表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hori meets Girl  作者: ミスタ〜forest
1/3

その一

この小説は、私が連載している『暑さも寒さも彼岸まで』のスピンオフです。

読んでいない人には解らない箇所もあるでしょうが、そういう人は置いていきます。

 ある日の放課後。

 閑散としている図書室に、二人の男性が居た。

 一人は、冷たい雰囲気を放つ目をしており、ノートパソコンに向かってキーボードを打っている。

 一人は、その気になれば性別を誤魔化せそうな顔をしていて、静かに本を読んでいた。

 夕日が窓から差し込み、室内を赤く照らす。

 キーボードを打つ音と、ページを捲る音だけが、室内に響いていた。

「あの、棗先輩。僕、偶に思うんですけど……」

 唐突に、本を読んでいる方が静寂を破る。

 棗と呼ばれた男性は、目線で続きを促した。

 それに従い、彼は話を続ける。

「物語の主人公の様な人生って、憧れますよね。特に、漫画やライトノベルの主人公は。

何か特異な能力を持っていたり、次々と波乱を潜り抜けたり……。

僕は今でも、生まれ変われるなら彼らの様になりたいって思っています」

 この言葉に、棗は手を止め、見下した様な溜め息を吐いた。

「愚かしい。虚構は第三者として傍観しているから面白いのです。

当事者に成ってしまえば、其の様な勘えは出来ませんよ。

特に堀さんは、主人公の荷を背負える様な人ではありませんし、ね」

 そして、溜め息混じりに述べる。

 堀と呼ばれた男性は、少し不満げな表情を浮かべ、

「棗先輩には、僕の気持ちなんて解りませんよ。

文芸の能力に秀でていて、地位は現美研の副部長。

遊戯銃術の誉れ高く、十六夜の使徒の二つ名を持つ。

もし漫画やライトノベルの世界なら、主人公になっても不思議じゃありませんよ」

 恨めしそうに言った。

 棗は再び、大きく溜め息を吐く。

「其処迄云うのでしたら……其の身を以て試してみますか?」

「……え?」

 その瞬間、堀は目の前が真っ暗になった。



「兄貴、起きろ。……兄貴! 兄貴ってば!」

「ん……あ……?」

 揺さぶられる感覚を覚え、堀は目を覚ました。

 半分眠っている目で、周囲を見渡す。

 ここは自分の部屋。そしてベッドの上。

 自分を起こしてくれたのは、妹だ。

 妹と言っても、生年月日は同じで、産まれたのはほんの数分差。

 二卵性双生児だからなのか、自分とは正反対の女性である。

「僕が(なぎさ)に起こされるなんて……。今、何時です?」

 眠い目を擦りながら、堀は渚に尋ねる。

 渚は、目覚まし時計を彼の眼前に突き付けた。

 それを見て、堀は顔色を変える。

 ベッドから飛び起き、大慌てで学生服を手に取る堀に、渚は溜め息を吐いた。

「兄貴が起こしてくれないから、オレもちょっと危ないんだぞ」

「だったら自分で起きる努力をして下さい!」

 慌てている所為か、渚への返答も切羽詰まったものになる。

 寝巻を脱ぎ始めた堀に背を向け、渚は部屋の出口に向かった。

「……が起こ……るのが良……けどな……」

「何か言いました?」

「いや、何も。朝飯はオレが用意しといたぞ。

じゃ、先行くから。……あーあ、ウチのトコは遅刻に厳しいのに……」

 溜め息混じりに呟きながら、渚は家を出ていく。



 堀は、いつもの通学路を、いつも以上に急いで駆けていた。

 こういう時だけは、文化系の柔い肉体が恨めしい。

 普段なら、もっと余裕を持って家を出ているのに。

 朝食も、自分と渚の弁当も作り損ねてしまった。

 今日の昼食だけは購買で買う事にして、彼女にもそうして貰う事にしよう。

 そんな事を考えていた所為か、飛び出してきた人影に対応する事が出来ず、

「きゃ!?」

「ひゃあ!?」

 衝突してしまった。

 思いっきり尻餅をつき、意識が少し混乱する。

「いたたた……ご、ごめんなさい! 私ってば急いでて……。

あの、大丈夫ですか? 怪我してませんか?」

 我に返って前を見ると、相手も同様に尻餅をついていた。

