行間1
――2
「家に帰ってないだと! ちゃんと探したのか?」
広い室内に男性の声が響き渡る。受話器に向かい声を荒げているのはA&J製薬社長こと不動真之。マナの実父である。東京に在るA&J製薬本社に家から「お嬢様がいなくなった」との連絡が入ったのだ。
「わかった。ではまた連絡してくれ」
マナの父不動真之はため息をつき頭を抱えた。怒りと不安で頭を抱え唸っている不動真之に同室していた男が語りかける。
「娘さんですか? 社長」
「ああそうだよ、進藤君。全く、いきなり『家からいなくなった』だと? 何を考えているんだ真菜の奴は」
「ふふ、とんでもないおてんば娘ですね」
「笑い事ではないよ、進藤君」
「申し訳ありません。では、私もお嬢様の捜索に加わりますよ」
「いや、君が出る必要はない君は社に残って……」
「いえ、娘さんの行先に少しばかり心当たりがあります。微力ながらも私もお手伝いさせていただきますよ」
「それは本当かね?」
進藤と呼ばれた男は「ええ」と笑顔で答えた。
――3
時間は午後十時を回っていた。帰宅ラッシュが過ぎ、神ノ宮市内は人気が無くなっていた。そんな中、暗く静かなアーケードを二人組の男達がぼやきながら歩いていた。
「全くまいったぜ。白河さんの知り合いに手ェ出すトコだったよ」
「何言ってンだよ。お前が声かけようって言ったんじゃねえかよ」
二人組は先程ナンパに失敗し、特に行くアテも無くただ街をブラついていた。
「あーあ、どーすっかなぁ。こんな時間じゃ女もいねぇよ。これだから田舎は」
「かと言って、店は金かかるからなぁ。どっかにイイ女は……おっ!」
愚痴っていた男達だが、一人が何かを見つけた。
「おい、見ろよ。すげぇ美人だぜ。一人だ」
「お! マジだ。これはイくしかないでしょ」
男達の目に止まったのは一人の女性だった。先端にだけ軽くウェーブのかかった長い髪、夏なのに長袖、ロングスカートという出で立ちの女性。だが、女性はそんなことを疑問に思わせない程美しかった。
「ごめーん! ちょっとイイ?」
男達は何の迷いも無くその女性に話しかける。
「あのさ、お姉さんこの後何か用事ある? もし暇なら俺等と遊ぼうよ」
女性はいきなり声をかけられキョトンとしていたが、すぐにナンパされているのだと気が付いた。
「ええ、この後特に予定はありませんよ」
「お、イイの?じゃあどっか行こうか?」
どこかに行こうという質問に女性は少し考え、そしてこう切り出した。
「そうですね、私の知っている秘密の場所があるのですけど、よろしければそこに行きませんか?」
「何? 何? 隠れ家的なトコ? イイねぇ」
「少し遠いですけど」
「市内なら余裕余裕」
「それでは」と女性は男二人を先導する様に歩きだす。そして、三人はそのまま夜の闇に姿を消していった。