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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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164/189

波紋は、遅れて届く

王都。


朝の執務室は、いつもと変わらぬ静けさに包まれていた。

高い天井。整然と並ぶ書類棚。

そして、机の上に積まれた各領地からの定期報告。


「……次」


政務官が淡々と書類を回す。


「東方諸領、今月分の税収報告です」


「ふむ」


老臣が文面に目を走らせ、眉をわずかに動かした。


「……減っているな」


「はい。ただし、大きな混乱の報告はありません」


それは事実だった。暴動。反乱。反旗。

どの報告にも、そうした言葉は一つも無い。


「隣領は?」


「人口流出が見られますが、“自発的移動”との事です」


「……自発的、か」


老臣は紙を置いた。


「奇妙だな」


「何か?」


「いや。数が合わん」


政務官は首を傾げる。


「人口が減り、税収が落ちている。

それ自体は珍しくない。だが——」


老臣は指で机を叩いた。


「“行き先”の報告が無い」


「行き先、ですか?」


「そうだ。人は消えん。移動するだけだ」


書類をめくる。


「だが、周辺領地の人口は増えていない。

王都にも、流民が溢れている様子は無い」


「……」


「では、どこへ行った?」


部屋に、短い沈黙が落ちた。




その頃、別の場所。


王都から少し離れた、中規模領地の領主館。


「……おかしい」


領主は、商人からの報告書を睨んでいた。


「最近、南からの商隊が減っている。

いや、正確には——“通過していない”」


「物資は?」


「来る」


側近が答える。


「ただし、向きが違います。

王都へではなく、東へ、北へ……」


「南には?」


「……ほとんど」


領主は、椅子に深く座り直した。


「南方の領主が、何かしているのか?」


「特に、公式な通達は」


「だが、商人は正直だ。金と安全がある方へ流れる」


領主は、地図を広げた。


線を引く。物資の流れ。人の流れ。


「……一点に、集まっているな」


側近が覗き込む。


「この領地は……」


「そうだ」


領主は、低く言った。


「最近、妙な噂がある」


「噂?」


「“困っている所に物が届く”“門を閉ざさない領地がある”——そんな話だ」


側近は、慎重に言葉を選ぶ。


「それは……善政では?」


「最初はな」


領主は、指で地図を叩いた。


「だが、善政は“目立たない”ものだ。

これは、目立ちすぎている」


人も、物も、噂も。


すべてが、そこを通っている。


「……王政は?」


「まだ、“混乱は無い”と言っています」


「ならば」


領主は、ゆっくりと立ち上がった。


「混乱が“見える形”になる前に、誰かが線を引く必要があるな」




同じ頃。


南町では、今日も荷馬車が入って来ていた。


疲れ切った人々。黙ったままの子供。

それを迎える兵と、役人。


エドワルドは、少し離れた場所から、その様子を見ていた。


「……来たか」


だが、確かに。


空気が、変わり始めている。


「エドワルド様」


グレゴールが、静かに声を掛ける。


「王都と、周辺領地からです。

“最近の状況”について、問い合わせが増えているそうです」


「そうか」


エドワルドは、目を逸らさずに答えた。


「まだ、“異変”の段階ですね」


「はい。ただし——」


「ただし?」


「勘の良い者ほど、早く気付きます」


エドワルドは、小さく息を吐いた。


「……問題ない」


「本当に?」


「もう、隠す気は無い」


助けた。動かした。流れを作った。


ならば、次は。


「聞かれたら、答える」


それだけだ。


南町の灯りが、また一つ増えた。


遠くで生まれた違和感は、

確実に——こちらへ向かって来ている。


だが、まだ。


今はまだ、“波紋”の段階だった。

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