二度目の収穫と言わない計画
じゃじゃ芋の二回目の収穫は、
今度は――父の管轄で行われた。
報告を受けたエドワルドは、静かに頷く。
「……順調、か」
畑は荒れていない。
農家の手も慣れてきている。
芽の管理も、水の回し方も、前回より確実に良い。
(条件は、悪くない)
結果は、数字に出た。
「収穫量、四百キロ以上です」
報告役の声には、隠しきれない高揚が混じっていた。
前回の八十三キロは、ほとんどが種芋へ回された。
増やすための、我慢の収穫。
それを踏まえれば――
(妥当、いや……上出来だ)
父は、上機嫌だった。
「増えたな」
短い一言だが、声が明るい。
「前回が基準になったのは大きい。農家も、数で理解しただろう」
数字は、説得力を持つ。
言葉よりも。
理屈よりも。
「……料理にも、回せそうだな」
父がそう言った瞬間、エドワルドの頭の中で、別の考えが動き出した。
(料理、か)
それも、もちろん一つだ。
だが――
「父上」
「うん?」
「十キロほど、私に分けていただけませんか」
父は、一瞬だけ考え、
「構わん」
即答だった。
「研究用か?」
「はい」
それ以上、聞かれなかった。
(……助かる)
じゃじゃ芋、十キロ。
量としては、少ない。
だが、試すには十分だ。
(これも……完全に手探りだな)
エドワルドは、芋を見下ろしながら考える。
煮る。
焼く。
蒸す。
それは、もう分かっている。
(次は――)
「酒、か」
小さく呟く。
芋を擦り、水を加え、発酵させる。
前の人生で、似た工程は見たことがある。
だが、ここでは――前例がない。
(だから、言わない)
失敗するかもしれない。
匂いだけで終わるかもしれない。
期待させる必要は、ない。
「完成したら、報告」
それでいい。
夜。
納屋の一角。
人目につかない場所。
エドワルドは、芋を洗い、皮を剥き、
無言で擦り下ろしていく。
白い塊が、桶に溜まっていく。
(……さて)
成功すれば、保存の選択肢が増える。
失敗しても、失うのは十キロだけだ。
「悪くない賭けだ」
誰にも聞かせることなく、そう呟いた。
父は、収穫に満足している。
領地は、確実に前に進んでいる。
そしてその裏で――
誰にも言っていない小さな試みが、静かに始まっていた。
結果が出るのは、もう少し先。
だから今は、何も言わず、ただ待つ。




