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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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動き出す現場

変化は、命令ではなく噂から始まった。


「じゃじゃ芋を増やすらしい」


「今年の作付けに、組み込むって話だぞ」


朝の畑。

鍬を肩に担いだ農家たちの間で、そんな声が交わされていた。


正式な布告は、まだ出ていない。

だが、空気は確かに変わっていた。


「領主様の方針だそうだ」


「……例の坊ちゃんの話が元だとか」


誰かがそう言うと、別の誰かが鼻を鳴らす。


「坊ちゃん、な」


「でもよ、あの肥料といい、芋といい……結果は出てる」


反論は、弱かった。


畑の端で、その様子をグレイスは静かに見ていた。

今日は指示を出していない。

質問にも、必要以上には答えない。


「……様子見、ですね」


隣に立つのは、以前から畑を任されている年配の農家だった。


「はい」


「不安か?」


「いいえ」


エドワルドは首を振る。


「判断は、彼らがすることですから」


老人は、少しだけ目を細めた。


「坊ちゃんは、妙なところで欲がないな」


「欲しいのは、結果だけです」


「結果、か」


老人は、畑に目をやる。


「もう出てると思うがな」



同じ頃、屋敷の裏手では、別の変化が起きていた。


倉庫の前で、職人たちが集まっている。


「乾燥パスタ用の乾燥棚を増やすってよ」


「今のじゃ足りんらしい」


「誰の判断だ?」


「領主様だ」


その一言で、空気が引き締まる。


だが、次に続く言葉が、場を少しだけ和らげた。


「設計は、坊ちゃんが考えたそうだ」


「……あの歳で?」


「細かい寸法まで指定があったって」


職人たちは顔を見合わせ、苦笑する。


「世の中、分からんもんだな」


「だが、やりにくくはない」


「押し付けてこないからな」


それは、評価だった。



昼過ぎ。


エドワルドは、兄に呼び止められた。


「お前さ」


剣を肩に担いだまま、兄は言う。


「なんか、周りが勝手に動いてないか?」


「……そう見えますか?」


「見える」


即答だった。


「父上が決めた」


「お前が考えた」


「で、現場が判断してる」


兄は、少し楽しそうに笑う。


「厄介だな」


「兄上も、そう思いますか?」


「思うとも」


だが、その目は冗談ではなかった。


「これ、一度回り始めたら止まらんぞ」


「……はい」


「覚悟は?」


「あります」


同じやり取り。

だが、重みは増していた。


兄は、弟の肩を軽く叩く。


「ならいい。俺は剣で守る」


「ありがとうございます」


「その代わり」


一瞬、真剣な目になる。


「無理はするな!前に出るのは、父上の役目だ」


エドワルドは、頷いた。



夕刻。


執務室で、領主は報告を受けていた。


農家の反応。

職人の動き。

倉庫の整理状況。


「……順調です」


側近の言葉に、領主は静かに頷く。


「急がせるな!“やらされている”と思わせるな」


「承知しました」


報告が終わり、執務室に一人になる。


領主は、窓の外を見た。


畑。

倉庫。

人の動き。


(押していない)

(だが、進んでいる)


それが一番、強い。


(……やはり、面倒な才能だ)


だが、否定する気はなかった。


この領地は、少しずつ、しかし確実に――


「仕組みで、動き始めている」


その中心に、名は出ない。


だが、確かに。

エドワルドという存在が、根を張り始めていた。


そしてそれは、

まだ誰もはっきりとは言葉にしないが――


戻れない変化だった。

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