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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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勘違いした言葉と本物の怒り

「……私は」


男は、喉を鳴らしてから、ゆっくりと口を開いた。


「私は、素直に話し出しているだけでございます」


周囲の空気が、さらに張り詰める。


「しかしながら――私も被害者でございます」


その瞬間。


「――貴様、まだ言うか!!」


エドワルドの声が、低く鋭く響いた。


だが男は、引かなかった。

むしろ、口角をわずかに上げる。


「いえ。言わせて頂きます」


一歩も引かず、言葉を重ねる。


「貴方も貴族様でしょう?それなら、お分かりになる筈です」


ざわり、と空気が揺れる。


「本心と内心の区別を」


その言葉に、周囲の視線が一斉に男へ集まった。


「貴方も、今は本心では無い。

内心では、仕方なしにこの場に居る。

――“私は庶民の味方です”という立場を演じているだけだ」


次の瞬間。


その場に居た警備隊、団員、そして元からこの村に住んでいた人々の間に、

はっきりとした殺気が走った。


空気が、重く沈む。それも、その筈だった。


ここに居る者達は、知っている。


エドワルドが、夜遅くまで村に残り、

指示だけでなく、自ら土を運び、木を担ぎ、

人手の足りない所へ何度も足を運んでいた事を。


命令するだけの貴族では無かった事を。


それを、少し遅れてこの地に来た保護民でさえ、見ていた。


疲れた顔で、それでも村を回る姿を。

書類よりも現場を選んだ姿を。


だからこそ——


男の言葉は、完全な侮辱だった。


「……黙れ」


エドワルドの声は、怒鳴り声では無かった。

氷の様に冷たい、断定だった。


「貴様は、何一つ分かっていない」


一歩、踏み出す。


「私は“庶民の味方”を演じてなどいない。

助けると決めたから、ここに居る」


視線を逸らさず、続ける。


「そして貴様は、“味方のふり”をして入り込もうとした」


男の顔が、僅かに歪む。


「……違います。私は——」


「違わない」


きっぱりと、切った。


「貴様は言葉で人を分ける人間だ。

本心だの、内心だの、立場だのとな」


周囲を一瞥する。


「だがここに居る者達は違う。黙って働き、黙って耐え、生き延びようとしている」


再び、男へ。


「貴様は、その上に立とうとした」


沈黙。


殺気は、もはや隠されていなかった。

エドワルドは、はっきりと言った。


「……この場で分かっただろう」


男を、そして周囲を含めて。


「言葉を使い間違えた者が、どうなるかを」


この瞬間、男は“疑わしい者”から——

完全な敵へと変わった。


そして村の誰もが悟っていた。


これは、もう尋問ではない。

見せしめでもない。


——境界線を越えた者への、裁きだと。



その時だった。


――コツン。


乾いた音がした。


小石が、男の肩に当たった。誰が投げたのか分からない。


だが次の瞬間。


二つ、三つ――


四つ、五つ。


石が飛ぶ。


そして。


「……っ!?」


無数の石が、男へと降り注いだ。


子供の手ほどの石。拳大の石。

地面にいくらでも転がっている、それらが。


次々と。容赦なく。


バチッ。


ゴッ。


鈍い音が続く。額に当たり、頬に当たり、肩に当たる。


一つが頭部に直撃し、皮膚が裂けた。

血が、だらりと流れ落ちる。


「や、やめろ……!」


だが止まらない。誰か一人ではない。


十人、二十人、三十人。


怒りを溜め込んでいた全員が、投げていた。

その目は、恐怖でも混乱でもない。


純粋な拒絶。


「帰れ」


「出ていけ」


「お前みたいなのが一番いらねぇんだよ」


言葉にならない唸りが混ざる。


そして男は――


叫んだ。


「このゴミの様なクズ共が!!」


その声は、悲鳴ではなく、憎悪だった。


「この私に石なんぞ投げつけやがって!

下民風情が!身の程を知れ!!」


その言葉に。場の空気が、完全に凍った。


次の瞬間。


さらに強く。

さらに激しく。

石が飛ぶ。


もう容赦は無かった。


「うるせぇ!」


「誰がクズだ!」


「助けてもらってる身で何様だ!」


それでも男は叫び続けた。


「黙れ!汚らわしい!触れるな!近寄るな!

貴様らの様な連中の為に私が頭を下げるなど――」


最後まで。

最後の最後まで。

人を見下す言葉しか吐かなかった。


エドワルドは、ゆっくりと歩いた。


止める声は出さなかった。

止める必要も、もう無いと分かっていた。


――もう、救う価値が無い。


隣に居た警備員の腰に手を伸ばす。

するり、と。迷いなく。剣を抜き取った。


「……エドワルド様?」


誰かが息を呑む。男が、こちらを見た。

血まみれの顔で、なおも睨みつける。


「な、何だ……!?近寄るな!私は貴族側の人間だぞ!貴様らとは――」


その言葉が、最後だった。


一閃。


銀の軌跡が走る。


躊躇も、怒号も、宣告もない。


ただ、速い。あまりにも速い、一太刀。


――ドサリ。


首が落ちる。


遅れて、身体が崩れた。


静寂。


誰も、声を出さない。


石を握ったまま、動けない者もいる。


「……埋めろ」


それだけ言った。


「ここは、救護の場だ」


低く、しかし全員に届く声。


「だが――人を踏み台にする者の居場所は無い」


誰も、反論しなかった。

ただ、深く頷いた。

その日。この領に、暗黙の掟が刻まれた。


――助けはする。


だが、裏切りは許さない。

その線を、エドワルドは自らの手で引いたのだった。

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― 新着の感想 ―
貴族と言うのは領地を発展される、又は治める責務を負うから貴い者な訳で つまり発展も治める責務も投げ捨てて私欲に走ってたのにまた浅ましくその地位を安易に得ようとしようとしてる時点で 貴族だったとしても為…
エドワルドって13歳で剣習い出してまだそんなに経ってないよね? 剣の才能もあったって事?
あれ、主人公って大人の首を一刀の元に落とす事が出来る剣の腕ってありましたっけ?
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