエフェクトや、物理法則やらそういったものだ。

ましてやマルティナは魔族なので詠唱をあまり必要としないということだった。師匠がそれでは俺も詠唱を必要としないようになっていくのは当然だったのではないかと思っている。

いや、別にやっぱり厨二的な詠唱は恥ずかしかったからとか、そんなんじゃないよ?違うから。いやほんとに。


俺がこの世界に来て1週間ほど過ぎた頃、フリネリアがこっそりとその情報を教えてくれた。


「うちの弟が”彷徨い人”を連れて帰ってきた。15・6の少年だ。恐ろしいほどの魔力を持っている。ただし、うちの家族にしたから国には届け出ないけれどね。ウサミ殿も王女には内緒で頼む。」

にこっと笑って悪びれもせずに言った。


「え?黙っているのには口止め料が必要でしょう?シゴキをやめてください。」

思わず本音が出た後、しまったと思った。


「ほほう?私にそんな口が利けるとは。貴様、まだまだ鍛錬が足りないようだな?もっとも私が貴様に指導しているのはシゴキではなく、愛の鞭だ。」

え、語るに落ちてるじゃねえか!!鬼教官!!


結果、練習量が二倍になった。死ぬ。


俺が昼間のハードな扱きに呆けているとアーリアが沈んだ声を出した。

「今回の”邪王”は恐ろしく強いのでしょうか…」

ややしょんぼりとした顔でそう呟いた。

「何かあったのか?」

俺が思わず問うと、膝に置いた手をぎゅっと握りしめてアーリアが顔を上げた。


「”彷徨い人”が多いのです。アキラ様を入れてもう4人。」

まあ、プラス一人だけれど。

「今回こられた方々には騎士団の指導のもと、全員で訓練を受けてもらうことになりました。ずいぶんともめたんですけど、騎士団団長のレングラント卿が引き受けてくださって。まだ、先の話ですけれど。ゆっくりと慣れてもらってから戦う術を身につけてもらうことになります。」

まあ、この後、4人や5人って騒ぎじゃなかったんだが、この時点で多いというのは異常だと思っているとそう思っておいた。


「もちろん、アキラ様は側近のままですからそちらに参加しなくて大丈夫です。」

”大丈夫です、忘れてませんよ。褒めて褒めて”

にっこり笑った顔がそう言ってるように思えて思わず苦笑してしまった。

相変わらず俺に対しては無防備だし、盲目的だ。そっと手を伸ばして撫でた。


「ありがとう。ただ様子を見て合流する必要があればするさ。同郷が多いだろうし。」

アーリアはしばし俺の顔を見て頷いてた。

「ありがとうございます。」

言いたいことも飲み込んだようにただ微笑んでくれた。


しばらく話をしていたら、昼間の疲れのせいか、いつのまにか寝てしまったようだった。

気が付くと俺には毛布がかけられていて、もうアーリアはいなかった。


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