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No.45 怪物、人間に出会い正気を失う

作者: 夜行 千尋

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第四十五弾!

今回のお題は「居候」「爆弾」「シャンデリア」


6/29 お題出される

7/1  トラブルに巻き込まれててんてこ舞い

7/3  そんな中プロットを考える

7/6  ちょっとずつ書いて投稿


珍しく締切を1時間45分しかオーバーしなかったぞ(アウト

『廃墟に住まう狂気の存在は……』



 人類は知らない。この星、地球という星は、神々や悪魔とか、そんな固有名詞で語られるそれらの元締め、外宇宙からの襲来者によって支配され、ほんの好奇心を満たすためのエンターテイメントとして“人類は飼われている”に過ぎないと言う現実を……人類は知らない。


 とある日本の廃墟にてその恐怖は待ちかまえ、訪れる者の正気を鉋で削るかのように、常軌を逸した狂気を見せるべく、その存在は待っている。無数の眼球が集合したかのような外見に、毛細血管のような触手が眼球と眼球の間から伸び、せわしなく辺りの者へ人類が理解しえない知識を与え、狂気の深淵へと誘う。彼は待っている……

 そう、これはそんなコズミックホラーな存在が人類を恐怖のどん底に貶め、そして阿鼻叫喚の悲鳴を上げさせるためにその恐怖を振りまく、そういうお話……





「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」





 だと思ってたんだけどなぁ……

 名状しがたき怪物は恐怖に震えて叫んだ。そう、怪物の方が叫んだ。


「なに今の!? めちゃ怖いんですけど!! ってかあり得なくね? うひゃぁぁー!」


 日本の片田舎、明治時代に建てらてたボロな洋館。そのリビングで怪物は、洋館の家主である右藤 道明(うどう みちあき)の持って来たTVゲームの画面を脇から覗きながら叫んだ。おんぼろの洋館に怪物の叫び声が響く。


「うわあああああ! 来た、来たよ! あきちゃん! ほら右!! 右からあああああ! あああああああああ!! は、早く撃って!! うわあああああああ!!」

「うるせぇ……!」


 ゲームを一時停止し、道明は怪物に蹴りを入れた。


「痛い! なにすんの!」

「さっきから騒ぎすぎだろ。お前、かりにも恐怖の象徴たる存在がそれで良いのかよ?」

「だって怖いんだもん! 見てよ、ゾンビだよ!? 人を襲うんだよ!?」

「おう、鏡見てこい」


 よく見ると怪物の眼球のいくつかは潤み、今にも泣きそうである。


「って待て、泣きそうなぐらいに怖かったのか?」

「いや、むしろこっちからするとどうして平然としてらっしゃるのかまったくもって謎ですハイ」


 と言われても……といった具合に道明は眉間にしわを寄せた。

 しかし、脇でこう騒がれたのではゲームなんてできやしない。ましてこの怪物、大きさは約2mあり、結構な巨体である。そのくせ、視力はあまり良くないらしく、画面にすごく近い距離で、画面を半ば塞ぐように騒ぎ立てる為、非常に……邪魔である。


「まぁいいや、何か食おう」

「えぇー、続き気になるのにぃー」


 昼間でもほの暗い、広すぎるリビングの埃だらけの古臭いソファーから立ち上がり、道明はキッチンに向かう廊下に出る扉へと向かった。そんな道明に対し、怪物は床でゴロゴロと転がりながら抗議の意を示した。


「気ーにーなーるー! 続きー! つーづーきーぃー!」

「いや、俺飯食いたいし」

「大丈夫、十食抜いたぐらいじゃ死なない!」

「いつまでやらせる気だ。お前がやれ」


 怪物は自身の細い触手を見てから今一度道明に視線を投げて訴えた。


「僕、物は持てませんよ」

「おう」

「持てないんですよ。ゲームのコントローラーとか持てるとお思いですか?」

「知らん」

「薄情な! こんなにも頼んでいるというのに!」

「自力で何とかしろ」

「非道め! これだから人間は!」

「コズミックホラー的存在に言われたくない」

「いーじーわーるーぅー!」


 なおも床の上でジタバタする怪物を脇目に道明はリビングを後にする。廊下に出ようとドアを開けた後、改めて怪物を見ると、ジタバタすることに疲れたのか怪物は動こうとしてない。


