転生令嬢はないしょの占い師 〜インチキ占いで天下を狙います
「先生! 今シーズンの幻獣占いの原稿はあがりましたか」
「待って、あと一つラッキーアイテムが決まってないっ」
そもそも、異世界転生して、こんなことをする気はなかったんだってば!
§§§
もしもそんなことになったらこうしよう! と、起こりそうにないことをあれこれ考えるのは、日常の合間に誰もがする他愛ない息抜きの一つだ。
人気街歩きグルメ番組の芸能人と出会っちゃったら、どこの店を教えようかな? とか、学校の校庭に突然ヘリコプターが着陸して、黒服のやばいのが降りてきたらどうしよう? とか、うっかり異世界転生しちゃったら何で無双しようかな? とか……そういう気楽な妄想は、無意味だが楽しい。
私も通学の満員電車や、退屈な授業などでの暇つぶしに、ときおりその手のことを考えた。
もちろん、私は特に主人公タイプではなかったので、何かの職人的技術を極めていたり、一子相伝の武術を嗜んでいたりはしなかった。当たり前だが本当の一般人は、Web小説やコミックに出てくる"普通の女子高生"みたいに尖った技能形成はしていない。
転生者モノにでてくる女主人公は、やたら料理の原材料からの手作り手順に詳しかったり、謎に農業知識があったり、ちょっと考えられないぐらい多才なのだが、あれは私には無理だ。薪窯が使えて、天然素材から調味料や化粧品自作できるって、凄すぎでは?
SNSやWeb小説やコミックを楽しみつつ、現代文明の簡便さをたっぷり享受して育った私は「私には無理だなぁ」と笑って娯楽を消費していた。
だから、うっかり異世界転生してしまったときには、マジでどうしようかと思ったよ!
いやもうホントに勘弁してほしい。原因も要因もわからずに当事者になるのしんどい。
幸い、”悪役令嬢”でも"聖女"でも"勇者"でもなく、微妙にメインキャラを外れたモブ転生っぽかったのはありがたかった。転生に気づいて三日で断頭台とか言われたら凡人にはなすすべもない。
逆に赤ん坊時代からスタートでもなかったのも助かった。前世メンタルで幼少期にお世話されるところから体験するのは自尊心と羞恥心が多分耐えられなかったと思う。
知らんママのおっぱいとおしめ替えは嫌です。はい。
だから、14歳でほんのり前世を思い出し、徐々に今の世界の自分になじめたのは不幸中の幸いだった。
「従者がいてドレスを着る生活は嫌いじゃないけど、コルセットは好きになれないわ」
「文句を言わないで、急いでください。もう車寄せにウォーレン卿の馬車が入っています」
「訂正。口うるさい従者は嫌いかも」
「お嬢様。口うるさくしないでもよい行動をお願いいたします」
「はいはい。"はい"は1回ね」
私は西洋のおとぎ話的な王国のちょっと良い身分の貴族の娘として、虐待も不自由もなく育った。
国は大国で戦乱期でもなく、いたって平和。凡庸で担ぎやすい国王と数人の王子、ほどほどにうねうねした宮廷政治という、ぼちぼちの環境でデビュタントを迎えられたのは幸運だと言えるだろう。
従者に急かされながら、私は私的なお茶会用の華美過ぎないドレスにお気に入りの青いブローチを合わせて、客人を出迎えに階下に向かった。
転ばない程度に急ぎ足! 大事なお客様を待たせるわけにはいかない。
当事者になってみてよくわかったのだが、平和で大きめの王国の貴族社会で若い令嬢をするとなると、それなりに器用なバランス感覚での社交術が必要になる。もちろん親は重要な情報源だが、親の言うとおりに大人しく引きこもって世間知らずの箱入り娘をしていると、つまらない目にあうのは確実だ。