 自分と同じくらいの年頃の少女。

 身長も、自分と同じくらいの百六十センチ辺りと目算する。

 無駄の無い綺麗な身体は、維持するのに如何ほどの労力が要るのだろうか。

 言葉通り心配そうに向けられた瞳は、果ての無い奥底に飲み込まれそうな程に深い。

 栗色の長い髪が、身動ぎに合わせて揺れながら、美しい光沢を放っていた。

 よくよく見れば、自分の高校の制服である。

 少なくとも、自分は見た覚えの無い女性だが。

「い、いえ。僕は問題無いで……」

 答えようとして、ふと言葉を詰らせる。

 彼女の容姿に奪われた目が、最終的に行き着いた先は……。

「……白……」

「…………?」

 堀の呟きに、少女は最初、怪訝な表情を浮かべる。

 だが、すぐにその言葉の意味に気付き、彼女は頬を真っ赤に染めた。

 急いで、スカートを押さえつつ立ち上がる。

 堀の視界から消える白。

 少女は、数十センチ離れた所で中身を吐き出していた鞄を手に取り、

「バカ――――――――――!」

 殺気を感じた時には遅過ぎた。

 何か固い物が、堀の横顔を直撃する。

 起こしていた上体が、叩き付けられる様に地を嘗めた。

 激しい衝撃に脳内が揺れる中、凶器が鞄である事だけは認識出来る。

 堀を一撃でKOした少女は、煮え繰り返った表情で去っていった。



 どうにか間に合った堀が、朝のHRから頭を抱えていたのは、まだ患部が痛むからではない。

「今日からこのクラスで共に学ばせて頂く、渋谷京子(しぶやみやこ)です。

至らない点もあると思いますが、何卒よろしくお願いします」

 さっき殴られたばかりの、白が印象的だった少女が、自己紹介をしているからだ。

 まるで、物語の世界の様な偶然である。

「じゃあ……そこの席が空いてるから」

 教師に促され、京子は指定された席に向かう。

 そこは、

「……ふん」

 堀の隣の席だった。

 案の定、京子の表情は冷たいものだ。

 席に座ると、明らかに意図的に、堀を視界から外した。

 今まで、多少地味ながらも平穏な学生生活を過ごしてきたつもりである。

 だが、それにも翳りが見え始めた様だ。



「ふーん、そんな事があったんだ」

 休憩時間になり、堀はアリスと真琴に今朝の事を話した。

 授業が非常に気まずくて集中出来ないので、もう形振り構っていられない。

 真琴が「望月さんも、今日は白っスよ♪」と言った時は、少し不安を覚えたが。

「堀さん、大丈夫っス。寧ろチャンスっス」

「どうして……ですか?」

 自信有り気に言う真琴に、堀は怪訝な表情を浮かべた。

「きっと、それはフラグっス。転校生にありがちなパターンっスよ」

 そんな堀に、真琴はあくまでも自身たっぷりに述べる。

 もちろん、その自信の出所は定かではない。

「もっと真面目に考えて下さいよ、漫画や小説じゃあるまいし。

僕は只、ありのままに今起こった事を話しているだけなんですから」

 堀は、真琴を咎める様に言った。

 不安が的中し、いよいよ前途多難な雰囲気が漂う。

 こうなると、アリスに一縷の望みを託すしか無いのだが、

「良いなぁ、ボクもそんな初登場が良かった……。

押し倒してもキスしても既成事実作っても、全部事故に出来たのに……」

 それも途切れてしまった。

 堀は溜め息を吐き、自分の席に戻る。

 放課後に、藤原や秋原を頼ってみる事にしよう。

 それまでは、ひたすら耐えるだけだ。

「冗談っスよ、冗談」

「もう、お約束を解ってないなぁ」

 二人が、苦笑しながら堀の側へ歩み寄る。

 幸い、今は京子は居ない。

「ボクが仲を取り持ってあげるよ。転校生の気持ちは、それなりに解ってるつもりだから。

きっと、転校初日だから独りで淋しいと思うんだ。そこに付け込めば、心も体も思いのままだよ♪」

 アリスが、弾んだ笑顔で提案した。

 明らかに何か思い違いをしている様だが。

 とは言え、自分一人では無理があるのも事実。

 協力してくれるのだから、ここは素直に甘えよう。

「判りました。よろしくお願いします」

そう考えた堀は、二人に頭を下げた。



