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テンプレきたー!

「アイーシャさんから紹介されたんですけど、少し見せてもらってもいいですか?」

「あらー、アイちゃんのお友達?」

「友達というか、これからお世話になるというか」


 昨日召喚された居候と家主の仲です、とは言えずなんと説明したらいいか困っていると、


「あらあら、じゃあアイちゃんの彼氏さんだったりするのー?」


 うふふ、と勘違いしている店員さん。アイーシャさんといちゃいちゃな関係を目指すならここは勘違いさせたままでいた方が都合がいいかもしれない。外堀から埋めていけばいずれ本丸も落とせるはずだ。本丸の戦闘力が高すぎて難攻不落かもしれないが……。


「まあ、彼氏っていいますかなんていいますか、そんな感じです」


 ここではっきりと彼氏と言ってはいけない。後でばれた時にしばかれる可能性があるからだ。言い訳できる下地を残しておかねばきっと骨も残らない。


「アイちゃんもやっと再婚する気になったのねー」


 さいこん? さいこんってなんだっけ? リクエストに応えてもう一回コンサートしますの意?


「……アイーシャさんって結婚してたんですか?」

「あら? 知らなかったの? 私もしかしてやっちゃった系?」


 アイーシャさんは出戻り系ヒロインだったのか。

 聞いたことねーよ!?


「……詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

「えー、アイちゃんに怒られちゃうわー」


 と言いつつも顔は全然困っているように見えない。むしろ嬉しそうにしている。

 ここじゃなんだからと、奥に通されて話を聞くことになった。

 店員さんはミシェルという名で店員さんでなくは店長さんだった。店番は学校が休みだという小学五年生くらいの娘に押し付けている。ミシェルさんに似た金髪で愛らしい顔をしているが店番を押し付けられたせいかすごい顔で睨まれてしまった。ちっちゃな子に睨まれるのも悪くありません。ぞくぞくします。


 ミシェルさんとアイーシャさんは幼馴染で子供の時からの付き合いだと聞かされた。ミシェルさんはものすごく口が軽く、アイーシャさんが知られたくないだろう話をたくさん聞けた。この人には相談事は絶対にしないでおこうと誓った。

 アイーシャさんはオルド男爵家に側室として嫁いだが二年前に離縁されたそうだ。表向きはブルーノの王宮での不祥事の影響でとなっているが、実際は暴力に耐えかねた男爵がこれ幸いと手続きしてしまったのが真相だとか。ブルーノの不祥事は気になったがミシェルさんは知らないと言っていた。秘密裏に処理されたらしく、アイーシャさんから聞きだそうとしても顔をしかめるだけだそうだ。その不祥事がブルーノがひきこもった原因なのだろうか。

 アイーシャさんは子供のころから魔法で身体強化をして日常的に同年代の男の子たちに暴行を加えていたそうだ。ただ最後にはちゃんと回復魔法をかけて痕が残らないようにしているらしい。ミシェルさんは「優しいよねー」と言っていたが捕まらないための証拠隠滅に思えてしょうがない。この界隈では”腹潰し”という通り名で呼ばれているそうだ。ただの通り魔じゃないですか。アイーシャさん、怖すぎます。


「お母さん、お昼ご飯どうすんのー」


 長々と話に花を咲かせていたらいつの間にか昼を回っていた。「お昼ご飯を食べていかない?」と誘われたがそこまでしてもらうのも恐縮してしまうので丁重に断った。ミシェルさんが笑うたびにゆっさゆっさと揺れる巨乳も堪能できたので満足満足。

 服一式をを二セットほど購入してお暇することにした。試着をしている間ずっと娘さんが睨んできたが、俺のかっこよさに惚れちゃったんだろうか?


「あ、そういえばギルドってあるんですか?」

「んー、あるけど行くなら気を付けてね。荒っぽい人が多いから」


 なるほど、わかります。テンプレ展開が起きるわけですね。俺の場合は普通にしばかれるだけだろうけど。くそう、チートさえあれば……。

 ギルドの場所を教えてもらい行ってみることにした。娘さんに名前を尋ねたが「あんたには教えない」とツンデられた。


 ギルドは商業地区の端の方にあり、ここからだと十分くらいで着くと教わった。途中屋台でサンドイッチのようなものが売っていたので購入した。見たことのない真っ赤な具が挟まっている。少しねっちょりしているが味は悪くない。

