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第二話・知らぬは彼だけ。

 二人の少女が出会って同じ想い人攻略に日夜精を出していたある日のこと。

 それは彼女たちが彼と出会って四年目、エレナが十歳でシャーロットが十一歳の時のこと。

 テオルギウスはこの頃それなりの頻度でフラムメント伯爵家の居候お姫様に対して、そろそろ一人で、とか成人が近づいた淑女が、だとか説得しようとするが未だに彼と専属のメイドを引き連れ風呂に入り湯船でその幼い肉体を擦りつけて誘惑していた日々のこと。

 その日は、なんとなく予兆はあったが少女たちからしてみれば突然やって来たものであった。


「二人には将来的に王都の学院に通ってもらいたい」


 そう夕食後に切り出したのは彼だった。

 ここ数年ですっかり生気を取り戻した彼はどこに出しても恥ずかしくないアイドル系とはまた違うイケメンだとエレナとシャーロットは思う。それはアメリカンヒーロー的な筋肉隆々としたマッチョなナイスガイ。今のこの国若い子たちも現代社会で人気の細マッチョ長身イケメンではないし、どちらかと言えば彼の第一印象は八割前後は怖いであろう。

 そんな彼は妻に先立たれ今は独身だ。

 この数年で隣国との和平を結ぶまでことを運び、彼の領を中心に隣国との商売がなされている。経済の停滞で将来が心配された王国の未来に希望を与えたとして今、彼の元に来る見合いや婚約の話は多い。

 彼もいつまでも昔の妻などに執着している場合ではない。

 彼の領の跡継ぎは今、いない。彼の血筋はどう言う巡り合わせか今や彼だけである。遠い遠い血縁としてならミリ程度に関係のある家もことにはあるが、そんなのが認められるほどまでにはこの国も腐っちゃいない。

 で、あれば彼としてもどんな心境であれ結婚を考えなくてはならない。


 そんな状況の彼が彼女にそう言ったのはひとえに親離れのようなものと子離れのようなものを同時にしようと言う決意からであった。


 その言葉を聞いたエレナの瞳からは一気に光が消えて絶望がその身を包んだ。

 今まで安全だと思った幸せな世界が崩れ去り、花畑は炎と血の海に沈み人々の悲鳴と怨嗟の声をバック・グランド・ミュージックとして流れ絶望する。

 エレナの中では一日一回彼の腕に抱かれ、朝と夜におはようとおやすみのキスを彼の頬にするのが日課だ。

 かつて一週間程、彼が外泊した際にはあと少しで衰弱死するところまでになった彼女にとっては死刑宣告に等しい。

 そんなエレナが、彼の元を離れることを素直にイエスと頷ける筈がなかった。

 それを澄ました顔でなんとか取り繕う。この二年でそんな彼を困らせないためのポーカーフェイスを覚えた。それはシャーロットも同じではあるが。

 エレナほど即死するような絶望を味わった訳ではないが澄ました顔でエレナを見るメイドも他人事ではない。

 暇な時間を見てはテオルギウスの部屋で彼の枕と新品の枕を交換して使用済み枕で色々と致して、洗濯物の中に彼の下着があれば仕事を忘れて彼の下着の匂いを吸引し、ニオイを覚え、涎を垂らすような日々を送っている彼女が我慢を覚えることが出来るのか問題だ。エレナ同様にテオルギウスが外泊した際に一度だけ自制したこともあったが、発狂しかけたところをエレナが彼の汗をふんだんに吸い込んだシャツをシャーロットの顔面に投げつけたことで即・絶頂に至ることで解消した。それが無ければ発狂して廃人とかしていたかもしれないとエレナは考えている。


 そんな彼女たちは彼に迷惑はかけまいと優秀な女であろうとして、既に学院で習う必須科目の内容を全て学習し終えている。

 愛の力は全てに作用し、大幅な効率上昇と能力値を引き上げる。

 しかし、今二人の中でその効力が切れかかっている。寧ろマイナスに差し掛かろうとしている、悪堕ちしそうだ。

 そのせいで、二人はただの少女へと戻り、普通を飛び越え病みそうになっている。

 昨日まで、つい数分前まで魔王も邪神も彼女たちにかかればワンパンで沈められたはずのパワパフ女神なのに、今では野うさぎ一匹すら殺せず、寧ろ仔ウサギの跳ねて揺れた地面の衝撃だけで全身の骨が複雑骨折して絶命してしまうのではないかと思われるほどにか弱い存在になってしまった。


