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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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救助という名の線引き

机の上に、新しい紙が何枚も並べられていた。


表題に書いた言葉を、俺はもう一度見下ろす。


――救助行動指針(暫定)


「……暫定、か」


自分で書いておいて、苦笑する。

完成形なんて無い。現場で崩れ、修正され、血を吸って変わっていく。

それでも、今は“型”が必要だった。


俺は筆を走らせる。


一、救助対象の優先順位


・移動不能者

・子供、老人、重症者

・村単位で機能を失っている地域


「……全員、は無理だ」


言葉にせずとも、分かっている。

だが、書く事で現実になる。


二、救助方法


・即時移送が困難な場合、現地で数日分の食料を投下

・最低限の体力回復後、段階的に移送

・荷馬車、騎馬、人力を状況に応じて併用


レオンの報告が脳裏をよぎる。

“動かせない”という現実。


「連れて来る、じゃない。生きられる所まで運ぶ、だな」


三、救助拠点


・既存の三村を前線拠点とする

・拠点が飽和した場合、南町への直接移送

・拠点間の滞留を最小限に抑える


ここで一瞬、筆が止まった。


「……詰まったら、終わりだ」


人も物も、止まった瞬間に腐る。


四、現地判断権限


・救助隊指揮官に一定の裁量を与える

・救助の可否、撤退判断は現地優先

・後追いでの責任追及は行わない


これは、自分に向けた一文でもあった。


「……俺が、全部背負う」


そう書かずとも、意味は同じだ。



そこまで書いた所で、ノックが鳴った。


「入れ」


入って来たのは、グレゴールだった。

机の上の紙を見るなり、眉を寄せる。


「……“救助”に切り替えましたか」


「ああ」


隠す理由は無い。


「正直に言うと、遅かったと思ってる」


グレゴールは、しばらく黙ってから口を開いた。


「遅かったかどうかは、後でしか分かりません。ただ……これは」


指針の紙を指で軽く叩く。


「もう“内政”ではありませんな」


「分かってる」


隣領に踏み込む。人を動かす。

命の選別をする。


どれも、代行の権限を越えている。


「止めるか?」


俺がそう聞くと、グレゴールは静かに首を振った。


「いいえ。止めるなら、止めていました。ですが……覚悟は要ります」


「ああ」


短く答える。


「恨まれる。責められる。失敗すれば、死人が出る」


「それでも?」


「それでもだ」


助けを“待つ”段階は、もう終わった。


「……分かりました」


グレゴールは一礼した。


「商人筋、医療班、輸送手配。全てこちらで調整します。ただし——」


「ただし?」


「救助は、成功しても感謝されない事が多い」


その言葉に、俺は小さく笑った。


「今さらだな」


感謝が欲しくてやっている訳じゃない。

ただ——消える村を、これ以上見たくないだけだ。


グレゴールが部屋を出た後、俺はもう一度、指針を見た。


完璧じゃない。穴だらけだ。


それでも。


「……これで行く」


筆を置き、決断する。


この日、“保護”は正式に終わった。


そして、“救助”という名の——

戻れない仕事が、始まった。

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