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現代の裏側、仮面の日常

いい人課長の日常

掲載日:2026/02/24

あなたの周りにもこんな課長や上司がいるかもしれませんね。

※3〜5分程度で読めます。


「神田さん、おはようございます。毎日ありがとうございます」

「これが仕事だからねぇ。課長さんも毎日ご苦労さまです」


ある会社の廊下で行われる、いつものやりとり。


「課長、よくあの掃除のおばちゃんと話してるよね」

「課長みんなに挨拶してるもんな。なんでまだ課長なんだろ」


彼らの疑問はもっともだ。

僕は、二人の社員の立ち話に何の疑問も持たない。

何しろあの課長は、どの部署に異動しても課長だからだ。

ちなみに、あの掃除のおばちゃんもこの会社を掃除して長い。



「課長さん、昨日のシステムトラブルは大丈夫だったの?」

「…あぁ、昨日の。今原因究明中なんですが、なかなか難しいですね」

「大変だねぇ。さっき別の課長さんも頭抱えてたよ」

「いやぁ、情けない限りで」

「そういえばうちで漬けた梅干し持ってきたから、後で持ってきてあげるよ」

「いいんですか?あれ美味しくてすぐなくなっちゃって。後で準備室に伺いますよ」


「課長、掃除のおばちゃんとめっちゃ仲いいのうける」

「だな。仲良くなる相手間違ってるけど」

「たしかに。もっと取引先とうまくやってくれたらいいのに」

「ていうか、うちでシステムトラブルなんてあったの?」

「いや、聞いてないけど」


誰に聞いても、課長の評判は「いい人」だ。

そして、往々にして「いい人」には前がある。

どうでも。

「万年課長ポストにいるのは、優しすぎて強い態度に出られず、(どうでも)いい人で終わってしまっているから」というのが、この会社の職員たちからの課長の評価だ。

掃除のおばちゃんたちの準備室に入れる職員なんて聞いたことがないのに、課長が「伺います」といえば、「あぁ、あの人ならあり得る」と誰もが思う。


「少ないけど梅ジャムも作ったからね」

「いいですね、それもいただきます」


「課長めっちゃもらうじゃん」

「あの生き方もありちゃありだな」


課長は笑顔で神田さんに別れを告げてデスクに戻る。

そして僕が呼ばれる。


「また呼ばれてるね。課長のお気に入りなんだね」

「昨日作成した資料の修正だと思う。なかなか1回でクリアできなくて」


僕が課長のデスクの横に立つと、課長は僕に資料を渡しながら修正箇所を示した。

「うん悪くないね。こことここ修正して。最後のところは最悪削除でもいいけど、そこは任せるよ」


僕にはその「修正」の意味はわからないし、わかる必要もない。

そもそも、それは僕の資料ではない。

それよりも大事なのは、その資料に重ねられた2枚目だ。


***


昨日の遺体の死因究明急ぐように。

あとで神田さんから被害者の身辺情報をまとめたものと、候補者リストも作ってくれてるみたいだからそれをもらっておいて。

原因とそれらの情報からさらに候補を絞れるはず。


***


僕は、課長の目を見て「承知しました」と返事をし、課長も頷く。

その氷のような眼は一瞬にして「いい人」の眼に戻り、「ごめんね細かくて」と謝るいつもの課長になっている。


「最悪削除でもいい」の意味は、確認する必要もない。


「あの課長さんも人遣いが荒いわね。あなた先週も来てたよね」

「まぁ、お世話になってるんで」


僕は、準備室で神田さんがまとめてくれた資料をもらい、「掃除」の準備を始める。


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