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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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動き出す手

南町は、少しずつ——だが確実に、自力で動き始めていた。


指示を待つ空気が、薄れている。

誰かが号令を掛けなくとも、朝になれば人が動く。


畑を耕せる者は、畑へ。

木を扱える者は、森へ。

石を扱える者は、採石場へ。

鉄を扱える者は、鍛冶場へ。


それぞれが、自分の出来る場所を見つけていた。


エドワルドは、南町を一巡しながら、その変化を肌で感じていた。


「……始まったな」


畑では、簡易な鍬を手に土を返す者達がいる。

まだ痩せた土地だが、作付けを想定した畝が引かれている。


森では、木を倒す順番を巡って、自然と声が飛び交っていた。無駄に切らない。

乾かす木と、すぐ使う木を分ける。


誰に教わった訳でもない。

——経験が、そうさせている。


採石場では、石の割り方を巡って年嵩の男が若い者に手振りで示していた。


「そこを叩け」


「力は要らん、角だ」


鍛冶場では、まだ小さな炉だが、火は絶えていない。折れた道具の修繕。

曲がった釘の打ち直し。


「……居たか」


エドワルドは、静かに頷いた。


保護民の中に、職人が混ざっている。

それも、一人や二人ではない。


畑を知る者。

木を読む者。

石を割る者。

鉄を扱う者。


「十分だな」


彼らは、ただ助けられる側ではない。

加わる側だ。


この人達が入るだけで、作業の速度も、精度も変わる。

何より——


「教えられる」


手順が残る。技が伝わる。

町が、“続く形”になる。


南町は、まだ未完成だ。

足りない物も、危うい所も多い。


だが——

人の手が、もう止まっていない。


「支える段階は、もう終わりに近いな」


エドワルドは、そう判断した。


これから必要なのは、命令ではない。

監視でもない。


邪魔をしない事。


必要な資材を回し、危険な所だけを塞ぎ、

あとは——任せる。


南町は、今日も音を立てている。


鍬が土を割る音。

斧が木に入る音。

石が弾ける音。

鉄が鳴る音。


それは、町が生き始めた証だった。


南町の一角。

畑仕事を終えた町民達が、少し離れた場所で様子を眺めていた。


「……保護した奴らの中の職人達、中々やるな?」


そう呟いた男の視線の先では、手際よく木を組む元保護民達の姿があった。


「そうだな。最初に来た時とは別人みてぇだ」


「随分と元気になったもんだ!」


誰かが笑い混じりに言うと、周囲からも短い笑い声が漏れる。


次の言葉は冗談半分ではなかった。


「……こっちも負けてらんねーぞ?」


一瞬、沈黙。それから。


「おう!!」


声が重なった。


「俺達が先に住んでる町だ」


「手本見せねぇとな」


「南町を“借り物”の町にはさせねぇ」


誰かが号令を掛けた訳ではない。

だが、それぞれが自分の持ち場へ戻っていく。


鍬を担ぎ直す者。道具を点検する者。

手伝いに行く先を探す者。


南町には、少しだけ違う熱が混じり始めていた。


助ける側と、助けられる側。

その境目が、ゆっくりと——溶け始めている。


エドワルドは、その様子を遠目に見て、小さく息を吐いた。


「……いい連鎖だ」


競争でも、対立でもない。

張り合う様に、前へ進む力。


それが今、確かに生まれていた。

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