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プロローグ

 十五年前


「恭輔は大きくなったら何になりたい?」

 俺が小学生の頃だ。夏の炎天下、畦道を親父と並んで歩いていた時の事、親父は俺にそんな事を訊いてきた。いきなりの質問だったが、俺はその時「お父さんみたいになりたい」と答えた。そうしたら、親父は嬉しそうに照れ笑いをしていた。

 親父は、とある理系大学で講師をしていた。実家と同じ県内に在る大学だが、家から通おうとすると片道二時間くらい掛かってしまうため、親父は大学の教員宿舎に住んでいた。親父が家に帰って来るのは盆と正月くらいで、一緒にいる事は少なかった。

 俺の実家がある所は辺りを山に囲まれたド田舎。家のすぐ横に国道が通ってはいるが、基本周りには田んぼしかない。

 親父が理系大学の講師をしていたという訳では無いのだが、子供の頃から科学は好きだった。生き物図鑑を読んだり、自然相手に遊び回るのが好きだったからかもしれない。だからだろう、将来親父みたいな研究者になりたいと思ったのは。

「そうか、それじゃたくさん勉強しないとな」

 親父はそう言って微笑んだ。

「恭輔は科学、好きか?」

 「好き」と俺は即答する。だが、この時の俺は科学が何であるかなんて大してわかっていない。せいぜい、小学校で習っている理科ぐらいにしか思っていなかっただろう。十五年経った今だって、科学が何であるかなんてわかっちゃいないんだから。

しかし、子供ながらも、科学が無ければ今の生活だって無いという事くらいはわかっていた。科学が無ければ、車は走っていない、飛行機は空を飛んでいない、高い建物も建てられない、……薬を創って病気を治すことも出来ない。確か、そんなような事を親父に話したと思う。

「ああ、その通りだ」

俺の話を聴いた親父はすぐに暗い表情になった。何か悪い事でも言ったかと思い、恐る恐る親父の顔を覗き込んだ。すると、親父はニコッと笑い俺の頭をくしゃくしゃと少し乱暴になでる。

「恭輔はお父さんみたいになりたいって言ってくれたけど、恭輔は恭輔のやりたい事をやりな」

 笑顔でそう言ってくれたが、親父の顔はどこか寂しそうでもあった。どうしてそんな表情をしているのかと、少し疑問に思うところもあったが、俺は「うん」と答えた。

 その後は、俺が親父の留守の間の事を話したり、親父のいる大学の事を聴いたりしながら田んぼ道を歩いた。日が暮れて、暗くなるまで喋りあった。親父が家に帰って来た時は、こうして二人並んで田んぼ道を散歩していた。親子並んで散歩をする。ごく一般的な何気ない光景だろう。だが、嬉しかった。俺はこの何気ない時間が、何気ない事が、とても嬉しかった。

次の日、親父は大学に戻ってしまった。もう十五年も前の事なのに、その日ははっきりと憶えている。

 訃報が来たのはこの二週間後だった。


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