「……飯作ったら持ってくるよ」

「え? マジ!? マジで!? やったー!」


 嬉しそうに触手をワキワキさせる怪物を脇目に道明はリビングを後にした。



――10分後



「ん? どうした?」


 道明がリビングに戻ると、怪物はじっとしたまま動かなかった。そして、涙を流しながら言った。


「め、目に……ゴミが……」

「そんななりで床を転がるからだ」

「め、目薬……ください。さしてください。お願いします……」





『人間の食事』



「ほう、これが人間の食事ですか」

「なんだ? 興味あんの?」


 リビングに戻り、埃だらけのグリーンのストライプが入った古臭いソファーに腰を下ろし、近くにある小さなテーブルを片手間に足で引き寄せ、道明はその上にタコ酢とイカの刺身、ホットドックの乗った皿を置いた。三つとも同じ皿にのせているため、ホットドックのパンはタコ酢の三杯酢を吸って変色している。

 怪物は興味深げにそれらを見ている。


「ええ、興味津々です。人間が何を食べるのか、実に興味深い」

「ふーん。まぁ、時間が合ったらもう少しまともな食事にすんだけどな」


 元々道明は料理をしない。このタコ酢も、同居している道明の弟、秋房(あきふさ)が作って置いて行った物だ。イカを捌いたのも彼だし、道明がしたのはホットドック用の切込みが入っているパンに茹でたソーセージと千切ったレタスを挟んで、適当な調味料をぶっ込んだだけだ。

 怪物はタコ酢を見て言う。


「むむ、酸味を感じます。人類は酸味を美味と感じる稀有な種だと聞いていましたが……いやぁ、感動です」

「さよか」


 ホットドックを口に運び、道明は黙々と食べる。食べながら今一度止めていたゾンビゲームを再開し、黙々とゲームを進めていく。が、怪物の目線が、120インチのTVの方へ向かないことに気付いた。


「どうした? 再開してるぞ」

「え? あ、いえ……その……」


 道明は察した。そして、彼の脳内でとある興味と悪戯心が動いた。


「……食べるか?」

「いいのですか!?」


 見るからに怪物は嬉しそうに飛び上がり、目線が柔らかくなる。


「お、おう。俺の分まで食わなければ……」

「で、では……その、そこの白いのを……甘そうな匂いが致しますし」


 怪物は小躍りをして何かを待っていた。


「あ、そうか、持てないのか」

「はい、お願いします」

「……口はどこだ?」

「え? あ……」


 しばしの沈黙。


「そういえば、僕、エネルギー摂取の必要が無いので口が無いんでした……」


 見るからに怪物はしぼんでいた。


「お、おう、ドンマイ」

「しかーし!」


 唐突に怪物は立ち上がり、そして中心部分から半分に折れた。その折れた場所は鮮血に塗れた様に赤黒く、グロテスクなその形状たるや人間の正気を削るには十分な……


「あ、この間やったゾンビゲーのラスボスこんなだったな」


 はずだったが、現代人には全く効かなかった。

 道明はそのグロテスクな口……と言っていいのか分からない場所へ、イカの刺身を箸でつまんで投げいれた。

 直後、怪物は小刻みに震え、そしてその眼から大玉の雫をコボして、叫んだ。


「うまぁぁぁぁぁぁぁぁああい! すんごい美味しいじゃないですかなんですかこれは?」

「お、おう……こっちも要るか?」


 道明はタコ酢のタコを箸でつまみながら怪物に聞いた。もちろん聞くまでもなく、怪物はその左右に揺れて催促をしてくる。

 道明はタコ酢のタコときゅうりを投げ入れ、ついでにホットドックのソーセージの端っこを投げ入れた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!! 父上! 地球人の、人類の食べ物はすさまじく美味にございますぅぅぅぅうううう!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉあああああああああ!!」

