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書き散らし  作者: 露岐
6/8

美しい人――微笑う

『美しい人』の美しい人(我)視点。

※美しい人のイメージが固定されるのが嫌、と感じられる方は退避推奨。

 其れは怯えていた





 わたしを見て

 我の姿を見留めて





 まるで我の存在が自分に仇名すかのごとく

 いつも室の片隅で息を潜めるように座っている、其れ





 我を恐れている


 逃れたいと思っている




 言葉はなくともその表情に浮かんでいるモノが物語っている

 縮めた痩身が訴えている




 だが其れは我の手を拒まない

 我の存在を黙って受け入れる






 腕を絡めて遣れば優しげな手付きで肩を引き寄せられる






 その顔を見たくてふと目線を上げれば

 まるで我ごと包み込むような深い漆黒の双眸とぶつかる






 その眼にはもう怯えた色は無く

 あるのはただ穏やかな眼差しのみ







 その眼差しに耐え切れず

 いつも先に視線を外すのは我






 我を恐れているのに

 其れはいつまでも我の姿を追う


 




 ある時は畏怖するように

 またある時は陶然と






 とてもとても嬉しそうにわらう時すらある





 それがわからない





 恐怖の対象である我を見て

 其れは相反する表情を浮かべる




 矛盾している





 逃げれば良いのに

 其れは抗うことなく我の差し出した手を取る





 絶えることなく

 其れは何度でも我の元へと戻って来る





 やって来るのではなく戻って来るのだと




 我は思いたがっている




 そして





 こうやって見つめ返されると




 戸惑っているのは





 逃げれば良いなどと思う一方で





 其れの不在を不安がり

 其れの存在に安堵している




 矛盾しているのは互いに同じ





 其れは我の存在に怯えていて

 我は其れの不在に怯えている


 

 とどのつまり





 その存在に拘泥しているのは我だけなのだと

 引き寄せてくる力に悦んでいるのだと





 ただ目の前の相手だけが気付いていない


 




 それで良いのだろう






 もしこの脆弱な心を知られたら

 卑屈な我自身を見付けられてしまったら







 其れは我の元を離れて行ってしまうかもしれない


 




 唯一つのその存在を失ったら

 我にはもう中身の無い抜け殻のようなモノしか残らない






 そう気付いてしまったから






 だから







 我は微笑う







 醜い本性を糊塗するように

 笑みの膜で厚く覆う 







 其れは少しだけ驚いたような顔になり






 何故か泣きそうな表情でわらった





美しい人も不器用な一人の人間なんだよ……って話。

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