じゃじゃ芋、収穫
乾燥パスタの話題が、ようやく落ち着き始めた頃。
畑に立つエドワルドは、足元ではなく――葉を見ていた。
「……黄色くなってきてるな」
兄が、畝を挟んでそう言う。
「はい」
エドワルドは、頷く。
「枯れ始めています。収穫時期だと思われます」
兄は、しゃがみ込み、一本の株を指で弾いた。
「こういうのは、見た目で分かるもんなんだな」
「ええ。地上が終わる頃、下が出来上がっています」
「なるほど」
兄は、納得したように立ち上がる。
「じゃあ」
剣ではなく、鍬を手に取った。
「やるか」
◇
収穫は、思ったよりも静かだった。
土を崩す。
株を引く。
転がり出る、丸い塊。
「……おお」
最初に声を上げたのは、兄だった。
「出てくるな」
「はい」
エドワルドは、抑えた声で答える。
「複数ついています」
一株。
また一株。
土の中から、次々に現れる。
「これは……」
兄は、思わず笑った。
「楽しいな」
「そうですね」
純粋な労働。
成果が、目に見える作業。
剣の稽古とは、違う満足感だった。
◇
途中から、農家も加わった。
「おお、出来とるな」
「悪くないぞ」
声は控えめだが、表情は明るい。
「数、測りますか?」
エドワルドの問いに、兄が頷く。
「やろう」
◇
計量は、倉の前で行われた。
一袋、また一袋。
数字が、少しずつ積み上がっていく。
「……これで、最後です」
農家がそう言い、秤から袋を下ろす。
兄が、帳面を見る。
「合計――」
一瞬、確認してから。
「八十三キロだ」
「……八十三」
誰かが、呟く。
決して、膨大ではない。
だが、小さくもない。
「初年度としては、上出来だな」
兄は、素直にそう言った。
「はい」
エドワルドは、胸の奥で、静かに息を吐く。
失敗しなかった。
それが、何よりだ。
「これ、どう使う?」
兄が、尋ねる。
「すぐ食べる分」
「保存する分」
「種に回す分」
エドワルドは、即答した。
「三つに分けます」
「迷いがないな」
「決めていましたので」
兄は、少しだけ目を細めた。
「……やっぱり、お前は後ろの人間だ」
その声に、嫌味はなかった。
夕方。
収穫を終えた畑は、少し寂しく見える。
だが、地面の下には、
確かに“成果”があった。
乾燥パスタ。
じゃじゃ芋、八十三キロ。
どちらも、派手ではない。
だが、
「飢えを先送りにできる量」だ。
エドワルドは、空になった畝を見ながら、思う。
急がない。
浮かれない。
けれど――
一つずつ、
確実に。
この領地は、
生き延びる準備を整え始めている。
それだけで、
今日は、十分だった。