 昼休みの教室。

 京子は、自分の席で、一人で弁当を食べていた。

 そんな彼女を、遠巻きに見ている生徒が三人。

「じゃあ、ボクが渋谷さんを上手く宥めるから、マコちゃんは頃合を見て堀君に合図してね。

で、その後は堀君の漢っぷりに任せるから」

「了解っス」

「判りました」

 確認を取ると、

「アリス、行っきまーす♪」

 声を弾ませて、アリスは京子のもとへ向かった。

 その様子は、『初めてのおつかい』と銘打っても不思議ではない。

 実際、真琴は、慈しむ時の瞳でアリスを見守っている。



「やっほー♪」

 京子の隣まで行くと、アリスは気さくに声を掛けた。

 自分に向けられた言葉である事に少し遅れて気付き、京子はアリスの方を向く。

「な、何ですか?」

 その返事は、大量の戸惑いを孕んでいた。

 初めての環境で、初めて会う人に、ここまで親しげに声を掛けられたのだ。

 焦ってしまうのも、無理は無いだろう。

「初めまして、同じクラスの望月アリスです。よろしくね、シブシブ」

「し、シブシブ……?」

 それにも構わず、アリスは自己紹介をし、京子にニックネームを付ける。

 アリスにとっては恒例行事だ。一部の例外を除いて。

 由来は、本人によると、

「渋谷だからシブシブだけど……ダメかな?」

 という事らしい。

 アリスの勢いに押されたのか、京子はぎこちなく頷いた。

「で、話があるんだけど……」

 万全の皮切り――少なくとも、アリスはそう思っている――から、アリスは本題に移る。

「シブシブの隣の席の……堀君の事なんだけど……」

「…………」

 同時に、京子の表情が、不機嫌にそれになった。

 少し気まずくなり、アリスは一瞬たじろぐが、すぐに話を続ける。

「堀君もワザとじゃないし、反省してるみたいだし、許してくれないかな?

キミが隣だから、尚更気に病んでいるんだよ。

勝負下着見られた訳じゃないんだし、根に持つ程胸が小さい訳じゃないでしょ?」

 共学の学校とは思えない発言も、アリスは完全に無自覚である。

 京子は両腕で胸を隠しながら、

「……『胸が狭い』?」

 アリスの誤字を訂正した。

 そして、小さく溜め息を吐き、

「言いたい事は解るわよ。私だって、いつまでもネチネチ言ってくる人は嫌だし。

……でも、こっちが心配してるのに、あっちは下着を眺めてたなんて、納得出来ない。

好きな人にも見せた事無いのに……好きな人居ないけど。

自分の内側を晒け出せる様な人が現れるまでは、貞操を守りたかったの。……解る? 傷物にされた私の気持ち」

 愚痴る様に述べた。

 京子に問われたアリスは、

「うんうん。『初めて』は心に決めた人に捧げたいよね。

ロマンチックな場所で、ロマンチックなシチュで、ロマンチックに奪われたい気持ちは解るよ。

なのに堀君ってば……カワイイ顔して不潔なんだから」

 何の為に話し掛けたのか解らない程に共感していた。

 しかも、明らかに話が繋がっていない。

 果たして、どこでねじ曲がってしまったのだろうか。

 『気の合う人』と認識したのか、京子は更に話を続ける。

「こんな話してきたって事は、あいつの友達? ……やっぱり、貴女も何かされたりしたの?」

「ううん、ボクの夫の友達だよ。

何かされた記憶は無いけど、堀君って個性も存在感もオーラも無いから、気付いてないだけなのかも……」

 アリスの発言に一部虚偽が有るが、堀にとっての問題はそこではない。

 こうして、どんどん話が変な方向に発展していった。

「堀さん、今こそ発進っス!」

「無理に決まってるじゃないですか!」

・実は、『明なら働いてみよ光なら学んでみよ』連載の傍らで書いてた

・これを載せれば、決して私が執筆をサボってた訳ではない事を理解して貰えるかも知れない

・でも、本編はまだ働学編を連載中

・しかも、HG編も未完成

・なら、新しい連載にしてしまおう!


……これが、この作品を新連載で始めた経緯です。

誹謗中傷お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