第3章 尾張編【1】
清洲城に着くと翔平は門番に声をかけ、すんなりと城に入った。
門番にとって翔平は人畜無害、信用度100パーセントなのか。
双葉たちまで詰問なしとは。仕事しろよな、門番!
控えの間にいる小姓に要件を伝えて、お伺いを立てないと会えないらしい。
今川上洛の件でと伝えてほしいと頼むと、小姓は小走りで信長のもとに行き、 すぐに戻ってきて案内された。
目の前にいる織田信長はその若さに似合わない貫禄があった。
「今川上洛の件とな、遠慮はいらぬ、申してみよ。」
双葉は今川家の上洛は5月初旬の予見から方策までを、なるべく手短に話した。
聞き終えると信長は
「その方たち、名はなんと申す。」と聞いてきた。
「それがしは東風双葉、こちらは薬袋勘三でございます。」
「双葉、見事な献策。まことに天晴れ!褒美をとらせる。望みはあるか?」
「されば、われら両名とあと一人、東郷十三と申す者を客分として織田家への協力を認めて頂きたい所存でございます。」
「家臣ではなく客分がよいのだな。 …よし分かった。許す。
今日から客分として、清州に住むがよい。
だれかある! 猿を呼べ。」
「お呼びでございますか。」
「猿、この者たちに便宜をはかってやれ。客分として屋敷から何一つ不自由のないようにな。」
「承りました。すべてこの猿にお任せあれ。」
「それと、いまから一刻《2時間》後に長秀の屋敷で集まるように。猿、おぬしも来い」
「御意。」
藤吉郎に案内された屋敷はそれほど大きくはないが、双葉たちが住むのには十分だった。
「すぐに使えるように掃除は済ませてあります。
朝晩の食事も用意させますので。」
「何から何まで痛み入る。」
「信長様から直々の命ならば当然のこと、礼には及びませぬ。
が、殿は滅多にあのようなことは言わぬので驚きましたぞ。」
「それがしもここまで厚遇されるとは思いませんでした。」
個人宅にしては珍しくかなり大きい湯殿まであるらしい。
十三さえ戻れば認定されるのは間違いない。
近所の者たちが寝具や家財道具一式を運んでくれて、片付けまで済ませてくれた。
礼を述べる双葉に、代表して若い娘がおそるおそる願いがあると言う。
なんでも屋敷の前の主が、風呂を沸かせた日は近所の者に残り湯を使わせてくれたそうで、それゆえの名物屋敷なのだ。
「もちろん、使ってください。」と快諾した。
うまくいけば双葉では無理な認定ができるかも。
これって『渡りに船』であってます?
今日からどうぞと聞いて喜んで帰っていった。
そろそろ丹羽長秀の屋敷に向かう頃合いか。
藤吉郎の案内で双葉たちは少し急いだ。
丹羽宅に着くと奥座敷に案内された。
部屋の中にはすでに信長、長秀、前田利家が1枚の地図の周りに座っている。
空き座布団が3枚並べてある。双葉たちと藤吉郎の席に違いない。
一礼して席に着くと初対面の二人が名乗り挨拶を交わした。
おそらく織田家の頭脳を担う人物が集結していると思われる。
地図には領内の主な集落の位置が書き込まれている。
例の足止めの策略に使えそうな集落の確認と思われる。
さすがに手を打つのが早い。
「長秀、双葉の献策に必要な費用と人員を全て与えよ。
利家と藤吉郎も双葉に全面的に協力して手助けをせよ。」
「御意。」皆一斉に答える。
双葉は全ての献策を、今度は一つ一つ丁寧に説明していった。
全員が真剣に双葉の言葉に耳を傾けている。
それもそのはず、織田家の命運がこれにかかっている。
一通りの説明が済むと皆で意見を出し合い話が進んでいく。
気がつくといつのまにか、かなりの時間が過ぎ去っていた。
「今日はここまでにして、明日からもここで続けることにせよ。」とのおおせに従い、皆席を立ち帰宅することになった。
屋敷に着くとすでに風呂が沸いているという。
この当時は混浴が当たり前だったので双葉と鑑三は一緒に入ることになる。
なにせ後がつかえているらしい。
なんでも前の家主様からのしきたりでじじばばや男は使えなくて
ある程度の年齢までの女子だけが許可されるという。
需要があるなら子供でもいいという。
この時代は13歳で嫁に行くことも珍しくはなくいわば合法ロリ全盛。
まがうことなき変態助平家主様だったのだろう。
だがしかし、その恩恵で都合よくサービスシーンが出せるから許すことにする。
認定されない双葉の入浴シーンは当然の如く省かれ、風呂から上がった双葉は
すでに数人が順番を待っているのを見て、無念だがサービスシーンは安泰だなと感じざるを得ません!
食事は思ったよりも豪勢で美味しかったが、いかんせん全然足りない。
追加を頼むと用意するまで少し時間がかかるとのこと。
いまのうちに日課であるケロの世話を済ませておこうと外に出た。
ケロの厩舎はわりと風呂場に近い所にある。
世話をしているあいだも風呂場の方から賑やかな声が聞こえてくる。
近所で好評だったもらい湯が久しぶりに再開されたと噂になって、次から次へと途を絶たない。
風呂上がりの色っぽい姉ちゃんたちを見ようと男たちも集まってきて、屋敷から娘 が出てくる度に、おお!とかほう!とか訳の分からない歓声まで上がる始末。
異様なほどの盛り上がりは、もうお祭り騒ぎと言ってもいい。
娘たちも慣れた様子で乗りがよく立ち止まってポーズを取ったり、裾をまくってちら見せをする娘さえいる。
清州小町と評判の伊藤屋の美保が出てきたときなど大歓声が起こった。
美保の投げキッスで瞬時に数人の男たちが悩殺され昇天した。
策略などで色仕掛けが必要なときは是非とも欲しい人材だ。
男たちの狂乱を尻目に部屋に戻ると、ちょうど追加の食事ができたという。
先ほどの料理より豪華で量も増えている。
鑑三と二人でペロリと平らげ、ご馳走様でしたと感謝の意に、料理係の三人はほっと胸をなでおろした。
何はともあれ、明日からは忙しくなりそうだ。
明日に備え早めに寝ることにした。
これでまた一歩野望に近づいた⁈ かも?
―以下に続く―




