静かな報告と開いた隙間
レオン団長からの報告は、思っていたよりも落ち着いた口調だった。
「団員が救助した村人の輸送が、少しずつですが始まっています」
「人数は?」
「現在のところ、ざっくりで約二百五十名ほどです。その一部が、すでにこちらへ向かっています」
二百五十名。
紙の上で見れば決して少なくはない。だが——
「……この程度なら、まだ大丈夫だな」
南町、領都、そして三箇所の一時保護村。
流れは詰まっていない。受け止め切れる。
胸の奥に溜まっていた重石が、わずかに軽くなるのを感じた。
「引き続き、無理はさせるな。
回復を優先して、運べる分だけでいい」
「了解しました」
今度はグレゴールが入ってきた。
表情が、いつもより硬い。
「……恐るべき報告です」
「何だ?」
「領主様宛にですが……隣領、特に王都方面に近い各町々で、暴動が発生した模様です」
一瞬、空気が止まった。
「規模は?」
「詳細は不明。ただし複数箇所、ほぼ同時です。治安部隊では抑え切れていないとの話も……」
「……遂に、か」
口に出してみると、不思議と感情は湧かなかった。
予想していた。いや、覚悟していた。
「王都は?」
「恐らく……もうまともな連絡は期待出来ません。王政そのものも、機能不全に近いでしょう」
エドワルドは、ゆっくりと息を吐いた。
「これで確定だな」
書類の山を見下ろす。
数字だけが整った、空虚な帳面。
「王都とも、王政とも、事実上の連絡断絶だ」
それは危機でもあり——
「……好機でもある」
グレゴールが黙って頷く。
「隣領は、既に統治不能に近い。中央の目も手も届かない」
助けを求める声だけが、溢れる。
「ならば、こちらの判断で動ける」
法も、命令も来ない。
ならば責任も——こちらが取る。
エドワルドは、静かに言った。
「救助は続ける。だが、もう“様子見”は終わりだ」
波は、もう来ている。
ならば——
飲み込まれる前に、更にこちらから踏み込む。まあ既に踏み込んで居るが。
静かな報告の裏で、確かに一つの時代の隙間が、開いていた。




