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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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32/71

硬豆の試験栽培開始

領主は、執務室で一人、書類を閉じた。


硬豆。

セキシャク鳥。


どちらも、どこかで聞いた覚えがある。

だが「領地で使うもの」として意識したことはなかった。


(書庫か……)


息子は、あの書庫に通っている。

自分も若い頃、何度も足を運んだはずだ。


それでも――


(私は、見落としていたのか)


記録はある。

だが、使われていない。


「使われなかった」という事実だけを見て、価値がないと判断していた。

あるいは、忙しさを理由に、深く読み込まなかったのか。


領主は、小さく息を吐く。


(あれほど“今あるもの”を見ろと言ってきたのにな)


自分自身が、過去の記録を十分に見ていなかった可能性。

それを、息子に突きつけられた気がした。


「……皮肉なものだ」


だが、不快ではない。


むしろ――


(良い)


そう思えた。



数日後。


畑の一角に、見慣れない区画が設けられた。

広くはない。

畑全体から見れば、ほんの試しだ。


「ここに、硬豆を蒔く」


エドワルドは、農家たちに説明していた。


「いつも通りの豆より、少し間隔を空けます。根が深く張るので」


農家の一人が、首を傾げる。


「硬い豆って聞いたが……本当に育つのか?」


「分かりません」


エドワルドは、正直に答えた。


「だから、試します」


農家たちは、顔を見合わせたあと、苦笑した。


「坊ちゃまは、正直だな」


「分からない事は、分からないままやる方が、後で困りません」


その言葉に、年嵩の農家が、ゆっくり頷いた。


「……まぁ、いい。これくらいなら、手も取られん」


種が蒔かれ、土が被せられる。


小さな始まりだった。



だが、順調とは言えなかった。


数週間後。


「……坊ちゃま」


呼びに来た農家の声は、やや困った様子だった。


畑に行くと、芽が揃っていない。


「発芽率が、良くないです」


半分ほどしか、芽が出ていない。

土を掘ると、腐っている種もあった。


(……水、か)


エドワルドは、土を指で崩す。


水分が、多い。


「いつも通り、撒いたか?」


「はい。豆は水を好むからな」


そこが、落とし穴だった。


「硬豆は、少し乾き気味の方が良さそうです」


農家は、眉を上げる。


「同じ豆でも、違うもんだな」


「はい」


エドワルドは、素直に認めた。


「私の見込み違いです」


「いや」


農家は、首を振る。


「試して分かった。悪くない」


失敗を、失敗のまま終わらせない。

それが出来ている。


それだけで、十分だった。



数日後、条件を変えた区画では、芽が揃い始めた。


一斉ではない。

だが、確実に育っている。


「……これなら、いけるかもしれんな」


農家の声に、少しだけ期待が混じる。


エドワルドは、頷いた。


「量は、まだ増やしません」


「増やさない?」


「はい。来年の種が取れるか、まず確認します」


欲張らない。

急がない。


前の人生で、何度も破った原則だ。



その様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。


兄だ。


腕を組み、畑を眺める。


「……失敗しても、引かないんだな」


誰に言うでもなく、呟く。


命令しない。

だが、放り出さない。


弟は、少しずつ、だが確実に「続く形」を作っている。


「厄介だな」


そう言いながら、口元はわずかに緩んでいた。



夕方。


エドワルドは、簡単な記録をまとめ、父に提出した。


発芽率。

水量。

土の状態。


成功と、失敗。


領主は、黙って目を通し、最後に一言だけ言った。


「……よく書けている」


「ありがとうございます」


「失敗を隠していないのが、いい」


エドワルドは、小さく頷いた。


「隠すと、次で困りますから」


領主は、一瞬だけ微笑んだ。



硬豆の試験栽培は、まだ始まったばかりだ。

成功とは言えない。

だが、失敗でもない。


小さな躓き。

小さな修正。


その積み重ねが、いずれ――


飢えないための「当たり前」になる。


エドワルドは、沈みゆく夕日を見ながら、静かに思った。


(まだ、間に合う)


急がない。

だが、止まらない。


その歩みは、確かに、未来へ続いていた。

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