私の周囲でも「お前との結婚を破棄する」をリアルで婚約者にやられて泣き寝入りした娘がいる。
私には、その手の災難にあってから挽回できるだけの才覚もないし、世界を革命するだけの技術チートもない。だから、できる範囲で円満な交友関係を築けるよう頑張っている。
その大事な社交のキーマンが、本日のお客様だ。
「ごきげんうるわしゅう」
「やぁ、クリスティーン。今日も可愛らしいね。そのブローチもよく似合っている」
ウォーレン卿ジェームズ・ブラフォード。国王の甥にあたる方で、私のアドバイザーである。
すっきりと整えられた黒髪。男性的だが油ギッシュではない顔立ち。高級紳士服店の広告になりそうな体形に、上品で落ち着いた高級紳士服(当然オーダーメイド)を嫌味なく着こなしている。
私より一回り歳上で、理性的。
唯一の欠点は、私のことを面白いハムスターか何かだと思っているのであろう目つきと、皮肉げな口元だ。……あ、欠点二つだった。
本来なら、未婚の令嬢が婚約者でもない男性と私的なお茶会の席を設けるのは、褒められた話ではないのだが、彼は遠縁のいとこみたいなものなので、双方の家で了承されている。私にも卿にもまだ正式な婚約者がいないのも、大目に見てもらえている一因だろう。
とにかく、私は卿と(あまり大っぴらではない)小さなお茶会でしばしば顔を合わせていた。ウォーレン卿は知見と交友関係が広いので、大変役に立つ社交の情報源なのだ。
しかも彼は私のひそかなちょっとした"趣味"の全面的な協力者だった。
「それで、今シーズンの占いは?」
「もちろん、できあがっておりますとも!」
従者が差し出した原稿に、ウォーレン卿は静かに目を通した。
『自信家で負けず嫌いな太陽のフェニックスタイプのあなたは運気上昇中。
いつもはしない行動が気分を明るくします。迷ったらやっちゃえ!
ラッキーカラーはゴールド。
ラッキーアイテムはルビーの指輪。
ピクシータイプと相性☆☆☆』
「なるほど」
『社交的だけどちょっぴり気分屋なところのある月のピクシータイプのあなたは波乱の運気。
誰と一緒に過ごすかで運勢が大きく変わりそう。
とびっきり素敵な人と最高の時間を過ごしたいよね。
ラッキーカラーはピンク。
ラッキーアイテムは花模様のアクセサリー。
フェニックスタイプと相性☆☆』
「相変わらず見事に頭の悪い感じの文章で素晴らしい」
「褒める気があるならもう少しまっとうに褒めてくださいと、いつもお願いしていますよね」
私のボヤキは放置して、ウォーレン卿は残りの原稿を手早く確認した。
「ラッキーアイテムを数カ所直せば、これで良かろう」
「ううう。もうラッキーアイテムは、そちらで適当に埋めていただくわけには?」
「いやいや、そこは霧姫キララ先生の腕の見せ所なので」
「その名前を口に出さないでっ」
「やはり"ミスティプリンセス"より"ムーンプリンセス"で売り出したかったと?」
「こんなこと始めた自分をぶん殴りたい」
大変不本意ではあるのだが、実は私は、匿名でインチキ占いを社交界に流している。
占いといっても中世の魔女的な呪術や本格的な占星術ではなく、現代日本ではネットで手軽に遊べたレベルのなんちゃって版だ。
"乙女座のあなたは恋愛運急上昇"みたいなアレとか、Yes/Noで分岐を辿る性格診断みたいなソレとか……まぁ、そういういい加減なお遊びなので結果に神秘も根拠もない。
しかしこれがびっくりするほど流行った!
