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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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夜空に滲む終わりの色

その夜、エドワルドは執務机に肘をつき、灯りを落とした部屋で天井を見上げていた。


保護——いや、もう救護だ。

今のところ、大きな破綻はない。


南町の進み具合も、想定以上に順調だ。

人が動き、手が足り、互いに補い合っている。

数字の上でも、現場の肌感でも、致命的な歪みは見えない。


「……なら」


他には何がある?


見落としている事は?

抜け落ちている要素は?

まだ気付いていない“爆弾”は?


ふぅ、と短く息を吐く。


静かすぎる夜だった。


コンコン。


「……?」


こんな時間に?


「誰だ」


扉の向こうから、低く抑えた声が返る。


「レオンであります。夜分に、失礼いたします」


胸の奥が、わずかにざわついた。


「入れ」


「はっ」


入ってきたレオンは、鎧も外し、完全な私服だった。

それでも表情は引き締まっている。


「如何した。こんな夜更けに」


「……エドワルド様。王都方面の空を、ご覧になって下さい」


「空?」


「はい。この場所からの方が、はっきり見えるかと……」


エドワルドは立ち上がり、レオンに促されるままバルコニーへ出た。


夜風が、ひやりと頬を撫でる。


そして——


「……なっ」


言葉が、喉で止まった。


王都方面の空が、暗闇の中で異様に染まっている。

赤でもない。炎そのものでもない。


——濁った、オレンジ色。


「何だ……あれは」


視線を凝らす。

雲が光っているわけじゃない。

空そのものが、下から照らされている。


「恐らく……大規模な火災が発生しているものと思われます」


「……なっ!?」


思わず、声が裏返る。


「まさか……」


頭の中で、最悪の想像が一気に膨らんだ。


暴動。

倉庫襲撃。

統制の崩壊。


「……嘘だろ……」


喉が、ひどく乾いた。


一つや二つの火事じゃ、ああはならない。

あれは——街単位だ。


エドワルドは、夜空から目を離せずに呟いた。


「……遂に、夜まで燃え始めたか」


昼に起きた混乱が、夜には火となって噴き出す。

それが意味するのは、もう一つしかない。


王都は、戻れない段階に入った。


レオンが、低く告げる。


「……恐らく、今夜が境目です」


エドワルドは、拳を強く握った。


これで、完全に確定した。


——もう、中央は助けにならない。

——助けを出せるのは、こちらしかない。


夜空に滲むオレンジ色は、

終わりの合図であり、

同時に——


彼が背負う責任の、輪郭そのものだった。


俺は、その足で父上の執務室へ向かった。

夜更けとはいえ、灯りはまだ落ちていなかった。


「父上」


扉を叩く間もなく声を掛けると、すぐに返事がある。


「入れ」


中では父上が書簡を手にしていた。

顔を上げ、わずかに眉を寄せる。


「如何した。こんな夜更けに」


「レオン団長から、報告がありました」


その言葉だけで、父上の手が止まる。


「……続けろ」


「王都方面の空です。父上も、バルコニーからご覧下さい」


「空を?」


怪訝そうに立ち上がりながらも、父上は何も言わずに歩き出した。

二人で並び、バルコニーへ出る。


そして——


父上の足が、止まった。


「……なっ」


夜空に滲む、異様な色。

言葉より先に、理解が走ったのだろう。


「……まさか」


低く、掠れた声。


「……あの色は」


「恐らく、大規模な火災です。複数箇所……いや、町単位でしょう」


父上は、しばらく黙って空を見ていた。

その背中が、わずかに小さく見えた。


「……遂に、ここまで来たか」


絞り出す様な呟き。


「書面上の“安定”は、完全に嘘だったな」


「はい」


否定のしようも無い。


父上は、深く息を吸い、吐いた。


「何処かの町は……もう夜を越えられんか」


「恐らくは」


二人の間に、重たい沈黙が落ちる。


だが次の瞬間、父上はゆっくりとこちらを見た。


「……ならば」


その目は、もう迷っていなかった。


「この領は、この領で生き残る。

助けられる者は助ける。中央は、当てにせん」


「……はい」


その一言で、全てが決まった。


父も、息子も、同じ夜空を見た。

同じ色を見て、同じ現実を理解した。


もう——戻る道は無い。


夜空に広がるオレンジ色は、

この領にとっても、覚悟の色だった。

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― 新着の感想 ―
最初から王都に報告しとけば良かったような。 報告したら罰せられる仕組みとかなんかね。
これまでのように、更に一人でも多くの人の命を拾い上げるための戦いであると同時に、場合によっては暴徒による略奪が難民の顔をしてやってこないかの警戒も今後必要なんですかね……。 レオンともこれまで以上に連…
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