8.人生相談
「どうしたのシアン?いつものキレが全く無かったよ。」
一狩終えて街に戻ってきた俺とリリーは、酒場の一角に腰をおろした。
そしてリリー曰く本日不調だったらしい俺の取り調べが始まった。
「後ろから敵が来ているにも関わらず全く気づかないし、戦闘中にはボケッと突っ立っているし。何か変だよ。」
そうかもしれない。
俺の頭の中にあるのは、例の転入の話。
そもそも何故俺なんかにあの有名な二野坂学園から編入の話が来るのか。
俺にそれだけの価値なんて・・・
「おーい、生きてる?」
俺からの返信が無かったからか、リリーから生死確認のメッセージが届いた。
「あ、いや、悪い。ちょっと考え事。」
ゲームの中である以上、必要以上に現実の話をするのはある意味タブーな行為のような気がするし、リリーにこれ以上気を使ってもらうのも悪い気がした。
「何か悩んでいるのかな?私で良ければ相談に乗るよ?」
ここは甘えて良いのだろうか?
「なんだろう、同じような生活を送っている身としては少しでも力になってあげたいなって。」
ここまで言われて相談しないという選択肢があるだろうか?
そして俺は話を聞いてもらうことにした。
「なるほどね。それで悩んでいると。」
俺はリリーに事細かに事情を話した。
二野坂学園からの編入の案内が届いたこと。そして俺自身は行くつもりが無いということ。
「でも、行かないという意志を持っているなら悩んだりはしないと思うけどな。」
「そんなことは・・・」
言われて俺は初めて気づいた。
本当は行きたいという気持ちがあることを。
新しい地でやり直したいと思っていることに。
「でも・・・」
「またいじめられちゃうかも、とか思ってるのかな?」
図星をつかれてしまった。
「転校までして、また登校拒否とかになったら今度こそ・・・」
次の言葉が思い浮かばない。
頭をよぎるのは、あの屋上での出来事。
「実は、私にも届いているんだよ。」
「えっ?」
何の話だ、いきなり。
「二野坂学園の編入案内。ちなみに、来年高校1年生。」
「え、マジ?」
そうか、リリーにも届いていたか。
「だから・・・」
「だから?」
「・・・守ってあげるわよ、私が!一緒に編入してさ、青春謳歌しようよ。せっかくの、一度っきり高校生活。」
「リリー・・・」
本当であれば今のは男である俺が言うべきだったんだろう。
しかし、何だろう。心が温かい。さっきまでの落ち込んでいた気持ちはどっかに飛んでいってしまった。
「俺、行くよ。二野坂学園に。」
そうだ、俺はこんな生活を続けていてはいけない。
今、その生活から抜け出すチャンスがきたんじゃないか。
もう迷いは無い。
「ところでさ、リリー。」
「ん?何かな?」
ついついスルーしてしまったが、大事だと思うから一様確認しておこう。
「来年、高校1年生になるのか?」
「そうだよ。だからシアンと一緒なんだよ。」
「なぜ俺の学年を・・・」
教えた覚えは無い。
「野生の勘、かな~。」
なんか地味にすごいよそれ。
「あ、そうそう。」
そして俺は来年クラスメイトになるかもしれないリリーに、
「俺の本名は菊原陸だ。今後ともよろしく。」
「っくす。」
何故か笑われた。
「なんだよ、失礼だな。」
「ゴメンゴメン。急に真面目になったからつい。」
そしてリリーも俺に習って、
「私の名前は西園寺莉里亜と言います。こちらこそよろしくお願いします。」