思いつかないもの
順調――なのだろうか。
じゃじゃ芋は、まだ土の中だ。
結果は、出ていない。
芽は揃い、葉も悪くない。
肥料の効きも、目で見て分かる。
だが、それは「途中経過」にすぎない。
「……評価するには、早いな」
畑を離れ、俺は屋敷へ戻る。
次に出来ることは何だ。
頭の中で、順に並べていく。
農具の更新。
鍬、鋤、馬具。
効率は、確実に上がる。
だが――金が掛かりすぎる。
鍛冶を動かせば、鉄が要る。
鉄を買えば、金が出る。
今の領地に、その余裕はない。
「……そこは、後だ」
無理をすれば、次が続かない。
父なら、そう判断する。
俺も、同じだ。
執務室の外を通り過ぎる。
中では、帳簿の音がする。
数字は、嫌でも目に入る。
収入は、平凡。
支出も、平凡。
だが、それが一番厄介だ。
突出したものが、何もない。
「産業、か……」
昔から、この領地には特筆すべき産業がない。
小麦。
家畜。
林業。
どれも、ある。
だが、どれも「並」。
戦になれば、真っ先に削られる。
豊作の年でも、王都に吸われる。
不作の年には、真っ先に苦しむ。
「前の人生でも……」
思い返す。
制度は整えた。
税も見直した。
だが、根本は変わらなかった。
稼ぐ力が、弱かった。
だから、外に依存した。
だから、揺さぶられた。
「……産業だけは、思いつかなかったな」
知識はある。
未来も、知っている。
だが、この領地で「何が産業になるか」は、簡単ではない。
特産品。
加工品。
交易。
どれも、条件が要る。
土。
水。
人。
技術。
どれも、少しずつ足りない。
「焦るな」
自分に言い聞かせる。
今は、基盤作りだ。
土。
食糧。
保存。
それが整えば、人が残る。
人が残れば、技が残る。
技が残れば、産業は後から生まれる。
逆は、成り立たない。
「……それでも」
歩きながら、倉の前で立ち止まる。
静かだ。
だが、この倉が満ちれば、
この領地は、揺らぎにくくなる。
「順調、ではあるな」
派手さはない。
即効性もない。
だが、崩れにくい。
前の人生で、俺が出来なかったやり方だ。
ふと、遠くで金属音が聞こえた。
鍛冶場だ。
槌の音は、規則正しい。
「……鍛冶」
農具の更新は無理でも、
修理や改良なら、出来るかもしれない。
全交換ではなく、手直し。
新品ではなく、改善。
「完全に思いつかない、わけじゃないか」
産業を生む前に、
産業の芽を探す。
焦らず、だ。
俺は、もう一度畑の方を見る。
土の下では、じゃじゃ芋が育っている。
まだ、見えない。
だが、確実に。
この領地も、同じだ。
今はまだ、目に見える成果は少ない。
それでも――
「何もしていない、わけじゃない」
そう思えるだけ、前よりは、ずっとマシだった。




