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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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乾燥パスタ完成

最初に「形になった」と言い出したのは、料理人だった。


「……坊ちゃま」


厨房の片隅で、慎重に声をかけてくる。


「これは……完成と言って、いいと思います」


台の上に並べられたそれは、細く、均一で、割れも少ない。

乾燥も安定しており、触れば軽い音がした。


「茹で時間も、ほぼ一定。味も、前より落ちていません」


料理人の声には、抑えきれない達成感が混じっていた。


エドワルドは、そっと一本を手に取る。


軽い。

以前の失敗作とは、明らかに違う。


「……長く置いても?」


「三ヶ月、試しました。虫も出ていません。湿気対策さえすれば、もっと持つでしょう」


胸の奥が、静かに熱くなる。


やっと、だ。



その日の夕食。


食卓に並んだのは、いつもより簡素な一皿だった。

だが、皿の中央には、見慣れない料理がある。


「これは?」


父が、視線を向ける。


「例の試作品です」


料理人が、少し緊張した声で答えた。


「乾燥小麦麺を、茹でております」


父は、フォークを取る。


香りは、控えめ。

だが、不快ではない。


一口。


噛み、飲み込む。


「……」


一瞬の沈黙。


グレイスは、父の表情を読む。

否定も、驚きもない。


ただ、考えている。


「悪くない」


短い評価だった。


「腹に溜まる」

「保存できる」

「作り置きが利く」


父は、皿を見下ろす。


「完成、と見ていいな」


料理人が、深く頭を下げた。


「はい」


父は、ゆっくりと頷く。


「名は?」


「……まだ」


料理人が、困ったように答える。


「呼び名は、乾燥パスタと」


「そうか」


父は、それ以上詮索しなかった。


「では、次だ」


次。


その言葉に、場の空気が変わる。


「これは、食事だ!だが――」


父は、視線を上げる。


「備えにもなる」


グレイスは、黙って聞いていた。


これは、自分の手を離れ始めている。

それでいい。



数日後。


倉の一角に、専用の棚が設けられた。

量は、まだ少ない。


だが、明確な用途が与えられた。


・非常食

・試験保存

・一部農家への提供


「売るのは、まだ早い」


父は、そう判断した。


「まずは、使えるかどうかだ」


正しい判断だった。



農家に渡されたのは、ごく少量。


「茹でるだけでいい。味付けは、自由」


最初は、戸惑い。次に、驚き。そして――納得。


「腹持ちがいい」


「火を使う時間が短い」


「粉より扱いやすい」


声が、静かに広がる。



エドワルドは、畑の脇でそれを聞いていた。


自分から説明はしない。

聞かれれば、答える。


それで十分だった。


乾燥パスタは、

奇抜な発明ではない。


ただの、

「不安を少し減らす道具」だ。


だが、その価値を知る者は、

確実に増え始めていた。



夜。


一人、部屋で考える。


肥料。

じゃじゃ芋。

乾燥パスタ。


点が、線になり、

線が、面になりつつある。


急がない。

だが、止まらない。


処刑台の低さを、忘れない。


完成したのは、食べ物一つ。


だが――

この領地は、確実に


「飢えに対して強くなり始めている」。


それだけで、今は十分だった。

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