表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

空が見たかった

作者: Coke!

 見えない。見えない。見えない。

 空は青いって聞いているけど、私には空は見えない。いったいどれくらい青いのだろうか。青ってそもそもなんなんだろうか。

 私にはわからない。

 でも、きっと存在している。

「瞳、なにをしているんだい?」

 声の主の方向に振り返る。声の反響音からして遠くはない。私に近づく足音。

「別に、風は感じられるから、窓辺にいただけ」

 静寂だ。声の主はどうやら困っているようだ。顔は見えないから私の憶測だけど。だから私はその人の元へと歩いていく。空を何度かつかみんで、やっとその人の肩に手をかけ、背中を抱きしめる。

「温もりも感じられるんだよ」

 私の背中に手が回され、強く抱きしめられる。それが愛情の印なのだろう。この人にとって。私にとってはなんの慰めにもならないけど。

悪戯心に火が付いた。

「ねえ、幽霊って信じる?」

「なんだい突然に?」

 本当にね。でも、私には私の世界があるし、倫理観というのもある。

「だって、目に見えないものからって存在を否定するのは間違いじゃない? 私が目にしていないものはちゃんと存在しているのよ。だから、信じたって不思議ではないでしょ」

「君が見えていないだけで、世界はちゃんとここにあるよ。君だって海は見えていなくても、波のさざなみ、海水の匂い、質感はわかるだろう」

「……そうね。ちょっとずるい世の中ね。私は仲間外れにされてるみたいで」

 私は彼から離れて、病室の椅子を探しだして座る。濃度の高いアルコール臭と、汚物の匂いが混じり合う病棟にあるこの部屋は、あまりにも異質だ。

「生まれ変わったら、普通になれるのかな」

「普通でも、世の中生きづらいよ」

「持っているものの理屈ね」

 いつか、私が私で無くなったときに感じるなんて皮肉じゃない。たった一つみんなが持っているものを望んでいたのに、その時には幸せを感じられないなんて。

「そうだね。僕には君の苦しみなんかわかってやることなんてできない。だけど、立ち止まってしまっても仕方ないよ。もう十分休んだだろ」

「かもね……ねえ、あなたは私のことを覚えていてくれる? 私が居たってことを」

 なにか残していきたいというのは本能なのかしら。

「君が僕のことを忘れても、逆はないようにするよ。君は今まで出会った中で稀有なケースだからね」

 優しい嘘。絶対忘れる癖に。でも、なんだか清々しい。そろそろいいのかもしれない。彼とは十分に語り合った。今までの不満も愚痴もこぼしたし。

「じゃあ、私行くね。今度は彼女にしてね」

「考えておく」

 また嘘ついた。でも、この人と出会えてよかった。私は暖かな光に包まれ、やがて意識が遠のいていく。

「安心して成仏してくれ」

 彼の声が響いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