「おう、良かったな」

「ところで、あきちゃん! これらはなんという生き物なのです?」

「んー? んーとな……」


 ゲームを一時停止し、そのままゲーム機でインターネット検索をし、イカとタコを見せる。

 怪物はまた、悲鳴を上げた。





『人類怖い』



「あ、ああ……なんて……なんて人類は恐ろしい……ま、まさか、×△%Ωと○△#βを食べるなんて……うぅ……末恐ろしや、人類……」


 多分、怪物の良く知るイカとタコに似た生き物の事なのだろう、と道明は予測していた。


「ただいまー!」


 そんな時、エントランスに続く廊下へのドアから、中学の制服に身を包んだ少年が現れる。彼が秋房、道明の弟である。両手にはスーパーの袋がパンパンに膨れ、ネギやセロリが袋の上から出ている。


「安売りだったからたくさん買っちゃったよー」

「おう、おかえり」

「ああ、おかえりなさいふーちゃん」


 ゲームの画面を見て振り向かない兄とその隣に居る眼球の塊のような怪物に、秋房は帰宅の挨拶をした。

 そして、何食わぬ顔でとある物体をスーパーの袋から取り出し、道明に見せた。その見せた物に対し、怪物は悲鳴を上げた。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

「え? え? なに?」


 困惑する秋房に怪物が言う。


「ま、まままま、まさか、それ、それ、それも食べるのですか!?」

「それって……サンマの目刺しのこと?」


 怪物は部屋の隅に縮こまり、ぶるぶると震えながら何事か呟いていた。


「人類怖い人類怖い人類怖い人類怖い人類怖い人類怖い人類怖い人類怖い人類怖い……」


 どうやら、彼の故郷ではサンマによく似た生き物が居たらしい。


「え、えーと、大丈夫かな?」

「放っておけ、SAN値チェックに失敗したんだろ」

「怪物さん、本来はSAN値チェックを強いる側のはずなのに……あ、マグロの目玉が安かったから、今度千切りにして酢漬けにしとくね」


 怪物はまたしても、身もだえしながら叫んだ。





『拝啓、父上様へ』



 ――拝啓、父上様へ……


 僕は今、地球のとある人類の居住地にて、居候という形で厄介になっております。元々、この建物で出待ちをして、人類を恐怖のズンドコに落とすはずが、今では僕が恐怖のズンドコに陥れられております。

 父上、人類は恐ろしいです。まさかの食生活にビックリです。そして、他の星の者たちより遥かに鋼のメンタルを持っています。その証拠に、彼らは幼少期より想像力を逞しくするための訓練か、同族が怪物化した時の映像で遊ぶのです……恐ろしいです!

 恐怖を振りまく存在として、狂気の知識を植えつけようとしたことも有ります。しかし、彼らの鋼のメンタル前には虚しく……何といわれたと思いますか?


「あ、そういうの、いいから……知ってる」


 知ってるですよ!? どういうことですか!? 僕らの持つ深淵の知識を、どうして人類が既に知り得ているのか、それを探るために、この建物の家主の部屋を探りました。

 するとついに見つけたのです……人類の更なる狂気の代物……! 脳みそ缶詰並みに、いえそれ以上の働きをして喋る小さな板や書物にまとめられた深淵の知識……TRPGとは彼らの魔術書なようです。そう、人類は、僕らの予想をはるかに上回るほど狂気に、常に身を晒して生きているのです……恐ろしい種族です。

