第4章 美濃編 【1】
美濃全土を手に入れた信長は居城を稲葉山城に移した。
沢彦和尚が周の文王の故事より推薦した三つの中から信長が選び、稲葉山城を岐阜城と改名し、天下布武を宣言する。
従わぬ者は武力行使で天下統一を目指すと宣言したことになる。
つまり全国のほとんどの戦国大名に喧嘩を売ったに等しいのだ。
尾張と美濃の二国を手に入れ、国力すなわち財力や兵力がかなり強化されたとはいえ、まだまだ天下統一など程遠い。
これからは戦う相手と手を組む相手を見極めていくのが重要なのは信長も十二分に理解している。
少し時を戻すが稲葉山城攻略の直前に小谷城城主浅井長政との同盟を結んだ。
切り札であるお市の方を輿入れさせたのだ。
お市の方は浅井長政が智勇兼備の偉丈夫で背が高く、そのうえイケメンと聞いて織田家のため?に喜んで嫁ぐといったそうな。
双葉は信長に進言する。
「お市の方のあの美貌なら長政殿も承知されるのも無理もございませぬ。
が、お市の方のあのご気性ならば離縁のおそれもあります!
お市の方にはくれぐれも猫を...10匹ぐらいは被るようにと信長様から厳命しておくのが良いかと。
さらには念を入れて戒めを忘れぬように、猫も数匹添えて送り出すのが上策です。」
「あい分かった、お主の進言なら間違いなかろう。」
(双葉はお市に手厳しいな!)
まさかの反比例の法則による好感度の低さとはあずかり知らぬ信長である⁈
話を戻そう!
戦など緊急の役目が無いときには、つなぎの忍び二人には大名の動きや京の様子などを探らしている。
暗号名ガマガエルがとんでもない知らせを届けてきた。
「二条城にて将軍足利義輝が三好三人衆らに暗殺されましたぞ⁈」
「にゃんだとお?...失礼、噛みました! それは一大事⁈」(尊敬する西尾先生ならパクリも笑って許してくださるに違いない⁈)
「弟の足利義昭は数人の家臣と越前の朝倉家を頼って落ち延びた様子!」
「そうか。ご苦労であった! しばし休息して食事をとるといい。」
「アリゲーコ!アリゲータ⁈ 失礼、韻ヲフンデミマシタ⁈」
そこにもう一人のつなぎの忍び、暗号名ハゲタカが飛び込んできた。
「信長様より急ぎ登城せよとのお言葉! なんでも朝倉義景の家臣、明智光秀なる者との謁見に同席せよとの事⁈」
「承知した! すぐに参る⁈ お主もガマガエルと共に食事などとるといい。」
「アリゲーコ!アリゲータ⁈」
(それ流行っているの?)
「ときに、二人の本名を聞いてなかったな? 差し支えなければ教えてくだされ。」
「拙者が助三郎、あちらが格之進でござる!」
「おお! 助さん、格さんか⁈ 何処かで聞いたようなコンビ名、M1だっけ?」
「我らはお笑いコンビではございませんぞ⁈」
「許せ、他意はない。 そうじゃ!物のついでに覆面も外して素顔もさらけ出せ!」
「命令とあればやむなし⁈」
格之進は見事な禿げ頭! それゆえのハゲタカ、納得したぞ⁈
助三郎はまさしく...〈リアルゲコタ‼〉目を輝かせて思わず叫ぶ双葉!
双葉はカエルが大好きな御〇美琴の同類、隠れオタクだった。
「いかん!こんな事をしている場合じゃない、急いで登城せねば⁈」
我に返り岐阜城に向かう。
謁見の間にて
「拙者、朝倉家の客分として足利義昭に仕える明智十兵衛光秀と申します。
主、義昭より信長殿に書状を持ってまいりました。
一読の上返事をいただければ幸いに存じます。」
書状を読み始める信長。
「なんじゃ、無駄に長い手紙じゃのう。
要は当家の世話になり、上洛の手伝いが望みで相違ないか?」
「相違ございませぬ。」
「ふむ、義昭殿を織田家に連れ出せばおぬしの立場も悪くなる。
義昭殿を手土産にあわよくば当家に仕官しようと?」
「ご賢察でござります。」
「ワハハ、図星であったか。貴殿はなかなかの器量人とみた。
当家は新参であろうと、才覚次第でいくらでも取り立ててやる。
励むがよいぞ!」
「ありがたき幸せ!」
光秀が去ったあと信長は双葉に
「かの者、どう思う?」と。
「まさしく、名が体を表すがごとく才覚にあふれる御仁かと。
ただ...」
「ただ? なんじゃ?」先を促す信長。
「朝倉家の客分にして足利義昭に仕えながらも義昭を当家に差し出す。
更に織田家に仕官するとなれば、相当な野心家と見受けられます⁈
ゆめ、油断はなさらぬが良いかと。」
「覚えておこう、だが有能な者は多少の毒があろうとも使いこなす必要があるとはおもわんか、双葉よ?」
「まさしく、それこそが天下人たる器量! 感服しました⁈」
「そう褒めるな! 照れるではにゃいか⁈」
(照れると噛むのだな⁈ 案外チョロイし!)
