さよならだいすきなひと
ホモセクシャルを含む内容です。苦手な方は閲覧されないでください。
R15としましたが、特に行為に関する言及もありません。
久しぶりに彼女の夢をみた。
最後は「もう会えない」、という言葉をお互い先延ばしにしていたように思う。
会うことはできたのかもしれない。
でも、会えなかった。
今も会いたくない。嘘だ。会いたい。できるなら抱きしめてそのまま押し倒したい。
ただ、会えば傷つける気がする。だから会わない。
彼女はわがままで気まぐれで甘ったれで、しかし不器用でとてもかわいらしかった。
私はできる限り甘やかし、与えられるものを与え、彼女が望むよう振る舞い続けた。
そうして、絶対の信頼を勝ち得たのに、彼女は親の持ってきた見合いでさっさと結婚を決めると、私との縁を切った。
彼女が私のことより、自分の平和を愛していたことをずっと知っていたから泣かなかった。嘘だ、泣いたけれど縋ったりはしなかった。
だって、困らせるのは嫌だから。そうすることでしか、私は彼女に愛を示せない。
私は、彼女に疎まれることが会えないことより辛いのだ。
「ねえ、気づいてる?あなた来週結婚するんだよ」
「うん」
甘やかな彼女のかおり。柔らかい肌の感触。
「聞いてるの?ちょっ、くすぐったいからっ」
ぐりぐり彼女の首筋に自分の額を押し付ける。
ずっとふたりでこうして、溶けて絡んでいたかった。
物心ついた頃には女の子が好きだった。
いま彼女を好きなのは神かけて真実で、けれどこのままではいられないのが現実だ。
私は彼女のことより少し、自分の怠惰で安寧な生活が好きだから。
だから私は、適当に愛想よく、そこそこに淑やかにしているだけでだれかが食べさせてくれる人生を選んだ。
自分の見目の良さがまあまあであることも、大人しそうに見えることも全部知っている。勝手に皆が「守らなければ」と思うらしいことも、その好意のうえでねそべり、それをただ甘受する自堕落さも。全部分かっている。
狡さも甘さも、彼女を好きだけれど手放すことに罪悪感がないことも、たぶんこの子も気づいている。
見ないフリしてこうして最後を先伸ばししてきた。
いま、私から終わりを告げることがきっと正しい。
「うん、だからもう会えないの」
夢の中の彼女はいつも幸せそうに私に笑いかけるから、それが少しだけ悲しい。