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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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勝鬨の後に残るもの

勝鬨は、長くは続かなかった。


「うおおおおお!!」


「勝ったぞーー!!」


歓声は上がった。


それはすぐに消えた。

戦場に残ったのは——静寂と匂い。


血。土。焦げた木。


そして、動かない人影。


「……」


エドワルドは、ゆっくりと馬から降りた。


足裏に、ぐちゃりとした感触。

見なくても分かる。視線を上げる。


砦の前。


味方も敵も無造作に転がっている。


「……被害報告」


低く言う。


レオンが即座に答えた。


「こちら側、戦死二十一。重傷三十七。軽傷多数」


思ったより少ない。だが、ゼロではない。


「……兄上は」


「砦側はもう少し多いですな。籠城戦ですから」


クラウスが歩いて来る。


腕に包帯。

血が滲んでいる。


「死者三十ちょい。怪我人は数え切れん」


「……そうか」


互いに黙る。


勝った。確かに勝った。


だが。


「……軽い勝利じゃないな」


「戦に軽いも重いもあるか」


クラウスが鼻で笑う。


「死んだら終わりだ」


その通りだった。




「捕虜、三十六名確保!」


兵が連れてくる。縄で縛られた敵兵。

若い。疲れ切った顔。

怯えている。


「……正規兵か?」


「半分は農民徴兵。残りは崩れた常備兵ですな」


レオンが言う。


「士気は最低でした」


エドワルドは、捕虜たちを見る。

震えている。

こちらを見られない。


「……」


昔なら全員斬っていた。

見せしめに報復、今は違う。


「武器を取り上げろ」


「はっ」


「飯は与えろ」


兵が驚く。


「よ、よろしいので?」


「ああ」


静かに言う。


「飢えた人間を、さらに飢えさせても何も生まれない」


クラウスが横でニヤつく。


「甘いな」


「うるさい」


「まあ嫌いじゃない」


兄弟らしい軽口。


だが、エドワルドは付け加えた。


「ただし」


全員を見る。


「労働はしてもらう」


「……」


「橋、柵、砦修復。全部だ」


捕虜たちの顔が少しだけ緩む。

殺されない。それだけで十分らしい。


「……これでいい」


小さく呟いた。


被害確認。


砦の中に、遺体が並べられる。

布がかけられていく。


名札。

所属。

一つ一つ。

確認。


「……若いな」


十六、七の少年。

槍を握ったまま死んでいる。

クラウスが言う。


「昨日まで農民だった奴だ」


胸が重くなる。自分が命令した。

自分が前に出した。


だから。


「……覚えておく」


小さく言った。


「忘れたら終わりだ」


レオンが静かに頷いた。


夕暮れ。


戦場が片付く頃、空が赤く染まる。

兄弟は砦の上に並んで座っていた。


珍しく誰もいない。


静かだ。


「……」


しばらく沈黙。

やがてクラウスが言う。


「強くなったな、お前」


「いきなり何だ」


「昔は泣き虫だったのに」


「誰がだ」


「畑荒らされた時、泣いてたろ」


「覚えてない」


「俺が代わりに殴り込み行った」


「余計な事すんな」


ふっと笑う。

懐かしい、戦場なのに、子供の頃みたいな空気。


「……なあ」


クラウスが真面目な顔になる。


「怖くないのか」


「何が」


「こんな状況だ」


王が死に、国が崩れ、自分たちが軍を動かしている。

本来あり得ない世界。

エドワルドは空を見る。


赤い燃える色。


「……怖いよ」


正直に言った。


「ずっと怖い」


クラウスが少し驚く。


「でもな」


ゆっくり続ける。


「止まったら終わる」


「……」


「だから前に進むしかない」


小さく笑う。


「兄上が後ろにいるしな」


クラウスが吹き出す。


「任せろ。後ろは守ってやる」


「頼んだ」


「前は任せた」


「ああ」


夕陽の中。二人は肩を並べて座った。

戦は終わった。


まだ続くそれでも。今日だけは、少しだけ。

兄弟の時間だった。

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