「二人には、この国の色々なことも知って欲しいんだ。この領の色々な場所には連れて行ったけど、王都や他の領は行ったことはないだろう?」


 そんな他の思惑もあるとはいえ、ほぼ善意のみの提案で、彼女たちの将来を考えて語る彼の話を二人が駄目出しして拒絶する言葉はない。

 あるとすればそれは、個人的で感情的な言葉だ。恋愛感情であり猛り盛る性欲による言葉である。

 エレナの感情としてはなんとしても拒否して、そんなところなんぞに行ってたまるか!と言う思いである。

 しかし、ここで彼のほぼ善意百パーセントとも言えるこの提案に対して我儘を言って迷惑をかけるのは彼女の望むところではない。


 ―――我儘とは愛を貪る為に使うのだ。


 と歳不相応な我儘の使い方をこの数年でマスターした身である彼女はこんなところで我儘可能ポイントをドブに捨てるかのようなことはしたくなかった。

 なので、出来ればどうにかして彼の口から入学なんてなかったことに、と切り出させたい。

 余談になるが、我儘可能ポイントとは彼がストレスに感じることなくエレナの我儘を純粋に可愛いな、と微笑み和む領域を彼女が乙女センサーを元に計測して算出した数値である。


「テオルギウス様……私みたいな平民が通っても大丈夫なのでしょうか?父が生前貴族の通う学園は吟遊詩人が歌う物語のように平民が通えるような環境ではないと仰っておりましたの」


 至極真っ当に聞こえる疑問を口にする。

 本音を言えば、行きたくない!テオルギウス成分が枯渇して死んでしまうわ!!の言う心の声を押し殺した台詞になる。そんな心の中など吐き出せるわけがなく仕方なく建前としての言葉が先ほどのものとなった。

 それには激しく同意している彼女の同志シャーロットはすかさず追撃を入れる。


「それに貴族の学院に通うのは相当な費用がかかると父上からお聞きしております。私がこうしてフラムメント辺境伯様の家に仕えるのも私を学院に通わせるだけの余裕がなかったからとも聞いております」


 この二年で溜まったお給金の貯蓄で余裕で通えるとは言わない。言えない。


 他の従者たちも知ってのことだが、シャーロットは若い女の子だ。将来は何処かに嫁入りする可能性がある。けれど、嫁入りした先に何も用意できず持ち込めず惨めな思いをするのは精神的に辛いだろうと言う配慮から彼女の給金には多分に色が付けられている。それはシャーロットやエレナが知らないうちに彼が従者たちに若い子たちの明るい将来を願った親のような気持ちを告げたことで父の代から家にいる家族を持つ従者たちに支援されて実行されているが実はそれとは別に彼女らがそんな主人を一人の男として、一人のオスとして愛しているのも見て知っているのでもしかするとそのままお金は領に帰ってくるんじゃないかなーとか思っていたりもするのだ。知らぬは筋肉隆々マッチョマンだけだ。


「で、あればこそシャーロットには是非学院に行って欲しい。領の金は使わず私の私財で二人の学費を出そう。それに平民だなんだと二人に対して何かしようものがいるなら私が全力を持って排除してもいい……」


 彼の願いは何処までも二人の為であった。最後の言葉は何処まで冗談で何処まで本気かは分からない二人だが、以前に現国王陛下と彼と同級生であったという現在王位継承権第一位の第一位王女様を魔獣の脅威からたった一人で救ったと言う武勇伝を寝る時に聞かせられたことのあるエレナであった。もしいじめ等が発生した場合その最高権力を使うのか、それとも国内の内乱に対して仲裁となり潰されかけた家々のコネを使うのだろうか、と彼から聞いた話はどれも彼や彼の父の英雄的な振る舞いであり、そんな華やかさを排除すれば恐ろしく他家に対して貸しを持ち、やろうと思えば辺境伯が一声かければ公爵家にすら余裕で喧嘩を売れそうな発言力を持つ。それを考えればぶっちゃけ辺境伯の推薦を受けての平民というだけで誰も手出しはしないのではないかと推測出来るが、それを発言することはないエレナである。

 そんな発言力についてだが、辺境のフラムメント家としては国境に睨みを効かせて隣国の動きに常に警戒しなければならないのだから少し騒がしかったから国内をす少し静かにさせた程度のことで大袈裟に礼を言われるまでもないと言う認識なのだが、そんな緊張とは無縁の中央で肥える貴族たちには、大きな借りがある――何か言われれば逆らえない、と勝手に思い込むに至っている。そう言うのを彼の話から踏まえた上で仮にもしいじめが発生した場合に彼がそんな権力を振りかざせば色々と大変なことになるのは目に見えるというものであった。


