表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/185

形になる速さ

南町は、目に見えて変わり始めていた。


昨日までただの更地だった場所に、朝には杭が打たれ、昼には骨組みが立ち、夕方には壁の輪郭が見える。


「早ぇな……」


文官が思わず呟く。


図面は単純だ。寸法は統一。

材料も揃っている。


そして何より——迷いがない。


「次、梁!」


「そっちはもう屋根行けるぞ!」


「壁材、こっちに回せ!」


声が飛び、手が動く。

誰かが指示を出さなくても、自然と役割が分かれていく。


王都経験者の職人が要点を押さえ、領内の職人が手数で支え、保護民の中の若い者達が、それを必死に追いかける。


「五部屋、反対側も五部屋!

通路は真っ直ぐ、詰まるな!」


「共用の台所は先に作れ!使い始めたら後が楽だ!」


建物は、一棟ずつ完成するのではなかった。


骨組みだけが一気に並び、壁がまとめて張られ、屋根が連なって被せられる。


気が付けば——


「……もう、住めるな」


そう言われて初めて、文官は気付いた。


完成を待っていない。

出来た端から、人が入れる。


雨風を凌げる。火を使える。眠れる。

それだけで、人は生き延びられる。


エドワルドは、少し離れた場所からその様子を見ていた。


「……数字じゃないな」


紙の上の“収容可能人数”よりも、

現場で積み上がっていく建物の数の方が、ずっと正確だった。


一棟。また一棟。


それは家であり、避難所であり、

そして——


「居場所だ」


誰に言うでもなく、そう呟く。


南町は、まだ未完成だ。整ってもいない。

余裕があるわけでもない。


だが——


受け入れる速度だけは、誰にも負けていなかった。


そしてその速さこそが、これから押し寄せる“波”に対する、唯一の答えになりつつあった。



南町に、音が戻り始めていた。


最初は、槌の音や木を切る音だけだった。

次に、人の声が増えた。

指示でも、怒号でもない、普通の会話。


「ここ、寝るには十分だな」


「雨、しのげるだけでありがてぇ」


「……久しぶりに、屋根の下だ」


建ったばかりの建物の前で、保護民——いや、救護された人々が立ち尽くしていた。


中へ入る者。

しばらく外で空を見上げる者。

壁に手を当て、何度も確かめる者。


「本当に……ここに居ていいんですか?」


若い女が、建築職人にそう尋ねた。


「ああ。名前書いて、部屋決めて、それで終わりだ」


「……それだけ?」


「それだけだ」


拍子抜けした様な顔の後、

女は、堪える様に唇を噛み——小さく頭を下げた。


礼を言う声が、あちこちで上がり始める。


だが、職人達はそれを受け取らない。


「いいから中入れ」


「まだ先あるぞ、休める時に休め」


「次はもっと人来るんだ」


誰も“救っている”つもりではなかった。

ただ、回しているだけだ。


それが、空気を変えた。


夕方。

共用の台所から、湯気が立ち上る。


鍋の中身は簡素だ。

だが、火を囲む人の数は多い。


「……あったけぇな」


「腹に入るだけで違う」


笑い声が、混じった。


ほんの一瞬。

確かに——日常の匂いがした。


それを、エドワルドは少し離れた場所で見ていた。


「……切り替わったな」


南町は、もう“避難地”ではない。

“溜める場所”でもない。


人が来て、休み、次に進む。

あるいは——ここに根を下ろす。


流れの中に、生活が混じり始めた。


波は、まだ来る。もっと大きなものが。

だが今この瞬間、南町は確かに——


耐えられる町になり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