剥がれた仮面と踏み越えた線
エドワルドは、一歩前に出た。
「——警備員。命令を出す」
空気が、凍りついた。
「この者を捕えろ。偽装保護民だ」
「!?」
周囲がざわめく。
男は一瞬目を見開き、すぐに声を荒げた。
「な、何故ですか!?私は確かに保護民でございます! 隣領から逃げ——」
「まだ言うか」
低い声が、男の言葉を切り捨てた。
「貴様は教育を受けている。それも、読み書き程度ではない。
思考の組み立て、言葉の選び方、間の取り方——かなり高度だ」
男の喉が、僅かに鳴る。
「……!? だ、だから何だと言うのですか!
教育を受けていれば、保護されてはならないと!?」
「違う」
エドワルドは、さらに踏み込んだ。
「貴様は“役に立つ”と言ったな」
「……それが?」
「保護民はまず、生き延びたいと言う。
働きたい、迷惑を掛けたくない——そこまでだ」
一瞬の沈黙。
「だが貴様は違う。“お役に立てます”と言った」
男の表情が、ほんの僅かに歪んだ。
「……それが、罪だと?」
「まだ言うか」
エドワルドの声が、鋭くなる。
「貴様はその立ち位置を、今までどこで使ってきた?
民の中か? 役人の横か? それとも——」
一歩、近付く。
「誰に仕えていた?」
沈黙。
男は、答えなかった。
否——答えられなかった。
その沈黙こそが、答えだった。
エドワルドは、はっきりと告げた。
「……警備員」
男が顔を上げる。
「この男を、この場で処刑する」
「!?」
周囲が息を呑んだ。
警備員すら、一瞬動けない。
男は叫んだ。
「ま、待て! 何故だ!?証拠も無く——!」
「証拠は十分だ」
エドワルドの目は、冷たく澄んでいた。
「貴様は“助けを求める者”ではない。
“状況を観測し、価値を測り、入り込もうとした者”だ」
一拍。
「ここは救護の場だ。だが——嘘を許す場所ではない」
男の顔から、血の気が引く。
「……っ!」
初めて、恐怖が滲んだ。
エドワルドは、わざと周囲にも聞こえる声で続けた。
ざわめきが広がる。
「だがこの場で“処刑宣告”を出す意味は、一つだ」
視線を、集まった人々へ向ける。
「——この領では、偽装は必ず露見する」
そして男へ、最後に告げた。
「貴様は、最初の例だ。
名も、身分も、役目も——洗い出す」
逃げ場は無い、と。
中央の村は、完全に静まり返っていた。
救護の裏側で——選別が、始まった瞬間だった。




