飼育開始
飼育は、始まった。
囲いの中に水桶を置き、餌を撒く。
穀物の欠片に、砕いた豆。
それだけだ。
「……食べてるな」
セキシャク鳥たちは、迷いなく嘴を突っ込んだ。
それだけではない。
囲いの隅で、雌が地面を掘り返す。
ミミズ。
小さな虫。
雑草。
見つけると、素早くついばむ。
「……勝手に餌を補ってくれるのか」
想像以上に、自立している。
(確かに……飼育自体は、簡単?)
水を切らさない。
餌を与える。
囲いを壊されないようにする。
やることは、それだけだ。
◇
問題は――
雄だ。
「……来るなよ?」
エドワルドが近づくと、以前なら即座に威嚇してきた。
羽を広げ、叫び、蹴りかかる。
だが。
今は、違う。
雄は、首を伸ばし、こちらをじっと見ているだけだ。
「……」
ゆっくり、水を替える。
餌を置く。
雄は、距離を保ったまま、襲ってこない。
「……理解した、のか?」
水と餌をくれる存在。
敵ではない。
そう認識したらしい。
(最初のうちは、俺にも襲ってきたのに)
慣れ、だ。
「……管理できるな」
完全に安全ではない。
だが、理由もなく襲ってくるわけでもない。
(やはり、雄は一匹までだな)
これは、絶対条件だ。
◇
一方、雌たち。
囲いの奥で、藁を集め、丸くなっている。
「……温めてる?」
近づきすぎないように、そっと覗く。
雌の腹の下。
見えたのは――卵。
「……早いな」
思わず、声が漏れた。
まだ数日だ。
それなのに、もう産み、温め始めている。
(確かに、繁殖速度は速い)
数が揃えば。
毎日。
卵が、採れる。
(主食じゃない)
だが、栄養は補える。
調理の幅も広い。
(これは……強い)
◇
囲いの外。
エドワルドは、腕を組んだ。
「凶暴性は、管理の問題」
「飼育は、思ったより容易」
「卵の回転が、異常に速い」
どれも、事実だ。
(……広がらなかった理由は、分かる)
雄。
それだけだ。
だが。
「理由が分かれば、対処できる」
ルールを作る。
数を制限する。
人が近づく時の手順を決める。
「……これは、行けるな」
小さな囲いの中で。
セキシャク鳥は、今日も土を掘り、餌をついばみ、卵を温めている。
派手ではない。
だが、確実だ。
エドワルドは、静かに頷いた。
「……次は、卵だな」
小さな成果が、また一つ――
形になり始めていた。




