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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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備えはまだ足りない

あと二年。

豊作が来る。


三年後も、豊作だ。

だが、その先で必ず歪む。


小麦が溢れ、値が崩れ、

四年後――凶作が来る。


前の人生で、何度も帳簿を見返した。

数字は、嘘をつかない。


(時間は、まだある)


エドワルドは、納屋の前で立ち止まり、積み上げられた袋を見上げた。

乾燥パスタは、少しずつだが確実に増えている。

じゃじゃ芋も、次の作付けに向けて種芋が確保されている。


(これだけあれば……)


凶作が一度来るだけなら、餓死者は出ない。

少なくとも、前の人生のようにはならない。


だが。


(“一度だけ”とは限らない)


飢えは、連鎖する。

不作は、人を動かし、争いを呼ぶ。


じゃじゃ芋があるから大丈夫、とは言い切れない。


種類が少なすぎる。

一つの作物に頼るのは、危険だ。


(増やさなければ)


作物の種類。

家畜の数。

保存できる食糧。


そして――


(人だ)


どれだけ食糧があっても、

それを育て、運び、守る人がいなければ意味がない。



畑では、農家たちが忙しそうに動いていた。


以前よりも、表情が違う。

不安よりも、計算をしている顔だ。


「今年は、どれくらい残せそうだ?」


「じゃじゃ芋を少し増やすなら、ここだな」


「肥料が足りるか?」


そんな声が、自然に交わされている。


(……前は、なかった)


前の人生では、不作の年になって初めて、皆が焦った。


今は違う。


まだ豊作も来ていない。

それでも、考え始めている。


(これだけでも、意味はある)


だが、満足するには早すぎる。



屋敷に戻り、エドワルドは書庫に籠もった。


古い農書。

家畜の飼育記録。

近隣領の交易品目。


目を通しながら、思案する。


(豆類……悪くない)


土を選ばず、保存も利く。

小麦と組み合わせれば、栄養も補える。


(家畜は……)


増やしすぎれば、飼料が足りなくなる。

だが、少なすぎれば肥料が足りない。


(段階的に、だな)


急がない。

だが、止まらない。


それが、今のやり方だ。



夕方。


兄が、稽古帰りに声を掛けてきた。


「また難しい顔してるな」


「考え事です」


「畑のことか?」


「……それも、少し」


兄は、肩をすくめた。


「俺には分からんが最近、農家が落ち着いてる」


それは、良い兆候だった。


「皆、先を見始めています」


「怖くないのか?」


不意に、そう聞かれる。


「先を考えすぎると、今を楽しめなくなる」


エドワルドは、少し考えてから答えた。


「怖いです」


正直な答えだった。


「でも、考えない方が、もっと怖い」


兄は、しばらく黙り、


「……変な弟だ」


そう言って、笑った。



夜。


灯りの下で、エドワルドは指を折る。


あと二年。

三年。

四年。


時間は、確かにある。


だが、無限ではない。


じゃじゃ芋が育ち続ければ、飢えは防げる。

乾燥パスタがあれば、不作は越えられる。


それでも。


(まだ足りない)


前の人生で見た光景が、脳裏をよぎる。

痩せた土地。

空の倉。

静まり返った村。


「……次だ」


小さく、呟く。


作物を増やす。

家畜を増やす。

備えを重ねる。


静かに、確実に。


まだ誰も知らない凶作に向けて、

10歳の領主の息子は、今日も先を見ていた。


それは、焦りではない。

恐怖でもない。


生き残るための、準備だった。

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