前触れなしに襖が開き一人の女性が入ってきた。
お市の方以外にそんな真似ができるのは正室の濃の君ぐらいしか思い浮かばない。
「十兵衛はもう帰ってしまったのか? 久方ぶりに会いたかったのじゃがのう。」
「濃、光秀とは知り合いであったか?」
「知り合いどころか従兄にございますよ。
父、道三が十兵衛を麒麟児とべた褒めしていました!
後にも先にも父があれほど見込んだのは十兵衛と我が殿だけですよ⁈」
「あまり褒めるにゃ、照れるではにゃいか⁈」
「お! そこもとはもしや、噂の東風双葉かいの?」
「お初にお目にかかります。以後よしなに。」
濃の君は双葉をジロジロ見て頷くと
「そなた女子じゃの?
胸はないが間違いない! わらわの目は欺けないぞよ⁈」
「双葉‼ 誠か⁈ 信じられぬ⁈」と信長。
信長の目は節穴だった。
「どうかこの件は内密に!
今までどうり男として扱ってもらう方が何かとやりやすいので⁈」と。
あらためて双葉は濃の君を観察する。
例によってまず胸から⁈
(ふむ、中の下(六類)ぐらいか⁈)
ちなみに大中小のそれぞれに上中下の基準があり9段階で判別する⁈
最悪の好感度は無論、大の上である。
その際の相手への対応はもはや宿敵扱いとなる⁈
十三と大胸は大の上ではあるが同志であるが故、理性を振り絞り特例として扱う。
独自の判断により濃の君の好感度は悪い寄りのギリ普通⁈
それなりに礼儀をわきまえた対応をするぐらいの感覚!
次に頭からつま先まで全身を見る。
整った顔立ち、だが特筆すべきは目力か!
気の弱い者なら蛇に睨まれた蛙のごとく身が竦むやも、ゲコ⁈
「濃、我らはこれより重要な方針を話し合う段取りじゃ、いったん下がってくれ!」
「はいはい、わかりました、殿様。
女子には無用な話! 双葉殿、わらわと茶でも⁈」
「双葉は残ってもらうぞ! むしろ貴殿の意見こそが聞きたいのじゃ⁈」
「なんじゃ、つまらんのう。」と濃の君が立ち去ると早速双葉に意見を求める。
「東の松平信康どのは三河の統一に全力を尽くすでしょうから
いかに同盟を組んでいても手を借りるわけにはいきませぬ。
浅井家との同盟を活かして上洛を目指すしか道はありません。
さすれば問題は六角承貞!
同盟はおそらく結べませぬゆえ降伏させるのみ!
ただ六角家は甲賀衆と懇意にしており一筋縄ではいきませぬが、忍びには忍びをあてがい脅威を半減させるのが上策。」
「待て、双葉! 当てがう忍びに当てはあるのか?」
「はい! 東雲姉妹の出身地、軒猿衆なら十分な報酬さえ払えば必ず引き受けてくれるはず。」
「ふむ、続けよ!」
「奈良の筒井家と同盟を結べるなら南から六角家に牽制でも良いからと出兵してもらい、後は野戦で叩く!
観音寺城に籠城するなら京まで素通りしても問題ありませぬが、六角家はつぶしておく方が今後のためにはいいかと。」
「その先の準備でしておくことは他にあるか?」
「たくさんあります!」双葉は半兵衛をイメージして軍師っぽく振舞う。
「遠慮はいらぬ、洗いざらい申せ!」
「まず岐阜に商人や職人、大工などを多く集め城下町を発展させます。
他の国より良い条件を考えて実行すれば自然と人は集まります。
それに伴って財力を蓄える。その軍資金で軍備を整える、とりわけ鉄砲を少しづつでもできるだけ多く集めるのが良いかと。
いずれは武田家や上杉家と事を構えるやもしれませぬ。
その日に備えて急にはできないことを早めに始めるのです!
いまはそれで全部です。」
「なるほど、いちいち理にかなっている。早速手はずを整えていくとしよう!」
「御意!」
―以下に続く―