よく考えたらこの世界の社交界ときたら、娯楽が少なくて、狭い人間関係で話題に乏しい環境に、迷信大好きで金の余った暇人がたむろしているのだ。そりゃ入れ食いである。
日本人時代の私も、手を変え品を変え出てくるそれらの暇つぶしを日々楽しく消費していたので、人のことを言えた義理ではないのだが、世の中、有閑貴族が多すぎる。
とにかくインチキ占いは、アホみたいにウケた。
最初にちょっとした話題作りのつもりで数人の友人に試した時点で、相手の尋常でない食いつきに危機感を覚えた私は、即座に自分は発案者ではないことにした。
「私が占いました」と言って魔女狩りにあってはたまらない。
「これは最近なんかこっそり流行っているみたいなんだけれど……」「私も知り合いの知り合いからの又聞きで詳しくないのよ」で無難に逃げるのが正解。
面白い流行の最先端の話題を提供できるのは、令嬢同士の付き合いでは強みになる。特殊な異能があるより、そういう才人の話題に詳しいだけの方が、直接付き合う相手としては良いと判断されるのだ。深窓のお嬢様方は奇人の相手はしたがらない。
私は「アイツやばい」の領域までには踏み込まず、「良いツテ」ぐらいに見てもらえるように、ネタの流し方に気を使いつつ、ちゃちな占いを武器に交友関係を広めた。
そして気が付けば私は、架空の占い師を捏造して、隠れてせっせと原稿を書く羽目になっていた。
成行きと悪乗りって恐ろしいとしか言いようがない。
……いや、これに関しては、私だけが悪いわけではない。ないったらない。
ウォーレン卿がいけないのだ。
あれは忘れもしない、親族のみのガーデンパーティー。"気になるあの人の第三ボタンを使ったデイジー相性占い"が尾ひれ付きで爆発的に流行った第一次ブームの時だ。
私は、ウォーレン卿の第三ボタンがないのに気付いて、つい冷やかしてしまった。
いつも紳士的で礼儀正しい真面目な堅物の印象だった彼が、若い令嬢の他愛ない遊びに巻き込まれているらしいのが面白かったからだ。
「あら……ボタンはかわいいお嬢さんとお花畑にお出かけですのね」
ウォーレン卿は私の軽い冗談を社交的な大人の笑顔でサラリと受け流し……てはくれなかった。
私はその時初めて、彼の目元が礼儀正しい無関心以外の表情を浮かべるのを見た。
「そうも無責任な態度でいいのかね? 火元は君だろう?」
後から卿に言われたところによると、この時、私の口から出た「くわぁっ」という声は、絞められかけたカモのようだったそうだ。ひどい。
とにかく、初手で狼狽してしまった私は、ウォーレン卿の良い獲物になった。
「な、なぜそれを……いいえ、何でもありません。げふんげふん」
「お嬢さん方のお遊びの中では、なかなか上手くやっているように思えるが、急に流行らせすぎだな。調子に乗っていると、じきにつまらないことになるぞ」
「すぐ止めます。直ちに手を引きます」
「ふむ」
物静かで素敵な憧れの紳士だったはずのウォーレン卿は、にまぁと悪い笑いを浮かべた。
「相談に乗ろうじゃないか」
純真な私は、あっさり自分の手の内をゲロって……もとい白状して、"占い"と言ってはいるものの、神秘的な要素は一つもないと説明した。単純に統計と心理学に基づく叙述トリックみたいな手法なのだ。
私のように狭いコミュニティで楽しめればいいのであれば、あて書きができるので簡単だ。
「お友達の誕生日は知っていますから、そこから逆算して、"当たるように"結果を作るんです」
「特徴的な目立つ有名人を例に挙げれば、それほど極端ではない人物は、"そういう部分もあるかも?"という納得で押し切れるというわけか」
「人間誰だって多面的ですから。それに、少しは外れるぐらいの方が安心感がありますしね」
「なるほど」
「主体性のない人ほど占いで刷り込まれた自分に忠実になって行動が変化するし、ゲンを担ぐ人は、これが幸運のアイテムだというとそれだけで購入して身に着けますから、上手くやると女の子同士の流行ぐらいは左右できますよ」
困ったことに、ウォーレン卿はこの情報化社会由来の概念の塊に並々ならぬ興味を示した。
「大変に面白い。どうだね? 君に害が及ばないように協力するので、もう少し君のその愉快な発想を活用してみる気はないか」
「愉快な発想……」
「どうせ隠れてやるなら、こそこそ怯えずに、本格的に隠ぺい工作すると、なかなか楽しいと思うぞ」
その結果、爆誕したのが、正体不明の謎の凄腕占い師、霧姫キララ先生である!!