 ほどなくしてギルドに到着した。三階建ての大きな建物で、中に入ると三人の受付嬢が忙しそうに仕事をさばいていた。中は込み合っており受付には人だかりができている。周りを見渡すも待合席があるだけで酒場は併設されていないようだ。一番好みのちょっと幼さが残る受付嬢の列に並び順番を待つことにした。

 並んでいる人をちら見すると依頼者のような人と冒険者のような人がいる。冒険者のような人たちは皆がっしりとした体つきで剣や槍を身に着けていた。戦ってもまるで勝てそうもない。今更ながら怖くなってきたが、せっかくの異世界なんだから冒険者にならねば損ってもんだろう。


「次の方どうぞ」


 やっと自分の番がきたので勇気を振り絞って声をかける。


「あの、冒険者登録がしたいんですけど」

「え? 冒険者ですか?」


 受付嬢は困った顔をしている。周りからも失笑が漏れている。まるで強そうに見えない俺が冒険者になろうとしているからだろう。馬鹿にしやがって!

 そのとき後ろに並んでいたいかついおっさんに肩を掴まれた。


「おい、兄ちゃん!」


 テンプレきたー!

 チートないのにテンプレきてどうすんの!? あっさり負けるよ、俺。


「は、はい……なんでしょう?」


 恐る恐る後ろを振り返ると、不機嫌そうな顔で睨みつけてくるおっさんと目があった。


「お前、冒険者になろうってのか?」

「はい……なれたらいいなぁと……。」


 チートさえあればあっさり叩きのめして武器を奪ってやるのに! くそ! ブルーノめ! 帰ったら文句言ってやる!


「冗談なら酒飲んでるときだけにしな! こっちは時間がないんだ! 冒険者になりたきゃアルフォンかカウワイに行きな! この国じゃなれねーよ!」


 ドンッ、と押しのけられて列から出されてしまう。受付嬢はちらっとこっちを見るもおっさんの対応を始めている。


 くそぅビッチめ! 絶対ピチピチの服着せてやる! ピチピチビッチめ!


 受付カウンターから離れつつ頭の中でささやかな八つ当たりをしていると後ろに並んでいる商人風の男が話しかけてきた。


「失礼ですがあなた、他国の方ですか?」

「え? ええ、そうです」

「なるほど、しかもこの国についてまるで知らないようですな」

「まあ、昨日来たばかりなので」

「余計なお世話ですが、他国に来る前の情報収集は大事ですぞ」

「そうなんですが、事情がありまして」


 次の方ー、と受付嬢から声がかかった。


「おやすみません、私の番が来たようですので失礼」


 絡んできたいかついおっさんの用事が終わって商人風の男と入れ替わりでこっちにやってくる。まずい、と思ったが逃げる間もなく肩を掴まれた。


「よぉ、兄ちゃん、さっきはすまんかったな。他国の人間だとは思わなかったからよ。許してくれや」


 どうやら会話が聞こえていたらしい。さっきとはうってかわってにこやかに話しかけてくるおっさんに疑いの目を向けるが、


「そう警戒すんなって、仕事が取れて機嫌がいいからよ。いろいろ教えてやるからこっちきな」


 入口付近にある待合所の席に男とは向かい合うように腰を掛ける。おっさんは実は気のいいおっさんだったのだろうか。


「あんたこの国の言葉がうまかったからよ。てっきりいい年して英雄記にでも憧れた阿呆なのかとばかり思ったぜ」


 俺も憧れたくちだからな、と照れている。

 この世界でも男はそういうものに憧れるようだ。でもおっさんは冒険者じゃないのか?


「さっきこの国じゃ冒険者にはなれないって言ってましたがどういうことなんでしょう?」

「そりゃこの国じゃ冒険者ギルドがないからだよ。アルフォンとカウワイにはあるけどな」

「え? ここギルドって聞いたんですけど……」

「ああ? ギルドっちゃギルドだけど商工ギルドだぞ」


 な、なんだってー!? じゃあさっき受付嬢が変な顔してたのも周りが失笑してたのもそれのせいか!

 やっちまった……。入浴しようと全裸になってプールサイドを歩いてるようなもんじゃねーか!?