 ともかく、僕はもうしばらく、この星で修行をしようと思います。


 それでは、お体にお気を付けて。あなたを愛する息子より

敬具


 追伸

 人類型のボディーを送っていただきたく思います。更なる人類の調査の為、またTVゲームなる訓練機器を実際に使用する為です。決して他意はございません。早急に願います。





『そうえば』



「あ、そうだ、エントランスのシャンデリア。電球切れてるのあったよ」


 翌朝、珍しく外出用意をしている兄への朝食として、スクランブルエッグを用意しながら秋房は言った。

 リビングから廊下を挟んで巨大な食堂があるが、主に(食事が必要な)住人は二人しかいない為、広すぎて二人は使っていなかった。そのため、今日もまた食事はこれまた広く本格的なキッチンで取っていた。もはや日常風景である。

 それに対して兄である道明が焦げた食パンを飲み込んでから答える。


「ああ、誰か呼ぶのもありか」

「でもそれ、たぶんアウトだよ。あと怪物さんを見られたら何かややこしくなりそうじゃない?」

「あー、それもそうか……」


 悠々と食事をとる兄とその昼食としての弁当を用意する弟をそれぞれ見ながら、怪物は二人に聞いた。


「と、言いますと?」


 道明が湯気の立つコーヒーをすすり、答える。


「両親は今アメリカへ出張中なんでな。その間好きにしろ、社会勉強もしろ、という事でこの屋敷に兄弟二人で住み込み。その間、家の事からはだいたい離れられるが、同時に家の力は使えないのさ。面倒なことにな」


 秋房が弁当の蓋をむりやり抑えながら補足を加える。


「ボクらの家は良いとこでね。結構な財閥……んーと、権力者の家なんだけど、可愛い子には旅をさせろ、という事で、ボクらだけで来てるんだよ。だから、シャンデリアの電球交換とかも自力でやりなさい、って言われるだろうなーって……」

「ああー、可愛い子には苦労をさせて大きくさせよう、ですね……僕の父上も似たような理由で僕を地球に配されました……」


 弁当を包みに入れて、弁当のおかずの余りを取り皿に取って秋房が自身の食事の用意をしながら言う。


「そういうことだね。でも、シャンデリアの電球交換とか……どうするんだろう? やっぱ専門業者さんを呼ぶべきかな?」

「やめとけ。人類の全員がホラゲやってコズミックホラーに耐性が有る訳じゃない」


 とここで怪物が会話の全体像を理解してようで、感嘆の声と共に言う。


「じゃあ、僕が代わりに変えますよ。電球」


 椅子からジャケットを取りながら、道明が怪物に言う。


「なに、できるのか? 電球の交換とかしたことあるのか? というか、そもそも高い位置だぞ。どういくんだ?」

「ふーふーふー。お忘れですか? 僕は常日頃から浮いているのですよ! すなわち、これを利用すれば高いところまで一っ飛びです!」

「ん、じゃ、任せる」


 と言われたのだが……道明が出かけた後に気付いた。


「って僕、電球を持ち上げられないじゃん!」


 自身の触手が物を持ち上げられないことを。





『間違った知識収集』



「それじゃ、行ってきます。気を落としちゃダメだよ」


 秋房もまた、制服に身を包み屋敷を後にする。それを怪物は触手を振って見送った。

 そして、怪物は広い広い屋敷に一人……怪物は……


「よーし! 今こそ探索です!」


 二人が外出している最中に二人の部屋を家探しすることにした。元々、そういう風にして人類の情報を収集する目的で、彼らと共に生活していたはずなのだが、人類の文化に触れてその面白さにハマり、すっかり漫画や小説、アニメの続きなどが気になっている様である。


 怪物はその身を0.00001ミリほどの薄さまで薄くすることができ、そうすることで本が持ち上げられなくとも、そのページとページの隙間に入り込むことで読むことができた。そして知ってしまった……


「なるほど……! 人類は、美少女萌えなのですね!」


 誤った知識を!