……泣きたい。
§§§
本格的に王宮の貴族丸ごとを相手取るならと、ウォーレン卿は私に分厚い貴族名鑑を貸してくれた。
「ええっ、こっちのこれは歴代王族の詳細が載ってますよ?! こんなものホイホイ私なんかに貸しちゃっていいんですか。っていうか、お借りして、私に、何をどうしろとっ」
「活用したまえ」
彼は、人が撲殺できそうな分厚い貴族名鑑の山を、気軽にトンと叩いた。
「君の言う"ビッグデータ"だ。"統計的に有意なサンプルサイズ"とやらには十分だろう」
「無理です。私こんなに沢山の面白くない文字の羅列読めません!」
「正直だな」
正直者のバカへのご褒美は、算術と文書整理が得意な有能な従者だった。
この賢い従者は、私のために誕生日順にソートされた主要貴族一覧を、各人の趣味や性格の傾向の一言コメント付きで作成してくれた。くうう、課金したAIより気の利く従者くん凄いっ。
私はわからないことがあると従者を通じてウォーレン卿に質問し、ウォーレン卿はよくわからない情報源から必要な答えを引っ張ってきてくれた。
有能魔人め。裏で何やっているかわかったもんじゃないな。
てか、私、色々知りすぎてませんか? 大丈夫?
切り捨てられる闇バイトは嫌ですよ。クワッ、クワッ。
最初は若干腰が引けていた私は、充実した資料を前にあれこれそれっぽい関係性をでっち上げているうちに、すっかりその楽しさにはまってしまった。
「いつ生まれたかによって、人格形成の基礎となる幼少期をどんな季節で過ごしたかという差が出てくるから、誕生月による性格傾向というのはあながち故のないものではないのよ」
特に貴族社会はシーズンごとに行事や行動が決まっているのでパターン化が激しい。
例えば、本妻の実子と庶子の生まれ月の分布には偏りがありすぎた。なぜかと尋ねたら、王都での社交シーズンと地方の領地で過ごす期間が影響しているのではないかと言われ、げんなりした。
要因と結果があからさまなリアルって身も蓋もないわ~。私はもう少しファンシーな夢のある占いの方がいいと思うなっ。
しかし、残念ながらウォーレン卿は、現世利益直通のリアリストだった。
彼は、風を吹かせて桶屋に恩が売れるタイプの貴族だったのである。
私がせっせと書くチープな占いの文面を見て世の貴族が思い浮かべるもの……つまり「凡人はこれをそのまま入手するだろうが私はハイセンスな貴族なのでここは一つアレンジしてこんな感じで」という路線を、ウォーレン卿は的確に予測して、高級品の市場と相場に存分に影響力を発揮した。
直接自分が儲けるのではなく、次の流行をにおわせることで、利益を出させたい相手に利益を掴ませるという彼の手法は、基本発想こそ私と同じだったが規模も精度も段違いだった。
「なんでこの成金商人に儲けさせちゃうようなプランを? こいつ隣国の息がかかった身中の虫でしょ」
「ああ。そこで悪目立ちするぐらい儲けてもらうと、やっかみと足の引っ張り合いが始まって、内部告発が出てくるから」
大事な部下と国の資金を投じなくても、市場原理で自滅してくれるならありがたい。と語って優雅にお茶を飲むウォーレン卿の目は、礼儀正しい無関心。さすが純正品は、転生者の私のようななんちゃって貴族とは格が違う。
「あっ、そうか。この商人、グリフォンタイプだから、グリフォンタイプは来季、破滅の予兆入れときましょう。リアルタイムスキャンダルは信ぴょう性上げに有効だから」
「ひどいことを思いつくものだな」
「ダメですか?」
「来季の情報展開のタイミングに合わせて没落するよう、その他の要因を調整してやろう」
「待って。タイミングに介入できるなら、こっちの案件と組み合わせて進行させたいかも」
「プランを聞こう」
こうして架空の占い師名義でリリースされる"幻獣占い"は、よく当たると人気を博し、シーズンを重ねるにつれて徐々に影響力を増していった。
§§§
日差しの明るいテラスにセットされたティーテーブルに筆記具を広げて、私はうなっていた。
「ピクシーのラッキーアイテムが思い浮かばない~」
アイディアのヒントを求めて周囲に目を走らせる。テラスに敷かれた花鳥紋のタイルはかわいい。
