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猫好き公子

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 私は猫が好きだ。幼い頃から飼っていた猫が二匹。黒猫の夜夜(イエイエ)と白猫の小雪(シャオシュエ)、どちらも大変可愛い美人さん……いや、美猫さんだ。しかも長生きで、その動きはまるで長寿とは思えないほどに衰えを見せない。まぁどんなに可愛くたってどちらも雄なのだけれど、猫だから性別なんて関係ない。可愛いものは可愛いのだ。と言うことでこの話はひとまず置いておく。


 私の一日は猫に始まり猫に終わる。朝はまずこの目に入れても痛くない愛猫たちの襲撃にて起床し、餌をやることからはじまる。日中の剣の稽古もそこそこに、執務に追われてしまうのだが、ふらりと愛猫達が机に飛び乗っては私の手を押しのけて目の前でごろごろと腹を曝け出す。それのなんと愛くるしいことか。それを甘んじて受け入れつつ、迅速にその日の執務を終わらせればあとは自由の身だ。後半に行くにつれて雑になっていくが、そんなものは気にしない。支障がなければそれでいいのだ。とにかく早く終わらせて、そこからはひたすら愛猫の相手である。人様に聞かせられないような甲高い声で愛猫を呼び、猫顔負けの猫撫で声でかまいまくる。時たま執拗(しつこ)いと言うように威嚇されてしまうが、それですら愛おしいことこの上ない。私にとっては猫の行動全てがご褒美なのである。そうして一日かけて愛でているうちに、外はあっという間に暗くなる。そこからは、門弟たちが持ってきた食事を愛猫とともに食す。もちろん愛猫の食事は自分持ちだ。そのあとは湯浴みをするのだが、珍しいことに夜夜(イエイエ)の方は湯浴みが好きらしく、私が入る時は必ずと言っていいほどついてくる。おかげで毎日ふわふわでいい匂いだ。湯浴みが終われば、あとは次の日の準備をして愛猫達と共に寝に入る。これが私の一日だ。


 ……とまぁ、物心ついた幼い頃からこんな生活を続けてきた私こと蔡澄安(ツァイ チョンアン)は、十五の春についに呆れ果てた両親に猫と共に家から追い出されてしまったわけで。それから二年が経ち、十七歳となった私は現在も両親に与えられた(と言っていいのか分からないが)あばら屋で、一緒に連れてきたとても長生きな愛猫達と細々と暮らしていた。


 逆に、今まで追い出されなかったものだと今更ながらに思う。自分で言ってしまうのはどうかと思うが、直系子息としての仕事もそこそこに猫ばかりにかまけていれば、宗主として恥でしかないだろう。しかも当の本人は指摘されても、けろっとした顔で「地位になど興味などない。兄がいるだろう?」と宣うのだ。ため息をつきたくもなるのだろう。実際に両親がため息を吐く様子を蔡澄安(ツァイ チョンアン)はこの目で見ている。


(せめて見えないところでやってほしかった)


 別に両親に何を期待しているわけでもないし、今更ではあるが、それでも気持ちのいいものではなかった。

 けれど……


「別に、やるべき仕事は全てこなしていたのだあなぁ…」


 そばにいる小雪(シャオシュエ)を撫でながら、ため息混じりに一人ごちる。確かに、猫が好きで猫にばかりかまけていたことは認めよう。しかしやるべき事はやってから自分の好きなことをしていたのだ。少々雑になってしまったこともあるにはあったが、それも差し支えない程度。文句を言うほどのことはしていないと言うのに。あたかも、何もできない出来損ないだとでも言うように両親は蔡澄安(ツァイ チョンアン)を追い出してしまった。


 結局のところ、両親には元から好かれて居なかったのだろうなぁ……と蔡澄安(ツァイ チョンアン)はどこか客観的に考える。当たり前だ。直系子息といえども所詮は次男。次男が居なくなったところで家としてはなんら支障はないのだ。後継は兄上がいるから問題はないし、万が一子に恵まれなかったとしても養子を取るなりなんなりするだろう。側から見ても蔡澄安(ツァイ チョンアン)と兄の扱いの差は歴然だったと思う。そう思うと、むしろ目の上のたんこぶがなくなり、胸が空く思いだったのかもしれない。まぁ、今となってはどでもいいことなのだが。


 とはいえ、兄上は剣の腕はすこぶる良く、それこそ父上と遜色ないほどの実力ではあった。しかし、その代わりとでも言うように執務が苦手であった。本人曰く、じっとしているのが退屈だという。私が出て行ったことでそこら辺は大丈夫なのだろうかと思ったのも束の間で、このあばら屋に移って一月も経たないうちに尺牘(せきとく)(簡易的な書類や手紙のこと)がたんまりと送られてきたのには頭を抱えた。言いたくはないが、あまりにも容量が悪い。兄上が捌ききれなかったものをこちらに投げているのが丸わかりである。家から追い出したくせに……と思いながらも、この家を用意したのもまた両親で。後のことを考えると面倒なのは火を見るよりも明らかで、無駄な争いをしたくない蔡澄安(ツァイ チョンアン)はそれを黙って受け入れるしかなかった。


「お前など用済みだと切り捨ててしまった方がお互いに楽だろうに」


 その方がこちらとしても自由に動けるし、ろくに話をしたこともない兄の尻拭いをしなくても済む。それをしないのは両親としての吟味か、はたまた世間体を気にしてか。考えるまでもなく後者なのだろうが、それを知る術はもうない。

 幸か不幸か、ここに尺牘を届けに来ている者……楊文(ヤン ウェン)蔡澄安(ツァイ チョンアン)のことを気にしてくれているようで、そっけないながらも様子を見にきてはさまざまな物資を押し付けるように渡してくれた。


「暇だったので」


 毎回そんな風に言い残してなんでもないように帰っていくくせに、顔を見た途端に安心したような表情をするから、嘘をつくのが下手な方だ。ともらった荷物を抱えて思わず笑ってしまう。そうすると、


「なんですか、文句があるなら全部持って帰りますよ」


 なんて捲し立てるようにいうのだから、それがさらに笑いを助長させていることをおそらく楊文(ヤン ウェン)は気づいていない。そんなことを言いつつも本当に持ち帰る事はないのだから、単に素直じゃないだけなのだろう。

中身は毎回違っていて、どこにでも売っている山楂(さんざし)飴や饅頭(まんとう)から衣類までさまざまで、いつも助かっていた。何せ当たり前ではあるが、家からの仕送りなんてものは一切なかった。かろうじて金子(きんす)が月に一度、捌いた尺牘の分だと送られてくるのだが、誰の目から見ても少ないとわかるものだった。


「いっその事、夜逃げでもするか?」


 なぁ?とすぐそばにいる愛猫達に聞いてみれば、「好きにしろ」と言わんばかりに頭を擦り付けながらそれぞれひと鳴きした。


兄上のお名前は(ツァイ) 浩然(ハオラン)。運動はできるが容量が悪い子。

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