4.話の本題、いってみよう!
テーブルの上ではガスコンロの上でぐつぐついっているキムチ鍋を中心に、何かが始まろうとしていた。
初陣をきったのは母、菊原麻衣である。
「これを受け取ってくれたのはあなたよね?」
母が手に持っているものを見せてきた。それは…
「…オーマイガット!」
すっかり忘れていた。
本日朝、私菊原陸は安眠を妨害され激怒ぷんぷん丸状態のところにラスボスである文部科学省様からお手紙を頂戴していたのだった。
その手紙を今、母が手にしている。
「お仕事中にね、巫女から電話が来たの。文科省から大事な手紙が来ているってね。」
俺はふとこの話の全ての元凶であろう人物を見てみた。
おいしそうに鍋を食べてる。
あ、今肉食った。残していてくれよ頼むから。
だがこれで一つわかったことがある。
お母様はこんな時間にも関わらず家にいらっしゃるのか、が。
まあ、自分宛の手紙を共有スペースであるリビングに放置していた俺も悪いが。
「で、手紙を見ていると宛名は陸宛。しかも未開封。」
そういえば開封していなかったっけ。
「陸には悪いと思ったのだけれど、中身を見せてもらいました。」
ま、ぶっちゃけ読む気はさらっさら無かった。だって、
「どうせ、また督促状かなんかだろう?学校行けとか。」
数ヶ月前までは週に1通は来ていた文科省からの督促状。
内容は学校は素晴らしいところ、だとか給食は絶品とかそんなものが書かれた、要は学校に行かせようとする文科省の対ニート作戦の一つである。
俺は、この督促状が大嫌いだったりする。
ニートになる理由は人それぞれだ。そんな複雑な事情を紙切れ一枚で終わらせようとする態度に俺は感心できない。
最近は来なかったから油断していたが、このタイミングに来るとは思っていなかった。
しかし、
「陸、あなたは二野坂学園って知ってる?」
予想外の言葉が返ってきた。
それにしても、
「二野坂学園って、あの…。」
「そう、あの二野坂。」
淡々と語る母。
しかし、二野坂学園というのはそんなに簡単にすませてはいけない存在だったりする。
国立二野坂学園。
首都、東京から特急電車に乗って一路北へ約一時間半。
小等部から中等部、高等部までを有する国立学校。
一度入ってしまえば高等部までエスカレーター式で進級できる上、国立ということで学費その他諸費もタダ。寮に入った場合、その費用まで何もかもタダというある意味恐ろしい学校である。
また大学実績もそれなりで、普通に過ごしていれば旧帝大クラスだったら余裕で合格とかしちゃうらしい。
しかし、そんな学校だからこそ入学の条件は厳しい。
途中、何度かの編入試験はあるものの、最多で一学年の定員は200名。
その内約半分が学校側から直接スカウトする方式をとっている。
しかし、それで選ばれる人のほとんどが全国大会の優勝者とか何かで賞を取った人とか、要は何かに秀でた人となる。
さらに、一般の入試でも偏差値は高く簡単に入れない。
それでも入学希望者は多く、合格倍率は大変なことになっている。
まあ、そんなこんなで二野坂学園は超有名だったりするのだ。
これだけ語っておいてあれだが、なぜいきなり二野坂学園?
話が全く見えてこない。
別に俺は二野坂に行きたいなんて思ったこともないし、そもそも学校というものと関係の無い生活を送りたいと思っている。
そんな俺になぜ母はそんなことを?
そんな俺の疑問は数秒後に解決するのであった。
「文科省からの封筒にこれが入っていたの。」
そういって母は俺に一枚の紙を渡してきた。
上質な繊維で構成され、金箔がところどころにちりばめられている紙に書かれている内容それは…
菊原陸殿
貴殿を来年度、国立二野坂学園高等部一年の編入を許可する
二野坂学園 学園長
俺の手からこの紙が滑り落ちるのと、巫女が食事を終えるのがほぼ同時だったことを俺は未だに覚えている。
次回の投稿予定は火曜日です。
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