タイル……タイ……男物はダメ。タイル……陶板……陶器……ティーカップ……この前出した。
「早く決めたまえ」
「どやかましい。ラッキーアイテムをタイヤキにされたくなかったら黙っててください!」
ウォーレン卿はいつもは湖水のように薙いでいる青い目を丸くして、それから愉快そうに細めた。
これは余計なことを言う気だ。私にはわかる。日ごろは寡黙な紳士のくせに、私とのお茶会の時に限って、この人はたちの悪い子供みたいな振る舞いが増える。
「君の語彙が極めてユニークなのは認めるが、先生はそういうペルソナではなかったのではないかな」
「そういう魚も棲めない山奥の湖みたいな目で人を見透かすのはよしてください」
「魚がいないなら水鳥を探すとしよう。鴨がいいかな」
「獲物は餌がないと来ませんよ」
「よくわかっているじゃないか。さぁ、上手い撒き餌を考えてくれたまえ」
ウォーレン卿は、いつもはめている白手袋を外して、小皿に乗った小さな砂糖菓子を摘まむと、私の口元に差し出した。
くそう。完全に餌付け済みの家禽扱いだ。
私は美味しい甘味をもぐもぐごっくんし、お茶をぐいっと飲んで、脳に糖分とカフェインを供給した。
よし。バッチリだ。名案が浮かんだ。
思いつかないときは人に聞けばいい。
「今、書いている占いがリリースされるシーズン早々に人気の男爵令嬢の誕生日が来ます。男性が女性に贈るもので、バリエーションがそこそこあって、新規性と話題性が見込めてムーブメントにしやすい、いい感じの流行りものアイテムで、かつ、第一王子ならとんでもない代物を持ち出せる物って何かありませんか?」
「ふむ」
ウォーレン卿は、ゆったりと椅子に背を預けて、長い脚を悠々と組み替えた。
「真珠はどうだ?」
「真珠! いいですね。淡水真珠は比較的手ごろでカラーバリエーションも多いし、一粒イヤリングでも、連にしてネックレスでもいけます。水属性感が若干気になりますが、"月"のピクシーだから神秘的なイメージの路線ということでありにしちゃいましょう」
「ラッキーカラーはピンクだったな。王宮の宝物庫に大粒のピンクホワイトの真珠の指輪がある」
「その指輪、座金は? 指輪本体の金属は何色ですか?」
「金だ」
「パーフェクトです」
私は「ルビーの指輪」と「花模様のアクセサリー」を、「由緒ある指輪」と「真珠のアクセサリー」に書き換えた。
「早急に淡水真珠の供給を。最初に数を押さえてください。その中からまず、比較的質の良いものを人気の宝飾職人に渡して、何点かの小物の一部に使ってもらいましょう。二級品以下はその後で一般の職人の素材箱に送り込んで」
「占いの早バレを入手した層がオーダーする段階と、噂の拡散後に気づく連中が手に取る段階で、価格と品質がそれぞれ適正になるようにすればいいのだな」
一を聞くと二十ぐらい実行できちゃう人って頼りになるなぁ。
「よしよし。これでばっちりですね。あとはお任せします。あー、ケーキが美味しい」
私がプチフールをもぐもぐする隣で、ウォーレン卿は早速、従者にいくつか指示を出していた。
「それにしても」と彼が切り出したのは、私がマカロンを食べかけたところだった。
「なぜ、君はあの男爵令嬢をピクシータイプの筆頭として注目することにしたのだ? 今でこそ彼女は第一王子を含む大勢の取り巻きを得ているが、君があの娘をターゲットに定めたのは彼女が無名の頃だったろう」
「ムムム、むぐむぐ」
「答えたくないのか、マカロンが喉に詰まったのか、どちらだ?」
卿に背中をさすられながら、私は控えめに「それは秘密です」と小声で答えた。
彼には占いのバックヤードは全部教えているが、私が異世界知識持ちの転生者だということは話していない。
だってそれはちょっとエキセントリックすぎる妄想だと思われかねない。霧姫キララ先生は偽名だからシャレになるので、ガチで前世とか言い出すのはシャレにならない。リアリストな彼に、行き過ぎた変人と思われて距離を置かれるのはつらい。
その上、この世界はおなじみの悪役令嬢テンプレ世界っぽいなんて、どう説明すればいいのやら!
