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ふと青年は物置にある棚の上が気になって部屋から出た。
埃を被った中に飾ってあった、黒い猫の機械仕掛けの玩具。
今はもういない機械職人の父親と共に作った、一番始めに作った機械だった。
手にとってネジを回せば音の悪いオルゴールが物置に響き渡った。
思えば苦しいことがあると物置に駆け込んでこの機械を弄って音を鳴らしていた。
ただ気持ちが落ち着いた。
何時からかこの黒猫に頼らなくても良いようになって、今は満ち足りた日々を送っている。
自分が始めに作った、とはいえ元々父親が作った猫のオルゴールを父親に塗装はお前の役割だと任されて張り切って黒く自分で塗った。
何故白や茶ではなく黒猫なのかと父に笑われたのを覚えている。
もう何年も見ていなかったが。
コイツはもしかしたら自分をずっと見てくれていたねかも知れない。
今や機械を作る腕も上がり悩みいじける事など無くなってコイツから離れてしまっていたのかも知れなかった。
青年の古びた機械を見る目は懐かしさに優しげに細められていた。
「ありがとう」
…ありがとう。
カタリッと音がなってオルゴールは止まった。
黒猫はもう歌わない。
もう歌わない。