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とあるバレンタインデーの裏話

作者: 水守中也

全国のお父様方に先に言っておきます。

すみません。

「ねぇねぇ、おかあさん、愛理にお菓子の作り方おしえて~」

 夕方の忙しい時間帯に、娘の愛理がぴょこぴょこと台所にやってきた。

「お母さん、これから夕食のカレーを作るから、あとでね」

「えー、今すぐ~」

 愛理がエプロンを引っ張ってくる。いつもは聞き分けの良い子なので珍しい。私は愛理に視線を合わせるようにしゃがんで聞いてみた。

「愛理は何を作りたいの?」

「うーんとね、チョコレート!」

「へぇ」

「だってね、明日はばれんたいんだもんっ」

「あらあら~」

 ついに愛理もバレンタインを意識する歳になったのねぇ。

 私は初めて手作りのチョコを用意した小二の冬を思い出した。

 恥ずかしがり屋の私は初恋の相手に直接チョコを渡せず、彼の下駄箱にそっと入れておいた。が、その日はたまたま暑くて蒸していた。結果どうなったかは、説明するまでもないだろう。テロリズム呼ばわりされたのも、今は良い思い出だ。

 ――それはともかく。

 私は色々と手間が省ける一石三鳥の妙案を思いついた。

 夕食、チョコでいいや。

「それじゃ、チョコを一緒に作りましょうか」

「やたぁっ」

「まずは野菜を切りましょうね」

「チョコなのに、おやさいなの?」

「ええそうよ。アーモンドチョコってあるでしょ。今から作るチョコには、もっとたくさんのお野菜を入れるの。食べる人の健康を考えているのよ」

「わぁい。愛理、おやさい大好き」

「うふふ」

 安上がりで助かるわ~。

 愛理に手伝ってもらって、ざく切りにした野菜を鍋に投入。作るのはチョコレートなので、お肉は抜き。

 油とあえて軽く炒める様子を興味深げに眺めている愛理に声をかける。

「チョコレートって、なにから作ると思う?」

「んとね、チョコの実!」

「残念でした。実はね、市販されたものを溶かして固めるだけなのよ」

 私は火を止めて、お菓子入れを覗く。チョコレートの素になりそうなものはなかった。かといって今から買いに行くのはめんどい。私は決めた。

 チョコレート、カレーでいいや。

「というわけで、チョコレートの素を溶かします~」

 私はそう言って、お鍋にカレールーを投入した。

「ぐつぐつだよ~。でもチョコっぽくないよ」

 椅子に乗っかって、お鍋の中を覗き込んでいる愛理が言った。

 お鍋の中の液体は茶色というより黄色。愛理の好きな「月のお姫様カレー(甘口)」だからかしら。

「んー、そうねぇ。これを入れてみましょうか」

 私はパスタ用に置いてあるイカスミの素を投入した。

「わぁチョコっぽくなったぁ」

「チョコが黒いのは、作っている人の憎悪が込められているからなのよ」

「ぞうお?」

「そう。ライバルの女に向けて、憎いとか嫌いと死ねって感情よ」

 愛理はまんまるほっぺを膨らました。

「なんか、あんまりかわいくない~」

「あら、そう? じゃあお詫びに、とっておきのお話を教えてあげる。好きな男の子を落としたいのならね、女の子のお股から出てくるおしっこじゃない液体を隠し味に加えるといいのよ」

「よくわかんない」

「ふふ。愛理にはまだ早かったかしら。でも年頃の女の子はみーんなやっているのよ」

「そうなんだぁ。愛理も早く大人になりたい!」

「うふふ。その言葉を、ロリコンさんの前で言っちゃ駄目よ~」

 椅子に座って足をぶらぶらさせながら、愛理はお鍋を指さした。

「ねぇねぇおかあさん。なんか、カレーっぽいにおいがするよ」

 だって、カレーだもん。仕方ないわねー。やっぱこれを入れましょう。

「はい。ココアー」

「えぇー?」

「ふふ。ココアはね、飲ませただけでツンデレの子はチョコをあげた気になって、もてない男の子は飲んだだけでチョコを貰ったと勘違いできる、バレンタインの最終兵器なのよ」

「わー、さいしゅうへいき、かっこいー」

 お鍋の中にたっぷりとココアパウダーを入れた。うん、これで名実とともにチョコレートだわ。一応、とどめも刺しておきましょうか。

「お菓子だから、最後にお砂糖を入れましょうね~」

「わぁい」

 いい感じでとろみが出てきて、フローラルな香りが漂ってきた。

 はい、完成。

 おたまでひと掻きして火を止めて蓋を閉じる。

「ところで、このチョコレートは誰にあげるの?」

 私が尋ねると、愛理は嬉しそうに声をあげた。

「おとーさん!」

 なーんだ。どこの馬の骨かと楽しみにしていたので、ちょっと残念。

 でもこれは渡りに船だわ。

「お父さん、きっと泣いて喜ぶわよ~」

 ――色んな意味でね。

「うんっ!」

 満面の笑みを浮かべて、愛理がうなずいた。



 チョコが出来て満足した愛理は、テレビを見に居間に戻った。

 夕食用に自分と愛理の二人分のレトルトカレーを湯煎しながら物思いにふける。


 今年のバレンタインもココアになっちゃったなぁ。

 まいっか。別に愛理が言ったから作ったわけで、あの人のために作ったわけじゃないし?

 そうそう。足の蒸れた匂いのチョコとカレーチョコ、どっちが美味しかったか、あとで聞いてみよっと。バレンタインは明日だから、夕食は日付が変わるまではお預けだけどね。

ライトノベル作法研究所鍛錬投稿室掌編の間に以前投稿した作品を、皆様の意見を参考に少しだけ手を加えてこちらに載せました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょ、このお母さんロリッ子に何教えてるのっ? そしてお父さんは被害者なの、それともMなの? 踏まれると嬉しいの、罵られて興奮するの? 以上、素直な感想でした。 とりあえず私は普通のカレーが美…
[一言] お父さんが可哀そう……(^^; 最初に読んだ感想がそれでした。 2回目読んで、「あ、なるほど。このおとうさんはMなのか」とか想像して笑いました。足の蒸れたチョコが好きなんて(笑)。チョコが…
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