「じゃあさっきの俺って……」

「なかなかに滑稽だったぜ!」


 とびきりの笑顔にサムズアップしている。


「なんで冒険者ギルドはないんですか!」


 恥ずかしさをこらえられず少し叫んでしまった。そんな俺の様子をおっさんはにやにやと眺めている。


「ああ、結構昔なんだがな。賢王って呼ばれるすげー王様が禁止したんだ、確か。ギルドと冒険者が結託して依頼者から不当な報酬をかすめ取ったり、魔石の価格を故意に高騰させたり、ならず者が増えて治安が悪くなったり……まあいろいろ原因はあったらしいがそれらを重く見たって話だな」


 む、また賢王か。冒険者ギルドを潰すとは余計なことしやがって。


「じゃあここにいる冒険者っぽい人たちは?」

「オレみたいなか? オレたちゃ傭兵だよ。商人の護衛のな。ここにいるのはフリーでやってるやつだな。専属契約してるのはこんなとこにはきやしねーからよ」


 傭兵だったのか。でもそれなら冒険者と似たようなもんなんじゃないだろうか。


「魔物が発生したときはどうしてるんですか?」

「そりゃお前、国の管轄になってるぜ。高い税金払ってるんだから国民の安全くらいは守ってもらわなきゃな。それにこの国じゃそれほど危険な魔物はいないしよ。傭兵のオレ達は主に盗賊対策で雇われてるってわけだ」


 なんだろうこのがっかり感。期待がでかかった分反動に耐えられそうにない。

 もしかしてこれが弥生ちゃんががっかりした理由? きっとそうに違いない。


 おっさんからためになる情報も聞けたし、おっさんも暇ではないだろうからそろそろお開きにしよう。


「いろいろ教えてもらってありがとうございました」

「気にすんなって。情けは人のためならずってな。どうしても冒険者になりたきゃアルフォンに行きな。カウワイよりはましって話だぜ」


 アルフォンか、もしエクサス家から追い出されたら考えてみてもいいかもしれない。


「まあオレとしては冒険者になるのはお勧めできないがな」

「何故です?」

「危険な仕事な割に実入りが少ないらしいからな」


 やはりチートがないと冒険者として大成はできないか。エクサス家を追い出されないように努力しよう。

 おっさんと別れ街をぶらぶらしながら家路につく。途中露店で具合のいい靴を購入し履き替えた。


 初めて見る食材を使うのは少し不安だったが味見をしたらまあまあの出来だった。エクサス姉弟からも合格と誉められた。ブルーノに褒められるのはなんか屈辱的だった。

 王宮での俺の扱いはアイーシャさんの読み通り一時保留になっているそうだ。

 アイーシャさんに出戻りのことをさりげなく聞いてみたらいつの間にかベッドで寝ていた。疲れていたんだろうか? なぜだろう、腹に少し違和感を感じる。

 ベッドから身を起して部屋を見渡すと、机の上にメモと身分証がが置いてあった。メモには明日からの仕事の連絡事項が書いてある。身分証は街の外にでるのに必要だそうだ。十時から三時の間の誰にでもできる簡単なお仕事と書いてあるがうそくさい。仕事内容をまるで書いてないのがブラック感を漂わせている。裏門と呼ばれる西の門まで迎えに来てくれるらしい。昼食は自分で用意しなければならないみたいだ。


 翌日、裏門で手続きをして外で待っているとかっぷくのいい中年の男が簡素な馬車に揺られながらやってきた。街でもそうだったが、自動車は全く見かけなかった。自転車もみなかったので存在していないのかもしれない。伝わっていないんだろうか? もしかしたらそれで金儲けができるかもしれない。


「初めまして陽介君、ジルだ」

「初めましてジルさん、今日からよろしくお願いします」


 簡単に挨拶を済ませ、馬車に乗り込む。道すがら仕事内容を聞くが「ははは、着いたらわかるよ」とはぐらかされてしまった。ブラックな臭いがプンプンしやがるぜ。


「さ、着いたよ」


 声をかけられ、馬車から降りると三メートルほどの高さの土壁があった。四方を土壁で囲んでいるようだ。牧場感がまるでないが、家畜が逃げ出さないためなのだろうか。少しやりすぎな感じがするがここは異世界、気にしたら負けだろう。

 事務所でやけに血痕が残っている作業着に着替えて土壁についている扉をくぐって中に入る。鼻につく悪臭が不快な気分にさせるがそのうち慣れると割り切り我慢する。


「じゃあこれからこいつらの世話をお願いするね」

「ギャ――! キキキキッ! ギャギャ!」


 子供ほどの体型、尖った耳、皺だらけの醜い顔、薄汚れた緑がかった茶色の肌。どう見てもゴブリンさん達です。鉄格子を挟んで大量にエンカウントしました。


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