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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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循環を作る

豆類か。


エドワルドは、書庫の机に肘をつき、並べた資料を見比べていた。

豆は、すでに領内でも育てられている。

だが規模は小さく、あくまで副次的な作物だ。


(増やすなら、流れを作らないと意味がない)


ただ作って、ただ食べて終わりでは駄目だ。

前の人生で、それは嫌というほど思い知らされた。


食用として消費する分。

翌年の種として確保する分。

余った、古くなった豆――ヒネ物は家畜の餌へ。


(この循環が出来れば……)


豆は土を選びにくく、保存性も高い。

小麦が不作でも、主食の補助になる。

家畜の餌にも回せれば、糞尿が肥料になる。


土へ、戻る。


「……順番だな」


まず豆。

その後に家畜を増やす。


逆にすれば、必ずどこかで歪む。



エドワルドは、棚から一冊の古い農書を引き抜いた。

紙は黄ばみ、角は丸くなっている。


豆類の項をめくる。


「……これか。硬豆」


指が止まった。


食用としては、やや硬い。

味も、特別良いとは言えない。

だが、保存性が高く、虫にも強い。


(悪くない)


柔らかく煮れば、十分に食べられる。

何より、長く持つ。


(これは……“備え”向きだ)


主役ではない。

だが、欠かせない。


エドワルドは、頷いた。


「父上に、頼もう」


商人経由で、種を手に入れてもらえばいい。

量は、最初は少なくていい。


(まずは、育つかどうかだ)



次に、視線を移す。


家畜。


牛や羊は、すでにいる。

だが、数を増やすには時間がかかる。

飼料も、場所も、手間も要る。


(……これだ)


挿絵付きのページに、見覚えのない鳥が描かれていた。


「セキシャク鳥……?」


小型。

卵を頻繁に産む。

飼育期間が短い。


肉よりも、卵が主だ。


(卵……)


調理の幅が広い。

栄養価も高い。

何より、増えるのが早い。


(……前の人生では、見た覚えがない)


少なくとも、領内では聞かなかった。

だが、この書庫に記録があるということは――


(存在はしている)


育てられていないだけだ。


(理由は、分からない)


難しいのか。

手間がかかるのか。

単に、知られていないだけか。


(これは……)


エドワルドは、小さく息を吐いた。


「俺が、やるしかないな」


誰かに任せるには、未知が多すぎる。

だが、自分なら――失敗しても、やり直せる。


前の人生の記憶がある。

失敗の重さを、知っている。



夕刻。


エドワルドは、父の執務室を訪れた。


「父上、お時間よろしいでしょうか」


伯爵は、書類から顔を上げた。


「どうした?」


「ご相談が、二つあります」


珍しい言い回しに、伯爵は少し眉を上げる。


「豆類の生産についてです」


エドワルドは、簡潔に説明した。

規模を広げること。

保存と種の確保。

家畜の餌へ回す循環。


伯爵は、黙って聞いていた。


「……理にかなっている」


そう言って、頷く。


「硬豆の種は、商人に当たらせよう」


「ありがとうございます」


「もう一つは?」


エドワルドは、一瞬だけ迷い、


「セキシャク鳥の飼育を、試したいです」


伯爵の眉が、わずかに動いた。


「聞いたことがあるな……確かに、記録はある」


「私が、育てます」


はっきりと、そう言った。


「最初は、小規模で構いません。失敗しても、私の責任で」


伯爵は、息子をじっと見つめた。


命令ではない。

願いでもない。


覚悟だ。


「……よかろう」


静かな声だった。


「だが、必ず報告しろ」


「はい」


「一人で抱え込むな」


その言葉に、エドワルドは一瞬、目を伏せた。


「……承知しました」



執務室を出た後、夕焼けが庭を染めていた。


豆。

鳥。

循環。


どれも、小さい。

だが、確実に積み重なる。


(前は、ここまで辿り着く前に――)


首元に、幻の重みが蘇る。


グレイスは、首を振った。


「今度は、違う」


急がない。

だが、止まらない。


10歳の少年は、静かに次の一手を思い描いていた。

それは、派手な改革ではない。


飢えないための、当たり前を作る――

そのための、一歩だった。

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