「ああっ、これはいったい? なんと、国家や恐怖の象徴たる#¥αΘ&すら美少女化していると……! ふ、ふふ、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ……!」


 そして、いつしか、情報収集より書物の先が気になるという事態になっていく。

 その光景たるや奇怪で奇妙、シュールだがどこか恐怖を誘う物である。12畳ほどのフローリングの床に置かれたベッド、その周りに散乱する脱ぎ散らかした衣服や書物、漫画に専門書などは放っておいて、ベッドの下に入り込んで興奮の吐息を漏らしながらジタバタする真紅の布が一枚。なぜそこを重点的に調べているのだ。止めてあげろ。


「む、むむ? これは……おお! こ、これは調べなきゃですねー。調べる為ですよ他に理由なんて有る訳がうわー! うわあああ! な、なんて、なんてこんな、うわああぁー!!」


 そんなこんなで一日を過ごすのが、彼の日常である。


「うっほー! も、ももも、萌えー! ヒャッハー!」





『忘れ物』



 ある程度して暇を持て余した後、怪物は屋敷の窓の外を眺めた。

 青い空に鳥が飛び、鉄の塊が空をかける。そして遠くまで田んぼが続くのどかな風景。道明曰く「田舎で面倒」な土地であり、秋房曰く「のんびりできて良い」土地らしい。

 と、そんな時だ。屋敷のドアのところに見かけぬ男が何か小包を置いて行ったのを見たのは。

 男は郵便でもないし、屋敷には使用人は来ないはず……シャンデリアの業者かと怪物は思い、男を迎えにエントランスへ出ようとし……そして自身の体に関して思い出した。そう、自身の体に関してだ。怪物は、自分に割り当てられたがらんどうの屋根裏部屋に戻った。


 そして、何もない屋根裏の空間にスリットを入れ、その奥から蝶の蛹のような物に包まれた人類の肉体に似た物を取り出した。いや、半ば献上されるかのように、そろりそろりとそれは怪物へ差し出された。怪物は遥か1200兆光年先の故郷より送られた人類の肉体を見下ろし、その肉体の口に自身を滑り込ませていく。入り込んでいくたびに、肉体は痙攣したように跳ね、生体反応で涙を流しながら嗚咽を放つ。まさに悍まし光景であり、正常な人間が見れば常軌を逸した光景に正気を失ったかもしれない。……今誰もいないんだけど。


 そして、その肉体を着て、怪物はエントランスへと走り下った。蛹から取り出したばかりの体は粘液で滑り、フローリングの床を滑らせるが、むしろそれを利用して怪物は移動した。


「ま、まってくださーい!」


 自身の喉という機関で発する初めての音、呼吸の方法や歩行の方法をすさまじい速度で理解し、さながら人であることが昔からそうであるかのように理解し擬態する、その術は深く知り得れば人間の精神に多大なダメージを与えかねない恐怖的存在の知識であったが、そんなの今誰も知るべくもなく……実にもったいない。

 そして、エントランスのドアを開けて、背中を向けて去っていく男に怪物は言った。


「落し物です! 持って帰ってください!」


 男はその声にそろりと恐る恐る振り返り……その後驚愕の表情と共に赤面し、走ってその場から去ってしまった。


「え? あれ? 何? なんか間違った?」


 仕方なく怪物は小包を拾い上げる。

 とそこに道明が帰って来た。そしてやはり驚愕の表情をした。


「ふーふーふー。どうですか? あきちゃん。人間のボディーですよ! しかも美少女のボディーです! 人類好みの良いボディーがですね……」


 やった! ついに、ついに鋼メンタルを持つ人類に恐怖を……!

