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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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小さな改良

鍛冶場の音は、いつも同じだ。


一定の間隔で落ちる槌。

火を煽る風の音。

金属が熱を帯び、色を変える気配。


この領地で、変わらず続いてきた営み。


俺は、鍛冶場の少し離れた場所に立ち、その様子を眺めていた。


「……今すぐ、大きく変える必要はない」


農具の総入れ替えは無理だ。

金も、人手も、余裕がない。


だが――


全部を新しくしなくても、

少し楽にすることは、できるはずだ。


「坊ちゃま?」


鍛冶師が、こちらに気づいて声を掛けてきた。


年季の入った男だ。

腕は悪くないが、やり方は昔から変わっていない。


「見ていても、いいですか?」


「構いませんが……暑いですよ」


「大丈夫です」


鍛冶師は、不思議そうな顔をしながらも、作業を続けた。


農家から預かった鋤の刃。

刃先が摩耗し、土を切る力が落ちている。


「これ、研ぎ直すんですか?」


「ええ。まだ使えますから」


そこだ。


「全部、新しくする必要はない」


俺は、心の中で確認する。


鍛冶師の手元を、じっと見る。


刃の角度。

柄との接合部。


「……その刃先、少し丸いですね」


鍛冶師が、手を止めた。


「長く使えば、そうなります」


「角度を、少しだけ変えられますか?」


「変える?」


「ほんの少しでいいです」


鍛冶師は、眉を寄せる。


「刃は刃です。変えても、大差は――」


「試すだけです」


俺は、言い切らなかった。

命じもしない。


「一本だけ、です」


沈黙。


やがて、鍛冶師は肩をすくめた。


「……まあ、一本くらいなら」


炉に戻し、刃先を熱する。


いつもより、わずかに鋭い角度。


それだけだ。


「これで、どうです?」


「実際に、畑で使ってもらってください」


鍛冶師は、半信半疑だったが、頷いた。



翌日。


畑で、農家が鋤を振るう。


普通の鋤。

改良した鋤。


「……あ?」


農家の動きが、止まる。


「軽い」


正確には、軽く感じる。


土への入りが、違う。


「力、そんなに入れてないぞ」


隣で見ていた別の農家が、鋤を借りる。


「……本当だな」


鍛冶師が、腕を組んで見ていた。


「刃を変えただけだぞ」


「でも、楽です」


農家は、正直だった。


「一日使ったら、違いが出ます」


鍛冶師は、何も言わなかった。


ただ、刃先を見つめている。



数日後。


鍛冶場に行くと、同じ形の刃が、いくつか並んでいた。


「……あれ?」


鍛冶師が、咳払いをする。


「頼まれました」


「誰に?」


「農家に、です」


それだけで、十分だった。


大きな改革ではない。

新技術でもない。


だが――


一日の疲れが、少し減る。

翌日の動きが、少し楽になる。


その積み重ねは、確実に効く。


「全部、これに変えるんですか?」


俺が聞くと、鍛冶師は首を振った。


「無理です」


即答だった。


「でも、直す時は、この形にします」


それでいい。


一気に変えれば、反発が出る。

少しずつなら、残る。



帰り道。


俺は、手のひらを見つめた。


剣を持つ手ではない。

鍬を振るう手でもない。


だが、間に立つ手だ。


「産業じゃない」


まだ、違う。


だが、これは――

土台だ。


道具が少し良くなる。

作業が少し楽になる。

余裕が、ほんの少し生まれる。


その余裕が、次を生む。


「……小さな改良でいい」


前の人生では、

「足りないもの」ばかり見ていた。


今は違う。


「今あるものを、どう使うか」


鍛冶場の音が、背後で響く。


いつもと同じ音。

だが、確かに――

昨日とは、違っていた。

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