表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/76

農家代表の相談

屋敷に農家が来ること自体は、珍しくない。


だが――

「代表」が来るとなれば、話は別だった。


執事が控えめに告げる。


「農家の代表数名が、お目通りを願っております」


代表、という言葉に、胸の奥がわずかに締まる。


断る理由はない。

だが、こちらから呼んだわけでもない。


「……通せ」


応接の間に通されたのは、三人。


いずれも、領内では顔の知られた農家だった。年は上。手は太く、日に焼け、姿勢は低い。


だが、媚びる様子はない。


「本日は、お時間をいただき、ありがとうございます」


中央の男が、頭を下げた。


「こちらこそ」


エドワルドは、子供らしい位置に腰を下ろす。

無理に威厳を作らない。だが、軽くもならない。


「それで……今日は、どのようなご用件でしょうか」


男たちは、視線を交わした。


最初に口を開いたのは、少し年若い農家だった。


「率直に言います」


その声には、覚悟があった。


「坊ちゃまのやり方について、相談に参りました」


「……やり方?」


「はい」


中央の男が続ける。


「命令をされたわけではありません。強制も、ありません」


「ですが――」


一度、言葉を切る。


「もう、元には戻れません」


空気が、静かに張り詰めた。


「元に?」


「はい」


男は、畑での変化を語った。


肥料の使い方。

作付けの順序。

収穫後の保管。

そして、じゃじゃ芋の話。


「全部、こちらで考え、決めたことです。坊ちゃまは、可能性を示しただけだ」


「ですがそれを知ってしまった以上、何も考えずに作ることが、できなくなった」


エドワルドは、黙って聞いた。


「良いことばかりではありません。手間も増えました。失敗も、ありました」


別の男が言葉を継ぐ。


「それでも先が、少しだけ見えるようになった」


「それが……怖くてな」


怖い。

その言葉に、エドワルドは小さく息を吸った。


「我々は、農家です。難しい政治は分かりません」


「ですがこのまま進んでいいのか?誰かに止められる日が来るのか?」


代表は、正面から見た。


「坊ちゃまに、聞きたいのです」


エドワルドは、すぐには答えなかった。


これは、助言ではない。

実験でもない。


選択だ。


「……止めるつもりは、ありません」


静かな声だった。


「ただし責任は、皆さんのものです」


農家たちの目が、揺れる。


「私は、決めません」

「命じません」

「結果を奪いません」


「ですが困った時、相談に来ることは、構いません」


代表の男は、ゆっくりと息を吐いた。


「それで、十分です」


「え?」


「我々が欲しかったのは正解ではなく、逃げ道です」


「間違えた時に一緒に考えてくれる相手がいるかどうか」


男は、深く頭を下げた。


「坊ちゃまこれからも、お願いします」


エドワルドは、立ち上がり、同じ高さで頭を下げた。


「こちらこそ」


農家たちは、静かに去っていった。



その夜。


エドワルドは、一人で考える。


農家が「代表」を立てた。

それは、自然な流れであり、

同時に――後戻りできない証だった。


もう、点ではない。

線になり始めている。


だが、急がない。


急げば、壊れる。


処刑台の低さを、思い出す。


だからこそ――

今は、踏みとどまる。


相談は受ける。

判断は渡す。

責任は、奪わない。


それが、

この時代で、幼い自分に許された、

唯一のやり方だった。


そしてこの日、

農家たちは初めて、


「領主の息子」ではなく、

「一緒に考える相手」として、

グレイスの名を、心に刻んだ。


それが、

後に大きな流れになることを、

まだ誰も知らないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