 と思っていたら道明が叫んだ。


「服を着ろ!! 変態!!」





『ともあれ』



 曰く、道明は重役出勤であり、同時に会社務めも形だけであるため、出退社自由らしい。で、今日は弁当を忘れた為、急遽帰って来たら、何やら全身に滑りを付けた少女が全裸で仁王立ちして小包を抱えてドヤ顔している図が目に入ったらしい。

 ともかく、怪物を風呂に投げ込み、届いた……というよりあからさまに怪しい小包を見た。


 道明にはこれが何なのか、おおよその見当は付いていた。

 以前は剃刀の塊、その前は開けると催涙ガスが噴き出す仕組み、更にその前は爆弾だった。果たして今回は何なのか。こういうのが嫌で、家を出てくるいい口実を得たとばかりに、この屋敷に来たというのに、これではあまり意味が無い……やはり、ここも引っ越すべきなのだろうか? そんなことを考えていると、怪物が前後ろ表裏反対の、ぶかぶかな道明のパジャマを着てリビングへと入って来た。


「あきちゃん、服って面倒なのですね」

「色々ハイスペックに知ってるくせに、なんでそこで分からないのか実に分からない。むしろそう着るの大変だったはずなんだがな」

「あ、それ、何やら落し物ですよ」

「話を颯爽と流したな。まあいい。落し物じゃない、俺宛てだ。俺に害をなそうとする奴からの送りものさ」


 そういって小包を見つめる道明の脇から覗き込むように、怪物は小包を覗き込んだ。


「それは大変ですね」

「ああ」

「それ、要ります?」

「要らん」


 怪物は少女の姿で、口元に指をあてて考えた後、口を開いた。


「じゃ、貰っても?」

「ん? 構わんが……中身は危険かもしれんぞ」

「はい。火薬が少々。あと人類の機械ですね。あ、僕が濡れた体で障ったせいで壊れてますね……」

「一応、開けるなら安全に頼む」

「そうですね。さすがに頼んだばかりのボディーを壊されたくないですし……」


 そう言って、怪物は小包をまじまじと見つめた後、大きな口を空けてその小包をそのまま飲み込んだ。飲み込む際、口は少女の顔ほどの大きさまで広がり、喉はその太さが数倍に膨れ上がりながら、小包が少女の成りをした怪物の腹の中へ降りて行ったのだと、道明は理解した。


「それ、もし爆発したら腹の中から爆発を食らわないか?」

「あははー、何言ってんですか。そんなホラーゲーのボスじゃあるまいし」

「うん、おまゆう」


 言われた言葉の意味が分からず首をかしげる怪物へ道明はため息交じりに言った。


「というか、服を直せ」

「え? あれ? 間違いましたか? あれれ?」

「ああ、表裏と前後ろが逆だ」

「表裏……でそのうえ真後ろ? あれ? え? え?」


 ジタバタしながら自身の着ている服を、ボタンを留めたまま脱ごうとして引っかかったのを見て、道明は怪物が着ているパジャマの首元のボタンに手を伸ばした。

 その時だった。


「ただいまー……?」


 秋房がエントランスへ続く廊下へ出るドアを開けて帰って来た。そして固まった後……静かにドアを閉じた。それを追って道明が走って追いかける。二人の会話が半開きになって道明を見送ったドアの向うから聞こえてくる。


「待て! 待つんだ秋房! 今、何を誤解した! 何を誤解して逃げたぁ!!」

「なにも見てない! 兄さんが年端もいかない女の子に手を出した事後的な状況だって思ってないから!」

「なわけあるか!!」


 先日まで全く反応しなかった鋼メンタルたちを同時に動揺させたことで、怪物は改めて確信した。


「美少女化するってすげぇ!」





神話生物の視点から見ると、人類は狂気の存在である

そんな発想から今回の話が出来ました

ずばりクトゥルフ神話の影響がもろに出ております

あと件の美少女化して這い寄る混沌も影響しております


そしてさりげなく

怪物を可愛らしく書こうと気を付けてみましたがいかがだったでしょうか?

しかし外見はグロい怪物なんだじぇw


それと

四コマ漫画のような区切りも試してみましたがいかがだったでしょうか?

できれば一場面ごとに起承転結が欲しかった気もしますが……


ちなみに

飲み込まれた爆弾は、その後怪物の知的好奇心の為に徹底的且つ安全に解体されました



ここまでお読みいただき ありがとうございます

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