「それに何も学園には一人で行くわけじゃなくてシャーロットも一緒だ。二人なら大丈夫だと僕は君たちを信頼している」


 そう言って大人の男らしく、少し父親っぽくして二人の頭を大きくゴツゴツとして様々な武術を使ってマメを潰して硬くなった手のひらの皮で撫でる。

 二人は顔を赤くして抵抗せずに受け入れる。受け入れられるのは撫でる行為だけではないと主張したいのを必死に抑えて下着を興奮して濡らしながら思うのだった。

 そして顔を赤らめて痙攣しそうになる身体を抑えて、


「……わ、分かりました。テオルギウス様が私にそう望むのであればエレナは立派に学業に励み卒業して見せます」


 蕩けた顔で折れたのは彼女の方であった。想い人から与えられる幸福の前には自身の理性など台風の前の散りクズに等しく吹き飛ばされ消える。

 好きなオスの願いを叶えたいと思考を放棄した純粋とは言い難い乙女が二人、そこにはいた。




 ◇


 その後、珍しくもエレナがテオルギウスにこう言った。


「今日はシャーリィと一緒に寝るからテオルギウス様はまた明日、よろしくお願いします!」


 とかなんとか。

 十歳になっても同衾して態とらしくなさ過ぎないようにテオルギウスに日々微弱な、彼の身体がギリギリ反応しない程度の性的刺激と少女の匂いと身体の温もりを覚えさせていたのだが、学院に通わせるという事案は緊急事態である為に夜通しで同志シャーロットと作戦会議を行う必要性が出て来たのだ。

 このままではお互いの一人での営みに支障が起きると分かっていればこそ、それは必死になる。


 想像してみて欲しい(イメージしろ)


 いつも薄い本(どうじんし)や音声付高性能性的紙芝居エロゲーで一人の営みを行ってそれが日常として日々新しい薄い本や高性能性的紙芝居を求める若者が急にそれらを没収され右手一つで十分だろじゃあナ。と言われるようなものだ。

 一日や二日なら我慢も出来るし一度使ったモノを思い出して致すことも十分可能だ。


 けれど、それが数ヶ月単位になったらどうなるだろう?


 かつては一日三発は最低でもぶっ放していたと仮にして。それなのに日に日に妄想は衰えて、質の悪い妄想からは十分なリロードは行われず減りゆく散弾性能と連射率。好みのオカズもなしに不味い施設に保管された古古米だけを食べるのは非常に辛い。

 贅沢な悩みだが贅沢を知ってしまったからこそ戻れなくなるものもある。


 夕食後の会話では、彼の逞しい手で頭をファックされるように気持ち良くして貰い二人は揃って精神的にアヘって彼の提案に頷いてしまったが本意ではない。

 しかし、彼に一度言った手前撤回するのも『彼の女』としての矜恃に関わる。

 彼と出会って自家発電を覚えたての中学男子が如く盛り猛った二人であったが、いつか自重するために決断する日が来るとは思っていたがこんなに早く……と言う割には二年も余裕があったが、来るとは予想外だった。


「十三になる年に学院に通いに王都に行く……」

「それから三年間……夏季の一月と冬季の約三ヶ月の休暇には帰ってこれる」


 この間は、テオルギウス成分がゼロ……この世の地獄ね、と二人はぼやいて瞳からハイライトを消しかけて想像をやめた。


「私がいない間にテオルギウス様に阿婆擦れや売女が近寄って来たらどうしよう……やっぱり初潮が来たら襲ってデキちゃった婚するのがいいかな……」

「エレナ、多分それテオルギウス様の綺麗な笑顔が見れなくなるよ?」

「テオルギウス様に足蹴りにされて縛られたいとか妄想してるシャーリィには言われたくないわー……」


 結局のところ、テオルギウスの元を数ヶ月単位で離れるのは精神的に廃人になるほど苦痛と認識する二人はどうにか出来ないかと思考を巡らせては数時間前に撫でられたことを思い出す。

 お持ち出して身体を火照らせ準備を完了した身体でシャーリィが気付く。


「学業成績に応じた、ご褒美……とか」


 発情した幼いメスがそう呟いたのを聞いてエレナは目を丸くして驚いた。


「ご褒美……?ご褒美の内容は私たちの自由決定?……へへへ」


 変態中年親父のような不気味な笑みを浮かべてヨダレを垂らした美少女が深い深い妄想の森へと沈む。


「いいわ」

「いいですよね」

「採用」

「採用しましょう」


 その日の夜、エレナに与えられた部屋から不気味な女の笑い声が二つ断続的にしばらくの間続いたと言う。


 そして、昨日の夕食後とは打って変わって、学院の成績が良ければテオルギウスが叶えられる範囲の願いをなんでも叶えると言う約束を取り付けた。


 彼としては娘のような少女二人がやる気を出してくれるならどんな条件でも叶えられる!と思っていたのだがこれが結局ところ最後には自分の首を全力で締めに来るのだが今ところは誰も知らないようだ。

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