キャラクタ配置を見る限り十中八九そうだと思われるのだが、確たる証拠もなしに、うちの第一王子はポッと出の可愛い男爵令嬢と浮名を流して、大事な婚約を破棄しそうなんです……とは言いにくい。
だから私は、メインキャラクタの皆さんの動向を追ってはいたが、なぜ彼らに注目しているのかはウォーレン卿には秘密にしていた。
「秘密……なるほど?」
ウォーレン卿は背中をさすっていた手を止めて、じっと私を見つめた。
深い深い青い目。
うっかり見つめちゃわないように日ごろから気を付けているそれから、私は目をそらした。
「先生の幻獣占いによると、私は共感力が高くて相談役に向いているスフィンクスタイプだったよな」
「ソウデスネ」
ウォーレン卿は、にまぁと肉食獣的な深い笑みを浮かべた。
「相談に乗ろうじゃないか」
もちろん。私は逆らえなかった。
§§§
それから、どうなったかというと、おおむねご想像の通り。
第一王子と男爵令嬢の件は、深刻な事態になる前に、周囲が介入する気になる程度に王子がほどほどにバカをやらかして、小さな醜聞で収束した。
国宝持ち出して、女にプレゼントする奴もバカだが、それを右から左に売り飛ばした女もひどい。
国外に持ち出して売りさばこうとした商人が、たまたまギルドに目をつけられていた悪徳業者だったので、水際で発覚し、指輪は無事だったのが不幸中の幸い。
王子にはお目付け役が付き、その他の関係者各位は然るべき処分を受けて、事態は円満に解決した。
「もっと大事にしていたら王位継承権が回ってきたんじゃないの? 筆頭公爵家嫡男様」
「そんな荒れた国はいらないよ」
いつものお茶会の席で、ウォーレン卿はあっさり答えた。凡庸で担ぎやすい国王と扱いやすい宮廷がある現状で十分らしい。
なるほど。この欲のない清廉で高潔に見える態度が、第一王子のお目付け役に満場一致で推挙されたゆえんか。
皆、堅実そうなウォーレン卿の外面だけ見て、ジェームズ・ブラフォードという男をちゃんと知らないのだろう。可哀想に。
でも、私は知っている。
ウォーレン卿ジェームズ・ブラフォードの手相は天下取りの相なのだ。
「さて、クリスティーン。では、未来の話をしようか」
望むところです。
クリスティーンとウォーレン卿のお話を、お読みいただきありがとうございました。
レビュー、感想、評価☆、リアクションなどいただけますと大変励みになります。
(読後テンション一言感想も熟考長文感想も大歓迎!感想書込みビギナーさんもご遠慮なくどうぞ)
追伸①:クリスティーンの青いブローチは、ウォーレン卿からの頂き物です。
追伸②:クリスティーンは、ウォーレン卿の結婚線も確認済みですw




